昨今は円安による輸入コストの高騰や原油高の影響、さらには人手不足による人件費の高騰から、企業の生産コストが上昇している。また、ゼロゼロ融資返済の本格化により、収益性を取り戻せなかったゾンビ企業の相次ぐ倒産も懸念される。
こうした中、来年2025年以降で倒産の可能性が最も高い業種はいったい何だろうか?
AI与信管理サービスを提供するアラームボックスはこのほど、2023年12月1日~2024年11月30日の期間に収集された13,697社・225,595件のネット情報等から1年以内に倒産する危険性がある“要警戒企業”を分析・抽出し、「倒産危険度の高い上位10業種」の予測を発表した。
輸送用機械器具製造業で倒産危険度高まる、電気業や宿泊業も上位に
今回の調査では、倒産リスクが高い業種として輸送用機械器具製造業、各種商品小売業(百貨店・総合スーパー等)、農業が上位に挙げられた。
輸送用機械器具製造業では、半導体不足や海外企業との競争激化によりキャッシュフローが悪化し、赤字や債務超過に陥る企業が目立った。各種商品小売業では、地方の人口減少、大型商業施設との競争激化による経営不振情報が多くなった。
また、コロナ禍の補助金を不正受給した企業が複数見受けられ、この返済負担が経営をさらに圧迫する懸念も浮上している。農業では、飼料や燃料価格の高騰、気候変動が生産コストを押し上げ、業績悪化が進んでいる。
さらに、燃料価格の高騰は農業だけでなく、道路旅客運送業や道路貨物運送業など、燃料依存度の高い業種にも大きな影響を与えている。これらの業種は、4月の働き方改革関連法改正により、時間外労働規制の適用が始まることで人手不足が発生することが懸念される2024年問題に関連する業種でもあるため、倒産リスクが高まっている可能性がある。
調査結果詳細
1位 輸送用機械器具製造業…主な事業:自動車・鉄道・航空機・船舶および付属品の製造など
様々な企業規模の輸送用部品メーカーで赤字が続き債務超過に陥っているという情報が発生していた。また、災害や火災による工場停止が経営に深刻な悪影響を及ぼしている企業も見られた。
輸送用機械器具製造業では、設備や人材にかかるコストが高額である一方、半導体不足や海外企業との競争激化の影響による工場稼働率の低下が懸念されている。さらに、業界全体で認証試験における不正問題が発覚し、信用低下が広がっている。これらの状況は、企業のキャッシュフローを圧迫し、倒産に至る事例の増加につながっている。
2位 各種商品小売業…主な事業:百貨店、総合スーパーなど
前回の調査では3位だった各種商品小売業が、2位になった。百貨店や総合スーパーを運営する企業で、経営不振による倒産や事業再編の情報が散見された。特に、過剰債務によりグループ企業も含めて私的整理を行った企業の存在が、業種全体の倒産危険度が高まる結果となった。
昨今は、大型商業施設との競合や地方の人口減少があり、業況の厳しさがうかがえる。また、新型コロナウイルス関連の補助金を不正受給したという情報が複数発生していた。コロナ禍の外出控えにより、大きな影響を受けた業種のため、各種商品小売業に所属する企業の動向には今後も注意が必要だ。
3位 農業…主な事業:耕種農業、畜産農業、園芸サービス業など
耕種農業者や畜産農業者で倒産が散見されたほか、新興企業でも業績悪化の情報が見受けられた。飼料穀物の海外依存度の高さや燃料費高騰による生産コストの増加、気候変動による不安定な生産によって、倒産数が増加傾向にある。
また、気候変動や後継者不足に対応するため施設園芸や新技術による耕作を試みる企業もあるが、事業の特性上、施設の初期投資が大きくなるため、収益の確保がうまくいかなかった場合に借入金返済が間に合わず信用不安に陥っている例も見受けられた。
4位 職別工事業(設備工事を除く)…主な事業:とび工事、内装工事、塗装工事、鉄骨工事など
主に下請けとして内装工事や塗装工事を行う事業者に、倒産情報が発生していた。識別工事業は経営基盤がぜい弱な下請企業が多く、昨今の人件費や燃料費の高止まり、建築資材高騰の煽りを受けやすいことや、同業他社との価格競争が激しいことで事業採算性が低下したことが原因と考えられる。
また、倒産の予兆と見られる支払い遅延や連絡の不通、給与の未払い等の情報も見受けられた。これらの情報が業界内に広まることで、さらなる信用不安に繋がり、収益を悪化させる可能性がある。
5位 道路旅客運送業…主な事業:タクシー会社、バス会社など
タクシーやバスといった、自動車で旅客を運送する多くの企業が赤字や債務超過に陥っていた。働き方改革関連法の施行に伴う運転手の不足「2024年問題」に直面しているほか、燃料費高騰による運行コストの増加が課題となっている。特にコロナ禍の外出控えによって大きな影響を受けた観光バスやタクシーの運営会社は、政府支援によって延命しているゾンビ企業となっているケースもあるため、コロナ禍の支援策が終了した今後に注意が必要だ。
6位 電気業…主な事業:発電所、電力小売りなど
2016年の電力自由化により発電所を持たない新電力と呼ばれる電力小売り会社が多く台頭したが、近年は原油や液化天然ガスなどの燃料価格が高騰し、仕入価格が提供価格を上回ることで利益が確保できないため、多くの事業者が事業撤退や倒産に陥っていた。また、昨今は太陽光発電などの再生可能エネルギーへの注目度が高まっているが、安定した収益化には至っていない電力会社で信用不安情報が発生していた。
7位 道路貨物運送業…主な事業:宅配便、トラック運送など
主にトラックでの運送会社に倒産や支払い遅延の情報が発生していた。道路貨物運送業には下請企業が多く、もとより採算性が悪い企業も多いなか道路旅客運送業と同様に、働き方改革関連法の施行に伴うドライバーの不足「2024年問題」により、受注の減少や外注費の増加が生じている。さらに、燃料費の高騰といった外的要因も重なり、資金繰りに窮する企業等の倒産リスクが高まっている。
8位 総合工事業…主な事業:土木工事業、建築工事業、建築リフォーム工事業など
人件費や関連資材の高騰を理由とした建築コストの増加により、倒産や事業停止といった情報が多く発生していた。ファクタリングなどの短期的な資金調達を行ったものの、下請企業に対して工事代金を支払えていない企業も見受けられ、資金繰りが限界に近いことがわかる情報も散見された。
また、公共事業の入札において不正をしたとして、指名停止になっている事例が発生していた。公共事業を主力としている企業の場合、指名停止は経営に大きな影響を及ぼすため、本業種の企業と取引する際には、取引先の行政処分情報にも注意を払う必要がある。
9位 設備工事業…主な事業:電気工事業、管工事業など
電気工事や空調工事、太陽光パネルの取り付けを行う業者に破産や支払い遅延が発生していた。設備工事業は小規模の事業者が多く企業体力が頑強ではないため、人件費や資材価格の高止まりによる影響を受けたと考えられる。また、倒産に至る前の予兆として、工事代金の未払いについて裁判を起こされていることやHPがアクセス不能になっていることがわかった。これらの企業は倒産危険度が高いと言えるため、本業種の企業と取引する際には幅広い情報を収集し与信調査を行うことも重要だ。
10位 宿泊業…主な事業:旅館、ホテルなど
業績不振によって大幅な債務超過に陥っている宿泊業者が多く見られる。コロナ禍で大きく減少した需要は回復傾向にあるものの、財務状況の改善には至っていない企業が多いのが現状だ。
旅館やホテルは設備投資費の負担が重く、長年の経営不振により資金繰りが限界に達しているケースも散見される。特に、コロナ支援策が終了した今後は、補助金に頼って延命してきたゾンビ企業の倒産が増加すると予想される。
<調査概要>
調査期間:2023年12月1日~2024年11月30日
対象企業:アラームボックスでモニタリングしていた企業のうち、13,697社
対象データ:アラームボックスで配信されたアラーム情報225,595件
出典元:アラームボックス
構成/こじへい