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糖尿病治療からアルツハイマー病まで手がける医薬品業界の巨人「イーライリリー」の強さの秘密

2025.01.19

医薬品業界において、患者の生活の質(QOL)を大きく左右する革新的な治療薬を生み出すことは、企業の存続と成長を左右する最重要課題です。その中でも、イーライリリーは特に糖尿病領域や中枢神経領域をはじめとする分野で確固たる実績を築き上げてきました。

アルツハイマー型認知症治療薬、抗がん剤、自己免疫疾患の治療薬など多岐にわたるパイプラインを展開し、世界中の医療従事者や患者から高い評価を得ています。

創業140年以上という長い歴史を持ちながら、なお最先端の研究開発(R&D)に邁進し、株式市場においても有望な企業として期待を集めるイーライリリー。

今回の記事では歴史的背景、主力製品、研究開発への取り組み、そして株式市場での評価と今後の展望までを本記事では網羅的に解説します。

イーライリリーの歴史と歩み

イーライリリーの起源は、創業者であるイーライ・リリー大佐(Colonel Eli Lilly)が1876年に米国インディアナ州インディアナポリスに設立した小規模製薬会社にさかのぼります。南北戦争で北軍の将校を務めたリリー大佐は、当時まだ十分に確立されていなかった医薬品製造の品質管理に着目し、科学的手法と倫理観をもとに安全で効果的な薬を供給することを使命としました。

創業当初は主にカプセル薬を製造していましたが、1900年代初頭には血清療法の研究を進めたり、インスリンの大量生産法を開発したりと、先駆的な医薬品の開発に積極的に取り組んできました。1923年に世界初の商業用インスリン製剤「イソレット」を発売したことで、糖尿病治療に革命的な進歩をもたらし、多くの患者の命を救ったことが同社の飛躍的成長につながります。

第二次世界大戦後には、抗生物質(ペニシリン)の大量生産や新薬の開発に取り組むなど、様々な分野で存在感を強めていきました。1980年代に入ると遺伝子工学技術を導入し、組み換えヒトインスリンの開発を成功させ、再度糖尿病治療のリーディングカンパニーとしての地位を盤石なものにしています。その後も中枢神経系疾患やがん領域、免疫疾患領域へと守備範囲を拡大し、現在では世界中の研究所・工場でグローバルに活動する製薬大手企業へと成長を遂げました。

糖尿病治療薬からアルツハイマー治療薬まで:主力製品の強み

【糖尿病治療薬】

イーライリリーといえば、やはり糖尿病治療薬が最も有名です。インスリン製剤のパイオニア企業として、長年にわたり糖尿病領域でリーダー的存在感を示してきました。現在もさまざまなタイプのインスリン製剤や、GLP-1受容体作動薬(血糖値のコントロールに深く関与するホルモンである「GLP-1」の受容体を刺激するタイプの薬剤)をはじめとする経口・注射両方の糖尿病治療薬を展開しています。

代表的な製品としては、超速効型インスリンアナログの「ヒューマログ」や、持効型インスリンアナログの「バサグラール」などがあります。また近年、注目を集めているのが「マンジャロ」です。体重減少効果が期待できることから新たな治療選択肢として脚光を浴びており、今後さらに市場での存在感を高めていくと予想されます。

【中枢神経系疾患(アルツハイマー型認知症など)】

糖尿病に続き、中枢神経系疾患の領域もイーライリリーが注力している分野のひとつです。特にアルツハイマー型認知症は高齢社会において深刻な課題であり、近年は製薬企業の関心が一段と高まっています。イーライリリーは数十年にわたりアルツハイマー病の研究開発を続けており、その豊富な知見と技術を背景に新薬開発に挑戦し続けています。

認知症薬の研究開発は、臨床試験での成功が難しく、多くの企業が撤退を余儀なくされてきた分野であるなかで、イーライリリーは2024年7月にアルツハイマー病治療薬「ドナネマブ」がFDA(米国食品医薬品局)に承認されるなど、大きなブレイクスルーを実現しています。

【がん領域・免疫疾患領域】

がん領域や免疫疾患領域も、イーライリリーがグローバル市場で新たな価値創造に挑む重要分野です。抗がん剤としては乳がんや肺がん、大腸がんを対象とする製品を中心に、長年にわたり多くの医療機関で採用されてきました。免疫疾患では、特に関節リウマチやアトピー性皮膚炎など、患者数の多い疾患をターゲットとした抗炎症薬・生物学的製剤を開発・販売しており、自己免疫疾患の治療分野でも存在感を高めています。

株式市場での評価と成長性

イーライリリーの過去数年の株価推移を振り返ると、糖尿病治療薬の売上拡大に加え、新薬の開発進捗が相次いで好材料として評価され、株価は継続的に上昇を続けてきました。

特に、アルツハイマー病治療薬の臨床試験結果に関するニュースは株価を大きく動かす要因となっています。ポジティブな解析結果が出た際には株価が急騰することがあり、投資家からも大きな注目を集める分野です。もちろん、臨床試験で期待外れの結果が出た場合には一時的に大きく下落するリスクもあり、変動の激しい領域でもあります。

一方で糖尿病領域のビジネスは比較的安定しており、特に新しい作用機序の薬剤によるさらなる売上拡大や、肥満治療分野への進出などが株式市場の好感を得ています。肥満領域も世界的に患者数が増加しているため、新たな治療薬の開発に成功すれば市場規模は一層拡大すると考えられています。

また、同業他社とのM&Aの可能性や製品ライフサイクルの長期化など、投資家が注目すべきポイントは多岐にわたります。バイオ医薬品分野で圧倒的な技術力をもつ企業と提携を進める可能性や、他社の新薬開発会社を買収するシナリオもゼロではありません。

業績の推移

イーライリリーのここ数年の業績推移をみると、売上高は2019年の約223億ドルから2021年には約283億ドルへと順調に伸び、2022年も285億ドル超を維持しています。2023年には約341億ドル、2024年度の売上高予想は455億ドルを超えるという市場予測(コンセンサス)も出ており、全体的に右肩上がりの推移が期待されていると言えるでしょう。

一方、営業利益は2019年に50億ドル余りだったところから2020年には60億ドル強に到達。2021年には前年をわずかに下回る約59億ドルとなりましたが、2022年は71億ドル強まで回復しています。2023年の予想値は約65億ドルとやや減少が見込まれているものの、長期的にみれば研究開発投資や主要製品の成長が牽引しており、今後も堅調に推移していく可能性が高いと考えられます。

売上高の面では、糖尿病治療薬の新製品や既存ブランドの継続的な収益貢献に加え、アルツハイマー型認知症治療薬の開発進展への期待感が反映されていると考えられます。

特に2023年、2024年の急伸予測が示すように、肥満治療領域を含む新規適応の拡大やグローバル展開の加速などが大きな成長ドライバーとなるでしょう。

ただし、営業利益については研究開発(R&D)投資の増加や特許切れ製品の影響、為替変動などにより変動が大きく出やすい側面があります。

イーライリリーは長期的な成長を見据えて糖尿病領域や中枢神経領域だけでなく、がんや自己免疫疾患といった幅広い領域に積極投資を行っており、新薬が上市されるまでの開発費用が先行することから、利益率の振れ幅につながることも考慮すべきポイントです。

今後の課題

【特許切れへの対応】

長く医薬品開発を続けてきた老舗企業であるイーライリリーも、特許切れ問題は避けて通れません。ブロックバスター(年売上10億ドルを超える大型新薬)であるインスリン製剤や一部の中枢神経系薬剤が特許切れの時期を迎え、売上の減少が懸念される場面もあります。これに対処するためには、新薬の早期上市とジェネリック医薬品・バイオシミラーの参入に対抗する戦略が必須となります。

イーライリリーでは、高い収益力を維持するため、特許切れを迎える主力製品の後継となるような新薬開発に全力を注いでいます。医療現場での需要や患者の負担軽減を重視しながら、ブロックバスターに並ぶ新薬を生み出すことが今後のポイントとなるでしょう。

まとめと展望

創業140年以上の歴史を誇るイーライリリーは、糖尿病治療薬というコアビジネスを武器に、アルツハイマー型認知症をはじめとする中枢神経系疾患領域、がん領域、自己免疫疾患領域などへ守備範囲を広げてきました。その大きな原動力となっているのは、R&Dへの惜しみない投資と、オープンイノベーションによる新技術の取り込み、そして患者のニーズに即した製品開発を徹底する企業姿勢です。

加えて、肥満治療薬など新たな治療領域への進出は世界的にも大きなトレンドです。生活習慣病と密接に関係する肥満は患者数が急増しており、糖尿病治療薬と相乗効果を発揮する形で、イーライリリーには大きな事業拡大のチャンスがあります。こうした分野でのブロックバスター創出は、同社の業績を一層押し上げることが期待されます。

一方で、医薬品業界を取り巻く環境は厳しい薬価引き下げや競合他社の新薬登場、特許切れによるジェネリック・バイオシミラーの脅威など、多くのリスク要因が存在します。これらに対処するためには、研究開発力と共にグローバルでの生産・販売体制の強化、そして多様な製品ポートフォリオを保持することが肝要です。

イーライリリーは、米国のみならず欧州、アジア、中南米等の新興国市場へのアクセスを拡大することで、リスク分散と安定した収益基盤の確保を図っています。さらに、デジタル技術やAIを活用した創薬エコシステムの構築は、新薬開発の成功率を高め、新たな価値創出につながると見込まれます。

今後も糖尿病領域や中枢神経領域を中心に、グローバル企業としてさらなる発展を遂げることが期待されるイーライリリー。医薬品業界の巨人としての成功と、その裏にある絶え間ない研究開発への投資が今後どのように実を結ぶのか、引き続き注目が集まります。

【参考資料】
https://dm-net.co.jp/calendar/2011/016216.php
https://www.lilly.com/jp/

文/鈴木林太郎

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