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なぜ大ヒットしたのか?仏壇メーカーが手がける「推し壇」がオタクの心に刺さりまくった理由

2025.01.12

2023年9月、推しのための祭壇として発売された「推し壇」。心の平和と生きる力を支える「“推し”のための新しい祭壇」として、大きな話題を呼んでいる。実はこのヒット商品、商品開発に携わったことのない若手社員が、社内の公募企画に応募したことで誕生したものだった。

今回は、商品開発を担当した株式会社はせがわの郡司茉采さんに、開発に至った経緯とヒットの要因についてお話を伺った。

*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。

「大切な人と向き合える場所」を!開発担当者が推し壇に込めた想い

長年、仏壇・仏具業界を牽引してきた、はせがわ。「お仏壇のはせがわ」で広く知られているが、今回紹介する「推し壇」は、本物の神棚さながらの仕様を維持しつつ、祈る対象を「推し」として開発した斬新な商品だ。

商品開発を担当した郡司さんは、推し壇とお仏壇・神棚との共通点、さらには違いについて、次のように説明する。

「推し壇は『大切な方と向き合うことができる場所、祈りを捧げて何か願うことができる場所』として開発しました。大切な方と繋がれる場所という点ではお仏壇と通ずるものがありますし、信じるものを大切に祀る場所としては、お仏壇だけではなく神棚に通じるものもあります。異なる点としては、亡くなった方やご自身の宗教のご本尊様などの縛りがあるわけではなく、みなさま自身が大切に思っている対象と向き合えるところです」

推し壇に込めた想いと企画立案の理由について、郡司さんは次のように話す。

「はせがわは『心の平和と生きる力を自らと人々が実現する』ことを使命としています。そこで、今生きている方の心の平和と生きる力を支えている『推し』の存在に対して、何もアプローチできていない現状は怠慢ではないか?と考え、立案しました」

推し壇開発のきっかけとなったのは、社内の公募企画「チャレンジ企画」だったという。

「チャレンジ企画では、役職や年数に関係なく、いろいろな人が日々温めている『こうなったらいいな』『もっとこうしたらいいのに』といったアイデアを出し合います。商品開発だけでなく、社内で行われるイベントなど幅広い範囲が対象です。社員が考えていることを実現するべく、役員にプレゼンして予算を取り、実現まで舵取りを行います」

以前のチャレンジ企画では『釈迦シャカカイロ』といったユニークな商品が実現されたり、他部署の業務体験ができる社内インターンシップ制度が導入されたりしたという。老舗企業があえて新しい挑戦に挑む理由について、郡司さんは次のように話す。

「当社の業績は、コロナ以降、売上高純利益ともに堅調に推移しています。しかし、2020年3月期は営業赤字を計上した経験もありました。このことから、今まで通りのことを継続しても成長はおろか、業績確保が難しいという問題意識が根付いており、組織風土の改革が必要とされています。現在の代表取締役社長である新貝が社長就任したこともきっかけとなり、組織風土を新しくしようということで、さまざまな取り組みが始まっています」

祭壇を「推し色」に!オタク要素を詰め込んだこだわり

推し壇という斬新な企画を実現するにあたり、まず工夫したのが「推し」に関心のない上司へどうアプローチするか。「推し」は神様や仏様と同じぐらい“支えてくれる存在”だと伝えるために、プレゼン方法も工夫した。

「推し活市場の資料を持ってきて具体的な数字を提示したり、実際のオタクがどのような日常生活を送っているのかを伝えたりして、いろいろな方面から『推し活』を想像してもえるように考えながら資料を作りました。最初は、『推しというものがわからない』という雰囲気がありましたが、少しずつ理解してもらえるようになりましたね」

企画が通った後も、地道な努力が必要だったと郡司さんは振り返る。

「推し壇は商品が20色に光るLEDを使用しているんですが、そういったパーツをお仏壇屋は基本取り扱わないので、必要な部品をロットや価格に合わせて手配することがとても大変でした。展示会やお店に足を運んで『これ作れますか?』みたいなことを、片っ端から聞いて回る地味な解決策をとっていました」

自らも推し活をしていると話す郡司さん。推し壇には「オタク」と「はせがわ」ならではのこだわりを詰め込んだという。

「中に入れるものに合わせて高さが変えられるようにしたり、知人から『オタクの棚は物で埋まっているからスペースがないよ』と言われて急遽、壁にかけられるようにしたりしました。神社は細かいパーツの様子で男神か女神か分かるといわれていますが、推し壇は男と女ともとれるような装飾にして、飾る『推し』の性別を選ばないようにしています。あまり誰も気づいていませんが、とても『オタクっぽい工夫』です」

ヒットの要因は「はせがわっぽくないアピール」

約1万円と決して安くない価格設定ながら、ヒットの手応えを感じていたと話す郡司さん。一方で、高価格帯での「キャラ要素のない推し活グッズ」は少なく、参考にできるものが見つけられなかったという。その中で、なぜ推し壇がヒットしたのか、郡司さんは次のように語る。

「推し活に使っている金額のデータはまちまちで、カジュアルな層を中心に調べている推し活の調査であれば、推し活に使う金額は少なめに出るんですが、オタク向けのプラットフォームで取っているアンケートだと、とても大きく出るんです。どこを信頼して良いのかわからず、『みんなどこを信頼して商品開発しているんだろう』と考えていました。最終的には、どれだけディープなオタクに当てたいかで見分けていくといいのではないかと思います」

推し壇発売後に投稿したSNSでは、1万リポストを超える反応があった。当時フォロワーが14人しかいない公式アカウントから「バズる投稿」が生まれた理由について、郡司さんは以下のように分析する。

「正直、運が8割だと思います。一応、お客様が見ているであろう土日に投稿はしましたが、公式のSNSが伸びることは考えていませんでした。ただ、発売当日の夜に商品に関する記事が掲載予定だったので、その記事でみなさまに知っていただけるかなとは思っていました。推し壇と相性の良い、和風のキャラクターを推しているオタクの方がちょうど見つけてくださって、そのジャンルの中から内輪的にゆっくり広がり、夜に記事が上がったことが起爆剤となって1万ポストまでいったのかなと考えています」

SNSでのバズりは想定外だったと語る一方、推し壇を「仏壇を買わない世代」に届ける工夫は惜しまなかったという。

「意図的に行ったことは、はせがわが普段扱われることのないネット記事を中心としたメディアさんへの声かけです。狙っている顧客層に、クリティカルにヒットできるメディアを選択して、商品を売り込みました。それ以外にも、ショッピングセンターの店舗に推し壇を展示いただいたり、ショッピングセンターの中のキャラクターグッズ屋さんとコラボして置いていただいたり、現実世界とインターネットでの露出を並行して増やしていきました」

当事者だからこそできた、レッドオーシャン市場への突出

推し活経済が活性化し、各企業がこぞって推し活グッズを開発する中で、どのように売れる商品を作っていけばいいのか、郡司さんは今回の経験からこう語る。

「自分に推しがいることが大切になってくると思います。当事者として提案できる強みが、すごく大きい市場という印象です。大きなデータで商品を分析するのは確実な方法ですが、一つの商品開発で大きなデータを買って分析して……とできない会社も多いと思います。データはあくまでサブとして、自分の感覚で『絶対に必要な人いるよね』と確信を持って進める。いろいろな情報を今までの人生で蓄積してきた市場で戦えるところが、推しがいる人の強さだと思っています」

商品開発にいちから携わったのは、今回が初めてだったという郡司さん。すべてが勉強だったと語った上で、次のように続ける。

「一番大切だと感じたのは『人に聞く』ことです。この人はさすがに関係ないんじゃないかぐらいの距離の人まで、とりあえずコンタクトを取ってみること。片っ端から『私はこういうことをしようとしていて、とても困っているから誰か助けてほしい』と広められるだけ広めて、みんなに助けてもらえるような環境にしておくのが大切だと思います」

2024年9月には、徳川美術館とのコラボ商品も数量限定で発売されるなど、未だ勢いが留まることを知らない推し壇。最後に、今後の展望について郡司さんはこう話してくれた。

「今まで推し壇は『キャラクターの色がない商品』でしたが、今後は新しくキャラクターとコラボしていく方向で展開する機会があればと考えています。あとは、推し壇のように『供養にとらわれない、新しい祈りを提案する商品』を作ることができれば、後に続く商品として面白いのではないかと思っています」

取材/DIME編集部 文/久我裕紀

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