
2021年3月に全国で発売が開始された、ファミリーマートのオリジナルアパレルブランド「コンビニエンスウェア」。世界的デザイナー落合宏理さんとの共同開発により、品質とデザインにこだわった、さまざまなアイテムを展開している。
そのヒットはとどまることを知らず、2024年度は前年比130%超の売上130億円を突破。「コンビニエンスウェア」人気の火付け役となったラインソックス含むソックス類の販売数は、2025年2月末時点で2400万足を突破しているという。今年初めにはブランド初の福袋が発売されたことでも話題となり、今もその勢いは続いている。
今回は、ファミリーマートのコンビニエンスウェアシリーズを担当する株式会社ファミリーマート 商品本部CW・雑貨部 須貝健彦さんに、開発に至った経緯やヒットの要因、今後の展望についてお話を伺った。
*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
品質とデザイン性の高さを実現!「コンビニエンスウェア」が誕生した背景
ファミリーマートの定番になりつつある、コンビニエンスウェア。商品担当の須貝さんは、開発に至った背景についてこう話す。
「衣料品は今までも販売していましたが、どちらかというと緊急需要でご購入いただく商品がメインでした。緊急時だけではなく『目的買い』になっていただけるよう、品質とデザインにこだわった商品を作りたいと、落合さんと共同開発し『コンビニエンスウェア』のブランドが2021年にスタートしました」
当初はソックス、タオル、Tシャツといったベーシックな商品が多かったが、今ではジョガーパンツやジップアップジャケットなど、全身のトータルコーディネートが揃うまでラインナップが広がっている。
「ブランドの認知が高まったのは、ソックスがきっかけでした。中でも、ラインソックスはブランドを象徴するアイテムだと思っています。定番は、白ベースに緑と青のコーポレートカラーです。あとは、黒ベースのラインソックス、その時々に合わせたコラボレーション、さまざまなソックスをシーズンによって展開しています。それ以外にも、今治タオルハンカチやTシャツなども、売上としてはとても好調なアイテムです」
※店舗によっては取扱いのない商品や販売終了している商品もあります
今では全国展開されているコンビニエンスウェアだが、立ち上げ当初は少数の店舗でしか販売されていなかったという。
「2021年の3月に全国展開をしているんですが、いきなりコンビニエンスウェアのブランドを全国約1万6200店舗で立ち上げるのは、リスキーだと判断しました。そこで、2020年6月にまずは大阪府内の約150店舗でスタートし、順次エリアを拡大したんです。その後に関西の店舗へ拡大し、『いける』と判断してから、21年の3月に全国デビューを果たしました」
これまでにない取り組みに挑戦していくうえで、課題となるのがスピード感。須貝さんは、企画スタートからここまでブランド拡大できた理由についてこう話す。
「一緒にものづくりをしている落合さんをはじめ、親会社である伊藤忠商事、信頼できる取引先さまと一緒に毎週打ち合わせを重ねています。伊藤忠商事は繊維に強い会社で、ソックス、タオル、Tシャツなど、幅広いアイテムの背景を持っています。そういったところが、このスケール感にも対応いただける安心感につながりました」
コンビニの枠を飛び越えた粋な挑戦
コンビニで本格的な衣料品を販売する未知の挑戦に「果たしてこれがコンビニで受け入れられるのか」という不安があったと振り返る須貝さん。その上で、思い出深いアイテムについてこう話す。
「2023年の4月に立ち上げたショートパンツは、印象に残っています。Tシャツやブルゾンなども発売したんですが、ボトムはコンビニに売っていなかったんです。そこに挑戦して、本当に良いものができた時は売れる確信はあったんですが、想像の3倍以上のスピードで夏を迎える前に売り切れてしまったんです。そこから、新しいアイテムへのチャレンジがしやすくなりましたね」
コンビニの枠に囚われない取り組みとして、2023年11月にはファッションショーを開催。コンビニ業界では世界初となるファッションショーについて、須貝さんはこう話す。
「当時、コロナは少し落ちていていましたが、海外と比べると日本はまだコロナ前の元気が取り戻せていないと感じていました。そこで「日本を元気にしたい」という思いから、大きいイベントをやろうとなり、コンビニエンスウェアを中心としたプライベートブランドをお披露目する場を設けようとなったんです。そのなかのメインの企画として、ファッションショーを企画しました」
コンビニエンスストアが主催する初のファッションショーは、想像以上の反響を得たという。
「次の日の朝、テレビをつけたら、情報番組で取り上げていただいていました。驚いたのは、日本だけではなく、世界的にも注目されていたところです。身内だけの内輪的なファッションショーではなく、落合さんにプロデュースしていただいているので、ファッションショーとしてのクオリティが非常に高かったんです。メゾンブランドのトップの方に来ていただき、世界のメディアに取り上げていただくことは想像していなかったですね」
華やかなイベントが大成功した裏側には、表には見えない数々の苦労があったという。
「全社横断の企画だったので、さまざまな人とコミュニケーションを取る必要がありました。落合さんを中心に、その業界のプロの方も集結していました。一大プロジェクトとしてやっていたので、最初はファミリーマート側とプロの方との意見が噛み合わないのが大変で、『無事成功するのだろうか?』というところからのスタートでしたね」
イベントの成功要因について、須貝さんはこう振り返る。
「一番は『みんなの思いをどう具現化していくか』が、みんな一緒だったことです。正直、なかなか実現が難しいこともありましたが、どうやったらできるかを、それぞれが考えて実現にいたりました。その結果、みんなが同じ方向に向かったので、とても良いファッションショーになったと思います」
「売り場が一番のメディア」、コンビニだからこそできるマーケティング
コンビニエンスウェアのマーケティング戦略について、須貝さんは次のように話す。
「落合さんとよく話しているのは『売り場が一番のメディアだよね』ということ。例えば、春になったら春を感じるようなカラーのソックスを並べたり、秋になったら秋らしいカラーを入れたり。入ってすぐのとこに売り場が置かせていただいている以上、ちょっと気持ちが動くようなカラーやデザインを取り入れたいと考えています」
さらに、コンビニエンスウェアへの想いについてこう続ける。
「会社としても、コンビニエンスウェアを応援し、育てる意思があります。他のチェーンとの差別化も含めて、将来的にはコンビニエンスウェアがあるからファミリーマートに来ていただくようになればと思っています」
飛ぶ鳥を落とす勢いで業績を伸ばしているが、一大プロジェクト成功の裏にあった大切なマインドについて、須貝さんは次のように語る。
「コンビニエンスウェアは、落合さんを中心とするプロの方をはじめ、多くの方と進めているプロジェクトです。私1人では何もできないプロジェクトを、さまざまなプロの方と一緒に進めて、ここまで大きくなってきています。それぞれの方に対してリスペクトを持って接すること。当たり前ですが、それを大切にしていますね」
ヒットの要因は「品質の信頼を勝ち取れたから」
「安い」「高い」の二極化が進む小売業の中で、どのようにしてコンビニエンスウェアというジャンルを確立したのか。須貝さんはこう語る。
「価格だけではなく、その品質に対して価値が伴っているか、『コストパフォーマンス』は常に気にしていますね」
コストパフォーマンスを周知させる立役者となったのが、代表アイテムの一つである「ラインソックス」だったという。
「足底がパイル編みになっているのでクッション性があって、429円とは思えないほど品質が高いんです。そこで『デザインが気に入って買って履いてみたら、品質めちゃくちゃいいじゃん!』と思ってもらえたことで、品質の信頼を勝ち取れたところは大きかったなと思います」
最後に、須貝さんがコンビニエンスウェアの開発に携わって学んだことを話してくれた。
「新しいこと、誰もやったことないことをやるというのは、やはり難しさを感じます。ただ、やったことがないことを、かなり厳しいスケジュールで、いろいろな方の協力を仰ぎながら実行すると、想像を大きく超えるリターン、反響があるということは、とても学びのある部分でした。『やっていてよかった瞬間』が定期的にあるからこそ、やりがいを感じますね」
取材/DIME編集部 文/久我裕紀