アメリカのバイデン大統領が2025年1月3日、日本製鉄が計画していたUSスチールの買収を禁止する命令を発表したことを受け、同社は複数の訴訟を提起した。
そこで本稿は同社リリースを元に、その背景や争点を整理していく。
USスチール買収に対する介入の是正を求めて2件の訴訟を提起
日本製鉄、およびその完全子会社であるNippon Steel North America, Inc.(以下NSNA)と、United States Steel Corporation(以下USスチール)は、1月6日、日本製鉄によるUSスチールの買収(以下本買収)に対する不当介入の是正を求め、2件の訴訟を共同で提起した。
日本製鉄とUSスチールは、訴訟により、次の点を明らかにすると表明している。
・ バイデン大統領は、全米鉄鋼労働組合(Steel, Paper and Forestry, Rubber, Manufacturing, Energy, Allied Industrial and Service Workers International Union。以下、USW)の支持を得て、自身の政治的目的を達成するために法の支配を無視したこと。
・ バイデン大統領が政治的な目的で不適切な影響力を行使したことにより、対米外国投資委員会(以下、CFIUS)は、国家安全保障に焦点を当てた誠実な審査を実施せず、日本製鉄及びUSスチールから本買収を公正に審査される正当な機会を奪ったこと。
・ クリーブランド・クリフス社(以下、クリフス社)は、USW執行部と共謀し、米国鉄鋼市場を独占するための違法な企ての一環として、本買収の完了を阻止し、クリフス社以外の者によるUSスチールの買収を妨害するとともに、USスチールの競争力を毀損しようとしてきたこと。
提起した訴訟は以下の2件。
■1件目の訴訟
USスチール、日本製鉄及びNSNA(総称して、以下、申立人)は、バイデン大統領及びCFIUSによる、申立人が有する憲法上の適正手続及び法律上の権利の侵害、具体的には、本買収について、CFIUSは国家安全保障上の観点から行うべき適正手続きに基づく審査を行なわず、バイデン大統領が国家安全保障に無関係な政治的理由により、むしろ米国の国家安全保障を害することとなる本買収を阻止する大統領令(以下、本命令)を発出したことへの異議を述べる申立書(以下、申立書)を米国コロンビア特別区巡回区控訴裁判所(以下、裁判所)に提出した。
申立書は、裁判所に対し、違法なCFIUSの審査及びバイデン大統領の本命令を無効にし、申立人の適正手続の権利及びCFIUSの法的義務を満たす審査を改めて行うようCFIUSに命じることを求めている。
■2件目の訴訟
USスチール、日本製鉄及びNSNA(総称して、以下、原告)は、クリフス社、クリフス社 最高経営責任者(CEO)である Lourenco Goncalves 氏(以下、ゴンカルベスCEO)及びUSW会長の David McCall 氏(以下、マッコール会長)に対する訴状(以下、訴状)並びに仮差止め及び迅速審理を求める申立てを米国ペンシルバニア州西部地区連邦地方裁判所に提出した。
これらの被告は、重要な米国鉄鋼市場を独占するための違法な企ての一環として、クリフス社以外の者によるUSスチール買収を阻止するために、共謀して反競争的かつ組織的な違法活動を行った。訴状は、クリフス社、ゴンカルベスCEO及びマッコール会長がさらなる共謀的及び反競争的行為を行うことを防止するための差止命令、及び彼らの行為に対する多額の金銭的損害賠償を課すことを求めている。
日本製鉄およびUSスチールの見解
本買収プロセスの当初から、日本製鉄とUSスチールは、全ての関係者と誠実に向き合い、本買収が米国の国家安全保障を脅かすものではなく、むしろ強化するものであることを強調してきました。
すなわち、本買収は、米国鉄鋼業がある地域の再活性化、米国の鉄鋼サプライチェーンの強靭化、中国鉄鋼業の脅威への対抗に向けた米国鉄鋼業の強化をもたらします。日本製鉄は、USスチールの従業員、同社が事業を行う地域コミュニティ、及び米国鉄鋼業界全体の利益のために、USスチールを支え、成長させるために必要な投資を行うことができる唯一のパートナーです。
既にコミットしている27億ドルの投資の一環として、ペンシルバニア州モンバレー製鉄所に少なくとも10億ドル、インディアナ州ゲイリー製鉄所に約3億ドルの投資を行うことを決定しています。
本日申立てを行なった法的措置は、本買収完了時に1株あたり55ドルを受け取るUSスチールの株主を含むすべてのステークホルダーの利益のために、CFIUS審査への政治的介入、クリーブランド・クリフス社とUSWのマッコール会長による組織的な違法行為及び独占的な共謀のいずれにも屈することなく、本買収を完了させるという日本製鉄とUSスチールの変わらぬ決意を示しています。
日本製鉄とUSスチールは、本買収がUSスチールの未来を確かなものにするための最善の道であると強く信じており、この目標を達成するために、自らの法的権利を断固として守り抜きます。
関連情報
https://www.nipponsteel.com/index.html
構成/清水眞希