マーケティング部から始まった「サステナビリティ活動」が会社全体の取り組みに
D: 『1チョコ for 1スマイル』をスタートしたきっかけや経緯を教えてください。
渡辺:08年当初はコーポレートコミュニケーション部ではなく、当時のマーケティング部の担当社員の1人が、カカオの国が抱えている問題を知り「何ができないか」と考えた企画でした。当時はSDGsという言葉もない時代でしたので、最初は森永製菓の「社会貢献活動の一環」として始まりました。実は『1チョコ for 1スマイル』は23年3月までマーケティング部が担当していたのです。
D:1人の社員さんから始まったのですね。どのように広がっていったのでしょうか。
渡辺:マーケティング部の担当者が提案し、上層部からの承認も経て実施し、現在まで続いています。以前マーケティング部に在籍していた植竹は、『1チョコ for 1スマイル』用の『ベイクドチョコ』を制作しました。これは日本の子どもたちと、ガーナなどカカオの国の子どもたちがメッセージ交換できるもので、商品“プラスα”として実施した特別期間のみの企画です。カカオの国は暑くてチョコレートが溶けてしまいますが、ベイクドチョコは焼きチョコなので溶けないチョコレート。暑くても溶けない商品を送りました。
D:メッセージを交換できるアイデアはどのように思いつきましたか。
植竹麻衣子さん(以下、植竹):私は22年と23年度に、『1チョコ for 1スマイル』をマーケティング部として担当しました。『1チョコ for 1スマイル』は08年から15年続いてきたプロジェクトですが、“遠い国”のことで私自身も現地に共感が持ちにくい。私でさえそうなので、お客様はより一層持ちにくいだろうなと思い、「心がつながるような企画をしたい」と思いました。特別期間の『ベイクドチョコ』では、QRコードから読みこんでメッセージを送れるようにしました。
当時、『1チョコ for 1スマイル』のホームページに掲載されていた写真も古く、きっとその時の子どもたちも、もう大人になっている。「今の子どもたちの顔を見てみたいな」と率直に思ったのがきっかけです。
D:反応はいかがでしたか。
植竹:ガーナとエクアドルのお子さんにお届けしました。支援パートナーの2団体を介して英語や現地の言葉を訳し、日本のメッセージも出力して持って行っていただきました。参加された方々はすごく心が通じ合っていました。「応援しています」というメッセージに対し、「支援ありがとう」「勉強がんばります」とやりとりがありました。
D:離れていても、チョコレートと共に気持ちが届けられるのはいいですね。
植竹:ただ会社としては、『1チョコ for 1スマイル』を15年間、「営業販促」に注力して取り組んでいました。「マーケティング担当が企画して店頭で展開する」「1個で1円寄付できるスキーム」で、営業主体として行ってきたのです。08年はSDGsの言葉もなく、児童労働もあまり知られていない時代。そこを“営業の商談の場”にあげて展開するのは難しかったです。
マーケティング部というと「売上・利益」は重要です。特別期間の『ベイクドチョコ』の企画もその部分では厳しい結果が出てしまい、指摘もありました。「思い」だけが先行して、会社・マーケティング部として「達成しなければいけない売上・利益」をまきこめなかったという反省はありました。「企画はよかったけれど数字は失敗だった」と。“売上に直結しにくいハードル”はありましたが、その中でもとにかく辞めずに続けてきました。
今はコーポレートコミュニケーション部として、「会社のサステナビリティ活動」として「企業価値向上につながる取り組み」として実施しています。「営業販促」ではなく、「企業価値向上につながる取り組み」という形で動いているので、限定商品がなくても、よりお客様に伝わるような情報発信ができていると思います。
渡辺:23年4月から『1チョコ for 1スマイル』の主幹部署がコーポレーションコミュニケーション部になったことは大きなターニングポイントです。
ガーナ渡航後からさらに高まった意識「いかに“自分ごと化”するか」
D:担当がコーポレートコミュニケーション部に変わったことで、会社全体としての活動に進化したのですね。
植竹:今年が『1チョコ for 1スマイル』第2フェーズの元年だと思っています。私と渡辺、小野は23年に実際にガーナを訪問しているのですが、1番の変化はガーナ訪問後から起こりました。
実際にガーナを訪問した渡辺さん、植竹さん、小野さん/写真提供:森永製菓株式会社
訪問後は渡辺を中心に社内セミナーも行い、みんなに声がけをしました。支援パートナーが撮った写真ばかりではなく、「顔を知っている社員」が実際に行ってきて撮った写真や、必死で呼びかける姿を見たからか、アンケートでは従業員の皆さんから反応もすごくありました。いかに「自分ごと化しますか」を問いかけてセミナーで話したので、全員がチョコレート業務に携わる人ではなくても、「自分の業務で何ができるか」「プライベートでも何ができるか」を書いてくれました。そこがすごく変わった点です。
渡辺:我々3人が社内セミナーをするだけでなく、その後も、ACE様やプラン様も支援についてお話をしてくださいました。従業員の皆さんが『1チョコ for 1スマイル』をする“タッチポイント”を増やせるように意識的に行い、オンラインもリアルも合わせて、それぞれ100人以上の出席がありました。「自分ごとにする」「自分たちごとにする」ために変わって来ています。セミナー以外にも、ガーナ渡航動画を社内イントラのムービーライブラリーにのせて発信していますが、こちらも100回以上再生されています。
会社として売上や利益も考えなければいけない中で、『1チョコ for 1スマイル』を企業価値向上につながる取り組みとして進めることにした森永製菓。記事中編では、カカオ生産国の現状や、渡辺さん、植竹さん、小野さんが実際にガーナへ渡航した際の様子などを紹介する。
取材・文/コティマム