業績が停滞気味だったディー・エヌ・エーに復活の兆しが見えてきました。
2024年10月30日にリリースした「Pokémon Trading Card Game Pocket(ポケポケ)」が1ヶ月半で6000万ダウンロードを突破。異例とも言えるヒットでゲーム事業の2024年10-12月の売上収益が250億円以上となる見通しとなりました。
任天堂との資本提携から10年近い年月を経ての大ヒット
「ポケポケ」はディー・エヌ・エーと、「ポケモンカードゲーム」のクリーチャーズが共同開発したゲーム。「ポケモンカードゲーム」をスマートフォンで楽しめるもので、アプリ内でカードのコレクションができるほか、通信対戦も可能。本物さながらの開封動作にこだわるなど、既存のファンに寄り添ったきめ細やかな作り込みを行ったことに特徴があります。
「ポケモンカードゲーム」は1996年に発売。1999年にアメリカに渡り、今や世界中で親しまれています。デジタル版は満を持してリリースされたもので、英語や中国語、ドイツ語、ポルトガル語など、様々な言語に対応。世界でヒットする下地を整えていました。
トレーディングカードは国内でも数少ない有望市場。2023年度は2774億円で、前年度比18.1%の増加でした(日本玩具協会「玩具市場規模データ」)。玩具市場はこの年に初めて1兆円規模に成長しましたが、市場伸長に一役買ったのがトレーディングカードでした。
※日本玩具協会「玩具市場規模データ」より筆者作成
コロナ禍によるデジタル化の進行、そしてトレーディングカードゲームの興隆が重なったタイミングで生まれたのが「ポケポケ」だったというわけです。
ディー・エヌ・エーは2015年3月に任天堂と資本業務提携を行い、出資を受け入れました。2024年9月末における任天堂の持株比率は12.35%で、創業者・南場智子氏に次ぐ大株主。
2020年にポケットモンスターシリーズのゲームソフトやアニメーション、映画などの販売、ライセンス管理を行う株式会社ポケモンと共同出資でDeNAデジタルプロダクションを設立。この会社は「ポケポケ」のヒットで社名をポケモンカード・ディー・スタジオに改めています。
ディー・エヌ・エーはゲームの大ヒットで逆転ホームランとも言える活躍を見せましたが、そこに至るまでの道のりは長いものだったと言えます。
好調だったライブストリーミング事業の成長が止まる…
近年のディー・エヌ・エーは苦戦していました。2024年3月期の売上高に当たる収益は前期比1.4%増の1367億円、282億円の営業損失(前期は42億円の営業利益)を計上しました。2013年3月期の収益は2000億円を超えていましたが、主にゲーム事業の停滞によって1300億円台まで縮小していました。
※決算短信より筆者作成
前期に大赤字となった要因の一つがIRIAMの買収で生じたのれんの減損損失。ディー・エヌ・エーは2021年にIRIAMの全株を120億円で取得しました。IRIAMは自分のイラストを動かしてVTuber配信ができるというもの。買収当時、IRIAMの純資産は10億円ほどで、巨額の買収にスタートアップ周辺では驚きの声があがっていました。
ディー・エヌ・エーはライブ配信アプリ「Pococha」を成功させており、ライブストリーミング事業の強化を図ろうとしていました。また、2022年6月にANYCOLORが新規上場していますが、当時はVTuber市場の盛り上がりにも期待が持てたのです。
しかし、IRIAMは2024年3月期の売上収益が前期の1.3倍となる68億円に増加したものの、14億円の事業損失を計上。3期連続での赤字となっています。
2024年3月期にIRIAMののれん90億円の減損損失を計上していることから、将来的に見込まれた収益が得られないと判断している様子がわかります。
ディー・エヌ・エーはこの期にライブ動画ストリーミングのSHOWROOM株式会社の投資損も出しています。
ディー・エヌ・エーはゲーム事業が低迷する代わりに、ライブストリーミング事業の成長期待がありましたが、それがストップしていました。
その局面で「ポケポケ」のヒットに恵まれたのです。
市場縮小が鮮明になる中で誕生した起爆剤
ディー・エヌ・エーによると、2024年10-12月におけるゲーム事業の売上収益は「250億円以上」。2024年7-9月は113億円でした。四半期の売上は2倍以上に急上昇する見込みです。
2024年3月期におけるゲーム事業の通期の売上は540億円。同等の金額を半期で稼ぐ計算。
しかも、ディー・エヌ・エーは前期においてのれんの減損損失や投資損の計上など、減益となる要因を取り除いていました。大幅な増益にも期待ができるのです。
株式市場も素直な反応を見せています。2024年12月30日は一時3214円の高値をつけました。ディー・エヌ・エーがゲーム事業の見通しを発表する前は、2695円で引けていました。更に「ポケポケ」の発売前は1000台後半での推移が長らく続いていたのです。
国内におけるモバイルゲーム市場は緩やかな縮小局面に入りました。ヒットする確率も低くなり、ゲーム会社は巨額の投資に対するリターンが得られないことから、プロジェクト数を見直し始めています。
見通しの悪い中でヒットした「ポケポケ」は、既存のモバイルゲームとは一線を画すもの。新機軸を打ち出したことが、世の中に受け入れられたもう一つの要因になっているのかもしれません。
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文/不破聡