数理最適化をビジネスに活用しやすいテーマとは?
生活で数理最適化を実現することができれば、ビジネスにも応用したくなる。工場の生産性向上、物流の配送最適化などがよく事例として上がるが、他にはどんな分野が活用しやすいのだろうか。乾氏は次の2つを挙げる。
1.資源配分(人員配置)
「業務を進める上で、人的資源などの資源配分は欠かせません。例えばプロジェクトの担当者を決める際には、プロジェクトの工程や期間、必要な人数に応じて担当者を選ぶ必要があります。このとき、担当者のスキルや現在の業務負担(ワークロード)を考慮することが重要です。単に人数をそろえるだけでは不十分で、プロジェクトに必要な能力を持った人を割り当てる必要があります。また、他のプロジェクトと担当者を共有している場合は、調整が必要になることもあります。
このように資源配分には多くの要素を考慮しなければなりませんが、数理最適化を活用することで、これらの条件を満たした最適な配分を簡単に求めることができます。数理最適化は、複雑な資源配分を効率的かつ効果的に解決するための有用な手段です」
2.電力利用の効率化
「ビルでの電力の節約は、コスト削減に直結します。例えばエアコンの温度設定を調整したり、エレベーターの運行台数を減らしたり、照明の使用を最適化するなどの方法があります。これらの運用は、利用状況や重要度に応じて適切に管理する必要があります。
あまり寒くない日にはエアコンの使用を控えることで電力を節約できたり、利用者が少ない時間帯にはエレベーターを最小限の台数だけ運転することで効率を上げることが可能です。しかし、突発的なできごとや予想外の状況に対応する柔軟性も求められます。
センサーなどのデータと数理最適化を組み合わせれば、これらの調整を自動化し、利用者に不便を感じさせることなく効率的に電力を節約することができます。この方法は、快適性を維持しながら電力コストを削減する効果的な手段です」
各工場で年間約600時間の工数削減! ヨックモッククレアの事例
実際に、数理最適化によって工場の生産性を向上させ、年間約600時間の工数削減を実現した事例がある。それは、ヨックモックグループの中核企業として菓子製造を担う株式会社ヨックモッククレアの工場だ。
同社は年間約500種類の製品を生産しているが、その生産計画について、さまざまな制約条件や高度な要求に応えながら、頻繁な変更を行う必要がある。
そのため熟練の担当者の知識・経験に依存することによる属人化、後継者不足、ヒューマンエラー、他業務へのリソース不足などあらゆる課題が重なり、事態は深刻化していた。
そこでGurobi Optimizerを導入し、制約条件『納期遵守、期日前着手禁止等』と、目的関数『切替回数最小化、人員平準化等』を考慮した最適計画を求めるシステムを開発。
同ソリューションは最新のアルゴリズムやテクニックを徹底的に活用して設計・開発されているため、一般的なコンピューター上でも、実現可能解および最適解を速く見つけ出すという。
その結果、各工場で年間約600時間の工数削減につながるほどの業務効率化のほか、意思決定の迅速化、作業の標準化による属人化解消、精度向上によるヒューマンエラー排除、計画立案リードタイム短縮による柔軟性向上などさまざまな成果が得られた。
また、創出できたリソースは、原価管理といった戦略的業務に投入できるようになったという。
数理最適化は、従来の勘や経験を頼りにする時代とは一線を画する、強力な武器となり得るようだ。生活の中でも活かしつつ、親しめるようになれば、より現実の問題がクリアに見えてくるのではないだろうか。
取材・文/石原亜香利
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