2024年12月10日に、有名脱毛サロンの運営法人について破産手続開始決定がなされました。
脱毛については、数回分の施術料金を前払いするケースがよく見られます。
破産した上記脱毛サロンにおいても、すでに施術料金を前払いしていた利用者が多いと思われます(多くの報道では、債権者数は9万人以上に上ることが報じられています)。
料金を前払いしていたサービスの運営法人が破産した場合、支払った料金はどうなるのでしょうか。
1. 破産手続きの概要
破産手続きは、破産者の財産を換価処分した上で、債権者に配当することを目的としています。
破産手続開始決定がなされる際には、裁判所によって破産管財人が選任されます。
破産管財人は、まず破産者の財産を調べてリストアップします。そして、資産の売却や債権の回収などを通じて、債権者に対する配当の原資を確保します。
財産の換価処分が完了したら、残ったお金を債権者に配当します。ただし、債権全額を支払うお金はないので、全く配当が行われないか、または債権額のうち一部だけが支払われます。
配当がなされなかった債権については、支払いを受けることができません。
財産の換価処分の状況や、配当の見通しなどについては、「債権者集会」という場で破産管財人が債権者に対して説明します。
債権者であれば誰でも、債権者集会に参加して説明を聞き、質問をすることができます。
2. 脱毛サロンの運営法人が破産した場合、前払いしたお金は返ってくる?
一般論として、事業を行う法人が破産した場合、通常の債権に対してはほとんど配当が支払われないケースが大半です。
破産法のルール上、債権には優先順位が付けられています。
まず、担保権が設定された債権については、担保権の実行によって回収できるとされています。たとえば、破産者が所有する不動産を担保にとっている借入金などは、不動産の競売によって回収することができます。
無担保の債権の中で優先順位が高いのは、破産管財人の報酬、税金、社会保険料、従業員の給料などです。
一般の破産債権については、上記のような債権をすべて支払った後に、残額がある場合に限って配当がなされます。
大半の破産事件では、優先順位が高い債権すら全額支払うことができません。
したがって、一般の破産債権について十分な配当がなされる見込みはほとんどないのが実情です。
前払いした脱毛の施術料金は、施術が不能となった場合は返してもらう権利がありますが、返還請求権は特に優先順位が高くない一般の破産債権に当たります。
そのため、脱毛サロンの運営法人が破産した場合は、前払いした施術料金は返ってこない可能性が高いと思われます。
3. クレジットカード払いの場合は、引き落としを止められることがある
脱毛サロンの施術料金をクレジットカードで前払いしたものの、まだ引き落としがなされていない場合は、カード会社に対して「支払停止の抗弁」を主張できることがあります。
物やサービスをクレジットカードで購入した人は、販売業者に対して主張できる事由を、原則としてカード会社に対しても主張できます(割賦販売法30条の4)。これが「支払停止の抗弁」です。
運営法人が破産して脱毛の施術を受けられなかった場合、未施術分の料金は本来支払う必要がありません。
したがって、まだクレジットカードの引き落としが行われていない段階で、カード会社に対して支払停止の抗弁を主張すれば、引き落としを止めることができます。
ただし、支払総額が4万円未満の場合など、支払停止の抗弁が認められないケースもあるのでご注意ください。
参考:支払停止等の抗弁に関する手続きについて(ご案内)|一般社団法人日本クレジット協会
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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