2011年3月11日、突如として襲った東日本大震災。宮城県とともに、特に大きな被害を受けた福島県の双葉郡大熊町(以下、大熊町)は、東京電力福島第一原発発電所の1号機から4号機が立地している地域だ。
東日本大震災から13年目を迎えた今、大熊町では「ゼロからのまちづくり」が進んでいる。全町11,505人が町外への避難生活を余儀なくされた後、復興は進み、2022年には町の中心地区の避難指示が解除され、新しいにぎわいを生み出すための動きを加速させている。
今回は、福島県大熊町の復興の状況を巡るツアーに参加したレポートとして、ビジネスパーソン注目の情報を紹介する。
新たな町の可能性を引き出す企業支援施設
町民の避難指示の解除が最初になされたのは、震災から8年ほど経った2019年4月のこと。比較的線量が低かった大川原地区であった。そして次は2022年6月の、JR常磐線大野駅周辺の下野上地区となった。
それでも実際に大熊町に居住している人はまだ1,329名程度。大熊町としては、2027年までに人口を4,000人に増やすことを目標に挑戦している。
そんな大熊町の復興を支える存在が、若きベンチャー企業たちだ。大熊町では、震災後に廃校となった小学校の建物が「大熊インキュベーションセンター(通称 OIC)」として、2022年7月に生まれ変わった。そこへベンチャーが集い、新産業創出を狙っている。
インキュベーションセンターとは、「インキュベーション=孵化(ふか)」、つまり起業志望者や設立して間もないベンチャーの卵に対し、育成促進の場を提供することで、孵化させ、羽ばたかせることを目的とする施設の意味。具体的には、事業の創出や創業を支援するサービスや活動の拠点としてオープンした。
施設は旧町立大野小学校の校舎をそのまま利用する。入居企業が利用する貸しオフィスやコワーキングスペース、シェアオフィスのほか、フリースペースや会議室(要予約)については入居企業以外でも気軽に利用できるようになっている。
教室にある小学生用の机と椅子、保健室などかつての小学校の施設やモノをそのまま使っていることから、懐かしい気持ちにさせられる。ここで活動すれば、なんとなく“育成”されている感があり、まさにここから巣立っていく気持ちも芽生えそうだ。
“フルーツの町”大熊町復興を目指しキウイを育てるベンチャー
OIC入居企業の一つで、2023年創業の株式会社ReFruits(リフルーツ)は、かつて「フルーツ香るロマンの里」と呼ばれ、主に梨やキウイの生産で知られていた大熊町の復活に取り組むベンチャーだ。現在は、キウイを中心とする果樹の生産事業を行っている。
同社の代表取締役である原口拓也氏と共に創業した取締役の阿部翔太郎氏は、現在、慶應義塾大学法学部政治学科の4年生と若い。
阿部氏によれば、震災後、町内の果樹は除染作業のためほぼすべて伐採され、100年以上続いた伝統の果樹産業が停止してしまったという。大学に入学した2020年、環境省と連携して実施した大熊町の取材を通じて、「町民にとっての梨やキウイという存在は、決して産業としてだけではなく、四季を感じる大切な暮らしの一部であった」と感じた。
阿部氏は1本残らず伐採されてしまった現在の風景を寂しく思い、果樹の再生を目指し、キウイの栽培事業に取り組むことを決意した。
2023年の創業後、荒れ果てた2.5ヘクタールという広大な畑を整備。「キウイの国」と名付け、再生に取り組んでいる。肥料は地域資源循環を目指し、動物のふん尿、もみ殻や農作物のくずなどを使用。また、これまでの栽培方法に加えて、新たな技術も用いている。
2024年の春に植えたキウイの苗が収穫できる3年後が楽しみだ。今後は畑の拡大と収穫量増加も予定している。観光や就農への興味関心を引くためにも、農業体験の提供も考えているそうだ。