廃棄物を産業廃棄物業者に渡して終わり…から「リデュース、リユース、リサイクル」へ
新しいモノが次々と生み出される現代。しかし、生み出した先に廃棄物が増えてしまえば、持続可能な社会の実現とは相反してしまう。これからの未来は、企業もサーキュラーエコノミー(循環経済、循環型経済)の視点を持つことが求められる。
空間デザインや内装施工、マンション・戸建住宅などのリフォーム事業などを行う三井デザインテック(代表取締役社長:村元祐介氏)は、『サーキュラーデザイン』という考え方のもと、循環のしやすさに配慮した設計・施工・制作サービスを行う「循環までを考えたデザイン」を構想している。今回は三井デザインテックのプレスセミナーが開催され、「三井デザインテックの考えるサーキュラーデザインの現在と未来」というテーマでトークセッションが行われた。
同社の取締役常務執行役員・飯田和男氏によると、特注家具などを制作している三井デザインテックは、これまで「資源循環の視点がほぼなかった」という。例えば、入居や現状復旧工事を行う際も、「すべて産業廃棄物業者さんに廃棄物としてお渡しして、ザッツオール(それで終わり)という時世でした」と振り返る。入居工事時には、家具などの梱包材も大量に使用するが、有料で産業廃棄物業者に引き取ってもらっていたという。
しかし現在はリサイクル素材を使用しており、「リデュース、リユース、リサイクルを意識したサーキュラーデザインについて加速していきたい」と語る。そのため、取引先でもあり “循環を前提とした社会の構築”を目指す株式会社モノファクトリーと共同し、循環型家具や新サービスに向けた取り組みをスタートしている。モノファクトリーは、リサイクル率99%を実現する廃棄物処理業者・株式会社ナカダイのグループ会社。資源循環コンサルティングや、不要なものをマテリアル(素材)として再解釈する商品企画やワークショップなどを行っている。
欧州のサーキュラーエコノミーを視察 「利用して終わる」から「資源に戻る」までをデザイン
トークショーでは、三井デザインテックのクリエイティブデザインセンター長・堀内健人さんと、デザインディレクターの田中映子さん、モノファクトリーの常務取締役・三上勇介氏が、「循環させるデザイン」「サーキュラーデザイン構想」について語った。堀内さんと田中さんは2024年6月に欧州へサーキュラー関連の視察に行っている。
モノファクトリーの常務取締役・三上勇介氏と三井デザインテックのデザインディレクターの田中映子さん、クリエイティブデザインセンター長・堀内健人さん(左から)
そもそも循環型社会を目指す背景として、脱酸素社会の実現が挙げられる。日本国内でも脱炭素に向けて、温室効果ガス排出量の開示義務化、経済産業省による木材活用促進(ウッドチェンジ)、カーボンプライシング、炭素税の検討なども取り上げられている。また環境省は「循環型社会形成推進基本計画」を発表。経産省も「成長志向型の資源自律経済戦略の概要」の中で、「サーキュラーエコノミー市場が2030年に80兆円、2050年には120兆円の市場規模になる」と示している。また国外では、オランダが2016年に「サーキュラーエコノミー宣言」を発表。「2050年までにサーキュラーエコノミーの完全な実現を目指す」と宣言している。
そんな中、三井デザインテックの親会社でもある三井不動産グループは、「グループ全体で温室効果ガス排出量を2030年までに40%削減する」という目標を打ち出した。
サーキュラーデザイン視察を行った堀内さんと田中さんは、実際に欧州で取り組まれている住宅の事例を説明。例えばデンマーク・コペンハーゲンの事例では、天窓メーカーが鉄道会社とディベロッパーと共同開発した「未来の住宅」を提案している。この取り組みでは、住宅の構造、外壁、屋根材などでCO2の排出の影響を検証し、一番良かったものをセレクト。従来の住宅の3分の1のCO2排出を実現した。これらの情報についても、190ページもあるような情報をPDFデータ化。QRコードからで無料で閲覧可能とし、オープンイノベーションな仕組みを取り入れている。
またオランダの家具メーカーは、オランダ政府が「サーキュラーエコノミー宣言」をしたことから、サーキュラーに特化した家具開発や素材開発をスタート。生態系を維持するために、家具工場の数倍の面積を誇る自然公園「グリーンフィールド」を作り、本業以外の取り組みも実施している。また、別のオランダの家具メーカーは古い家具に特殊な塗料を施すことで新しい家具として蘇らせ、ロングライフを実現している。こうした特殊な技術開発が欧州では盛んだという。
また脱炭素につながる仕組みとして、オランダのMADASTER社は建物のデータをエクセルなどでデータ化した資材バンクプラットフォームを開発。CO2の排出量や循環率、分解可能性など、建物のデータがMADASTERに登録される。その資材ひとつひとつにパスポートが発行され、建物の寿命を終えた後に資源が循環しやすく、2次活用が促進される仕組みとなっている。
実際に視察した田中さんは、「自治体の取り組みが活発で、官民一体となって取り組まれていることに刺激を受けました」と振り返る。「それを受け入れる市民のみなさんも、明るく美意識を持って解決していく。文化の啓蒙活動のように見えました。私はデザイン畑なので、“美意識を持って解決する”ところにすごく共感し、自分たちのヒントを得られました」と語った。堀内さんも「長年、デザイン領域は『資源から素材、建材、制作、施工』とあって、最後に利用者に届けるところまでの完了型デザインでした。つまり、“利用”で終わる。これからは、利用が終わった後の解体回収や、“さらに資源まで戻る”という再資源化、資源循環の領域もデザインとして考えないといけない。それがサーキュラーデザインです」と語った。
環境貢献度レベルや意識を定着させるアイコンでサーキュラーデザインを“見える化”
再資源化を専門領域とするモノファクトリーは、最適な利用方法や資源巡回、新たな使い方の創造、捨て方のデザインなどを提案している。これらのノウハウを三井デザインテックと交流しながら、サーキュラーデザインを取り入れた家具を準備していった。
実際に3年前の初期トライアルからデザインを担当している田中さんは、「初期のトライアルでは第1弾として家具を作りましたが、当時の着想はものすごくシンプルでした。『まずは全て再生材で作ってみたらどうか』『なるべく接着剤を使わない方がいいだろう』というところからスタートしています。今は情報量が増えていますが、その頃は再生材の情報が少なく手探りでしたし、今より原価も高かったです。まずは『現状を知る』というところが第一歩でした」と振り返った。「そもそも循環させる考え方や家具も含めて、私たちが正しい知識を持たない限り、正しい仕組みが出来ないと思うようになり、そこにかなり時間を費やしました」と語った。
初期に制作したECO FRIENDLY BENCHとCROSSOVER CHAIR
モノファクトリーの三上氏は、「『その製品が廃棄になった時にどういったことができるか』という視点で関わらせていただいた」と語る。
「木や金属やプラスチック、その素材が分からないとリサイクルしようがありません。そのため試作品などのサンプリングをお預かりして、それぞれの素材がどういったリサイクルに向いているのかを検証し、明確にしたものをフィードバックさせていただきました。リサイクルが難しい素材もあったのですが、リサイクルできなかったら、なぜ現時点でできないのかを説明しました。疑問の声やいろいろな質問がきて、すごく熱いトークを交わしたことを覚えています」
田中さんは初期トライアル時、「すべてのものを再生材で作る。接着剤を使わない」という着想から、サステナブルマテリアルを使用した家具を制作。中身のウレタンもリサイクル材となっている。また、「デザインの鮮度を高めて今一度長く使ってもらう」ことを目的に、既存のチェアのカラーを変えたデザイナーズチェアも制作。「デザインには寿命があるため、既存のデザインにアートをほどこし、改めて新しい価値を作れないか」と模索した。しかし「以前の作品は循環に関しての考慮、知識が足りなかった」と振り返る。そうした取り組みの中で、家具や材料の環境への貢献度(CO2発生率の低さ)をR1~R4、それ以下の5つのレベルに分けて考えるように。R1は【CO2発生率が低く環境への貢献度高い】もので、R2、R3、R4、それ以下になるほどCO2の発生率が高くなり環境貢献度は低くなる。
○環境貢献度レベル
・R1:アップサイクル、リユース、リペア
新しいものを生み出さずに、今あるものを修理し、生まれ変わらせていく=リサイクルレベルが高い
・R2:マテリアルリサイクル
材料を資源化して新しい材料として再びよみがえらせる
・R3:質の高いサーマルリサイクル
RPF、石灰などの化石燃料の代替品に生まれ変わる
・R4:サーマルリサイクル
燃焼時の熱エネルギーで発電。
・それ以下:単純焼却、埋立、管理埋立
田中さんは「CO2発生を避けるには、R1、R2をできるだけかなえていくことが大事。R1、R2であれば、『循環型の家具』として応えられます。最悪なのが埋立や管理埋立です。燃焼時にCO2が発生してしまいます」と説明。三井デザインテックの社内でも、こうした環境貢献度の考え方を定着させるために、7つのアイコンを作ったという。
○7つのアイコン
・地産
その土地の材料を採用する 輸入・輸出に関わる環境負荷を削減
・間伐材
木材を使うのであれば間伐材を視野に入れる。木々が成長し過密になる箇所の木々を適切に栽培し、地表に日光が届くようにする
・廃材
廃材を活用し新しい空間に活かす
・環境配慮
環境への負荷を最小限とした素材選定や生産工程 正しく理解する
・長く使おう
耐用年数の長いものを採用 次の改修時も使えるようなアイテムを選ぶ
・リサイクル
再循環。使ったものを原料に戻し、また再利用すること
・アップサイクル
本来であれば捨てられてしまうものに、デザインやアイデアで付加価値を与え、別のものにアップグレ―ドし、生まれ変わらせる
こうした7つのアイコンを通して、社内での意識を定着させていったという。そしてサーキュラーデザインを意識して制作された家具については、環境貢献度をR1、R2などのレベルで表し、家具のマテリアル属性を7つのアイコンで表示。社員の誰もがその家具について説明し、設計・施工時も理解できるように、「実際にどんな部分がサーキュラーデザインとしてかなっているか」をアイコンで“見える化”したのだ。
実際にサーキュラーデザインを意識して制作されたのは、以下の5つの家具。環境貢献度(リサイクルレベル)とマテリアル属性は次の通り(※一部、リサイクルレベル表記がない家具もあり)
・MINI BAR;冷蔵庫が収納されたもの
(リサイクルレベル:R2、R3、R4/マテリアル属性:リサイクル、廃材)
52%のCO2削減率
・NIGHT TABEL
(リサイクルレベル:R2、 R3、R4/マテリアル属性:リサイクル)
34%のCO2削減率
・BENCH SOFA
(リサイクルレベル:R2、R3、R4/マテリアル属性:リサイクル、アップサイクル、間伐材)
20%のCO2削減率
・ECO FRIENDLY BENCH
(リサイクルレベル:R2、R3、R4/マテリアル属性:リサイクル、アップサイクル、間伐材、長く使おう、地産)
・CROSSOVER CHAIR
(マテリアル属性:アップサイクル、長く使おう)
三上氏は、「現時点で考えられるリサイクル方法の中でも素晴らしい挑戦。モノもそうですが、モノよりも『CO2の排気』に着眼点を置いてデザインしていただいたというのが、事例としてはあまりないため、すごく先進的」と称賛した。一方で田名さんは、「従来の材料と比べると、やはり原価は大きい課題。我々はホテルやオフィスのデザインも提案していますので、長く強い家具でなければいけない。そのためには強度も必要です。流通や原価といった部分では、まだ課題があり検討を続けていきます」と語った。
2030年には「サーキュラーデザインがスタンダードになっている状態」を目指す
三井デザインテックは、「未来に向けた新サービス構想」として、今後は「CO2の削減のみならず、循環を考え配慮した設計・施工、サービスをスタートしたい」と考えている。堀内さんは、そのためのポイントを8つ挙げた。
○サーキュラーデザイン構想8つのポイント
0:ロングライフ
長く愛されるものを作る、直して長く使う。モノづくりの企業として「長く愛されるものを作る」ことが使命。大事にしていきたいポイントとして「1」ではなく「0」としている
1:Co2の削減量の数値化
環境への貢献度が分からないと消費者に選んでもらえない。環境への貢献度を分かりやすく数値化する。
2:循環しやすい
資源展開しやすく材料を設計に組み込む
3:分解しやすい
分解しづらいと余計なCo2が発生してしまうため、設計を考える
4:再利用剤(再生可能)
再利用材料を積極的に使用することでCO2削減、資源の有効活用を実現
5:認証材/推奨材
森林保全の考え方を積極的に組み込み、CO2発生量の少ないものを独自にリストアップ。それらの材料を推奨し使用する
6:国産材/国内生産
製造時・輸送時のCO2を削減
7:製品製剤/トレーサビリティ
部材の情報や組み立て方法などの製品情報を表示するプログラムを実装。所有者が循環プロセスにつなげやすい仕組みを作る
すでに24年に中古家具の買取サービスを一部スタートさせている三井デザインテック。今後25年中にサーキュラーデザインのファニチャーサービス、26年にサーキュラーデザインのインテリアサービスをスタートさせ、「2030年にはサーキュラーデザインがスタンダードになっている」という状態を目指すという。
空間づくりを通じて社会的な課題の解決に取り組みながら、サステナブルな社会の実現を目指す三井デザインテック。社会全体がよりウェルビーイングな状態で過ごすために、こうした企業の取り組みがますます必要とされてくるだろう。
取材・文/コティマム