「ESG経営」という概念が岐路に立たされている。
環境(Environment)、社会(Society)、ガバナンス(Governance)の3つの要素を考慮しながら長期的な発展を目指すESG経営は、ほんの2、3年前であれば「あらゆる業種の企業が目指すべき概念」という具合に、ほぼ無条件に絶賛されていたはずだ。しかし今では、「果たしてESG経営は最適解なのか?」「企業・業種によっては、ESG経営はむしろ不適合ではないか?」ということが問題提起されているようだ。
特に中小企業では、ESG経営を実施したはいいもののそれを活かし切れていない場合が少なくないという。この記事では、フォーバル GDXリサーチ研究所が公表した調査を参考にしながら「ESG経営は中小企業に実利をもたらしているのか?」ということを考えていきたい。
「EGS経営」なるものを知っている経営者の割合
そもそも、日本の中小企業の中でESG経営なるもの自体を知っている企業はどれだけあるのだろうか?
まずはそのような疑問を思い浮かべる人は少なくないはずだが、これについてフォーバル GDXリサーチ研究所は全国1,077人の中小企業経営者を対象に調査を実施している。概要は以下の通り。
【アンケート概要】
・調査主体 :フォーバル GDXリサーチ研究所
・調査期間 :2024年9月9日~2024年10月11日
・調査対象者:全国の中小企業経営者
・調査方法 :ウェブでのアンケートを実施し、回答を分析
・有効回答数:1,077人
まずは1問目「あなたは「ESG経営」を知っていますか」という質問である。これには「知っており、他の人に説明できる」と回答した人が5.0%、「知っているが、説明できるほどではない」と回答した人が29.2%という結果になった。両回答を合計すると、全体の34.2%である。
そして、この「知っている」と答えた人に対しては「貴社では、ESG経営に取り組んでいますか」という質問も設けられている。実際に「取り組んでいる」と答えた人は31.8%、「取り組んでいないが、取り組みたいと思っている・取り組む予定である」と答えた人は41.6%。これを合計すると、回答者の7割以上になる。
だが、全体を俯瞰してみると中小企業経営者の間でESG経営が広く知られているわけではないということも見えてくる。そもそも、ESG経営について「知らない」と答えた人が全体の4割を占めており、これはESG経営が日本に定着した共有価値観というわけではまったくない事実が窺える。
取り組みを営業活動に活用できているか?
次に、上の回答で「ESG経営に取り組んでいる」と答えた人(117人)に対するアンケートである。
「ESG経営へ取り組むことによるプラスの影響(ビジネスチャンスの創出など)を感じていますか」という質問には、16.2%の人が「とても感じている」、53.0%の人が「やや感じている」と回答。7割近くの経営者がESG経営のもたらす好影響を感じ取っているようだ。
しかし、このようなアンケート結果も。「貴社ではESG経営への取り組みを営業活動に活用できていますか」という質問には、50.4%の人が「あまり活用できていない」と答えている。「まったく活用できていない」は18.8%である。
ESG経営に取り組むことで、会社経営そのものに素晴らしい影響を与える例は少なくないが、それを営業活動に活かせるかということになると話は若干ややこしくなってしまうようだ。
「ESG経営って何?」にどう対処するか
ここまで出した質問内容とそれに対する回答は、あくまでも一部を抜粋したものだ。
しかし、これだけでも日本における「中小企業とESG経営」の現状を、おぼろげながらも窺い知ることができる。ESG経営は確かに企業に対してプラスの影響力、プラスのイメージをもたらすことができるが、一方でESG経営そのものの知名度はまだ高くない。そして、何よりESG経営を営業活動に活用し切れていない企業が非常に多い点に注目すべきだろう。
それは、「ESG経営って何?」という顧客の疑問を解く作業と同一である。実際に自分たちの会社がどのようなESG経営を実施しているのか、またその経営が実社会にどのような影響を与えているのか。これを分かりやすく説明することは簡単ではない。
さらに、ここ最近では大企業や大手ブランドがESG経営の一部を見直すということも。その一例がスターバックスコーヒージャパンの「紙製ストローの廃止決定」である。
「ESG経営の中身」を熟考する時代に
「脱プラスチック」の具体例として、2020年から紙製ストローを提供していたスターバックスコーヒージャパン。しかし、今年2025年から植物由来のバイオマスプラスチック製ストローに切り替える予定を既に立てている。
このストロー素材の切り替えは、SNSでも大きな反響を呼んだ。「スタバの紙製ストローは口当たりや吸い心地が悪い」という評判が以前からあったからだ。環境負荷の軽減を謳って導入された紙製ストローは、しかしながら利用者に歓迎されていたわけではなかった。このように、環境(Environment)や社会(Society)に配慮して行われているはずの経営方針が、実際には「誰も望んでいなかった」ものになっていた……などという例は、スタバ以外にも複数あるはずだ。
今現在のフェーズは「とにかくESG経営を実施すれば好印象を得られる」のではなく、「ESG経営の中身を熟考する」というものではないか。
【参考】
〈中小企業のESG経営に関する実態調査 第1弾〉ESG経営を「知っている」中小企業のうちが「取り組んでいる」のは約3割という結果ESG経営を明確に理解している企業は1割にも満たないことが判明-PR TIMES
〈中小企業のESG経営に関する実態調査 2弾〉ESG経営へ取り組むことにプラスの影響を感じている企業は約7割 しかし実際はESG経営を営業活動に活用できていない企業が大多数-PR TIMES
文/澤田真一