インターネットで、「副業」「起業」「稼ぐ」といった言葉を組み合わせて検索すると、時折いかにもおいしい話が登場する。
例えば、
「好きなことをして月収100万円を達成した秘密を公開」
「手軽にフォロワーを増やして収入に結びつける方法」
「AIで自動化する収入アップの秘訣」
などなど。
読んでみると、説得力がそれなりにあり、話者はその世界では成功者として知られているようだ。
それで、「試しに、無料セミナーに参加してみようかな……」と思ったら要注意。もしかするとそれは「搾取ビジネス」かもしれないからだ。
大金を払っても得られるものがない、社長は特に注意
搾取ビジネスとは、お金を巻き上げて、有益な対価を与えない商法をいう。上での例で言うと、代金を振り込んで講座を学び、ツールを購入したところで、月収100万円も、フォロワー数増加も、AIによる収入アップも実現されない。厳密には刑法の詐欺にはあたらないが、そのギリギリのところ狙ってくるのが特徴だ。
こうした搾取ビジネスの危険性に警鐘を鳴らすのは、行政書士の服部真和氏。服部氏のもとには、こうした話に騙された経営者がたびたび相談に訪れるという。また、著書の『できる社長のお金の守り方 オイシイ話はなぜ稼げないのか』(秀和システム)の中でも、実例を交えながら、いかがわしい世界に踏み込まないコツを教えている。
今回は服部氏に、搾取ビジネスの実態と対策について話をうかがった。
――ご著書に「できる社長」とあえて書いているということは、社長の肩書を持つ人でも、あやしい話に引っかかる人は多いのですか?
「意外かもしれませんが、経営者による被害は多いですね。経営者は、特定の分野に秀でているから、起業する方が多いのです。例えば料理を作るのがとてもうまいから、飲食店を開業するとかですね。独立開業して間もない小さい会社や個人事業主だけでなく、支店を増やしている規模の大きな会社の社長でも、騙されるときは騙されます。
こうした経営者は、意外にも世情に疎い方が多いのです。特に新規事業を立ち上げるときは、よく騙されます。
例えば、全国で宿泊業が流行っています。物件を入手して、仲介サイトに載せるだけで、1日2万円とか入ってくるという話を聞いて、自分もやってみようかと思います。経営者向けのセミナーに参加して、いけそうと思ってしまう。
それで、セミナーの主催者にあっさり騙されてしまうのです」
経営者交流会などに紛れ込む
――身の回りで騙された社長さんをご存知ですか?
「いっぱいいます。新規事業のコンサルタントもしているので、相談に来た時点で既に騙されているとわかる人もいます。被害者になって、お金を取り返せないかという相談に来る人もいます。
最近多かったのはNFTがらみのものです。勧誘してくる人は、経営者交流会などに紛れ込んでいます。そこで知り合った経営者に、このキャラ画像は無名だけど、メディアなどと協力してコンテンツ展開して有名になると、期待を抱かせるのですね。
それで、今は無名なので1万円で買えるけど、将来は価値が跳ね上がって30万円とかには絶対なると言ってくるのです。
そうやって、お金を集めて、実際それでメディア展開すればいいのですが、何もやってくれない。NFTのマーケットプレイスを見ても、その画像の値段は上がるどころか、どんどん下がっていく。そうなって初めて騙されたって気づくのですよ」
――不動産投資でも似た話を聞きますね。そんなに儲かるなら、勧誘してくる当人が自分でやればいいのにと思いますが。
「まったくそうです。例えば、砂金堀りがゴールドラッシュの盛況で、砂金の場所がわかっていたら、自分で掘りに行きますよね。
そうはせず、あそこで砂金が掘れるからこのツルハシを買いなさいと言うのは、ツルハシのほうが儲かると知っているからです。
でも、騙されてしまう人は、そこに気づかない。
行政書士などの士業の業界でも似たような話はあって、開業初年度で1000万円稼げますとうたう高額な講座があります。でも、開業間もない人でも、簡単に初年度で1000万稼げる方法があるなら、そのビジネスモデルを自分たちだけでやって、従業員を増やしていった方が儲かるはずですよね?
要するに、講座をビジネスとしたほうが儲かるから、それをやっている。しかも、講座の内容も、役所に行ったら無料で配っている手引きと変わらないような酷いものもあります」
「徹底的にサポートします」と言って何もしない
――経営者だけでなく、副業を考えている人にも落とし穴が多そうですね。そういう人に対する注意点はありますか?
「SNSやYouTubeを活用して副業をなさる人は多いですが、無料セミナーなどで、フォロワー数や再生回数を上げる方法を教えるというふれこみで誘い、最後はマニュアルやコンサルティング、ツールなどを高額で売ってくるのも、あやしいところが多くて要注意です。
そして、最初は副業で始め、軌道に乗ったら会社を辞めて独立したいと考えている人。こういう方たちに向けた起業塾やセミナーは多いのですが、これも注意したいです。内容的には、書店で売っている関連図書やYoutubeなどで見れる内容とそう変わらない、高額な連続講座を何回か受けさせるのです。
こうした講座には、成功するまで徹底的にサポートしますというおまけがついています。実はこれがクセ者で、実際はまともなサポートはしないのです。最初に配った教材をしっかり習得しないから、そこをちゃんとやらないとなどと言って放置します」
――そうした講座を受講して成功した人はいるのでしょうか?
「ゼロではないでしょうけど、そこが落とし穴でもあります。例えば100人受講したら、3人くらい、元々成功できるポテンシャルを持っている人はいるでしょう?その少ない事例を、主催者は宣伝材料に使うのです。いかにも誰もが成功できるかのように。
そしてまた、その成功者とコラボしてセミナーをするのです。説得力がありますが、表に出てこない97%は失敗しているのです」
――インターネットの発達で、手口も巧妙化している印象ですが、引っかからないコツはありますか?
「インターネットでも出版物でも店舗でも、稼げるとか、儲かるという言葉を前面に出している時点で、もう黄色信号です。
また、オンラインサロン、無料セミナー、LINE公式への誘導など、明らかに囲い込みをしている構造だと思ったら、まずは疑ってみることです。もちろん、良心的であやしくないところもあるでしょうが……。
仮に大丈夫と感じて、無料セミナーに参加してみて、最後に強引なクロージングをかける類のものは注意してください。特にオンラインだと、あやしいと思ったら途中で退出ボタンを押せばいいのに、律儀に最後まで参加する方は少なくありません。ここは、勇気を出して退出しましょう」
主催者の実態を下調べするのは必須
──ご著書でも力説されていましたが、事前に調べるというのも大事ですよね。
「絶対に調べた方がいいです。主催者の氏名や団体名で実態や評判などをネット検索しましょう。手間はほとんどかからないのに、これをやらない方は少なくないです。ちょっと調べるだけで、知名度は表面的なものかも含め、おおよそのことは判明しますので。
あとは、主催者の話が、自身の利益につながるポジショントークばかりになっていないかもチェックします。例えば、私は、不動産やゲーム業界に関して法律相談を受けることがありますが、不動産やゲームで利益を得ているわけではないので、ポジショントークにはなりえません。こういう、相手が客観的で公平な話をする立場の人間かも判断材料になるわけです。
副業を考えている方なら、自分が興味ある分野なのでしょうから、ちょっとでも独学して最小限の知識を得ておくことです。そうすると、いっそう騙されにくくなりますので、手間でもやっておくことをすすめます。」
服部真和氏 プロフィール
1979年生まれ。京都府出身、中央大学法学部卒業。2009年に行政書士登録。現在、服部行政法務事務所、シドーコンサルティング株式会社、synclaw株式会社を経営。これまで 大企業を含め1500 を超える新規事業創出を支援。1000人を超える経営者から信頼を得てきた。著者に『できる社長の対人関係』(秀和システム)、『教養としての「行政法」入門』(日本実業出版社)など26冊。最新の著作は『できる社長のお金の守り方 オイシイ話はなぜ稼げないのか』(秀和システム)がある。
取材・文/鈴木拓也