今年はカシオにとって記念すべき50thアニバーサリー。世界初のオートカレンダー機能を搭載したデジタルウォッチ「カシオトロン」を発表したのは1974年の11月。以来、正確さ、軽量、薄型、など手にした人が快適に使えることを目指した進化を続け、50年の間、数多くの製品を世に送り出してきた。そんなカシオウォッチに近年、とある現象が起こっている。それが、ユーザーたちから“チープカシオ”の愛称で呼ばれるスタンダード カテゴリーのカシオウォッチの人気の高まり。その現象の裏にいったい何があるのか、カシオ 時計統轄部ブランドマーケティング部の轟 理絵さんにインタビュー。そもそも、チープカシオって、いったいどんな腕時計なの?
SNSで話題の♯チープカシオ って、どんな腕時計?
@DIME チープカシオの呼び名をSNSやネット上で目にしますが、いったいどんな時計なのでしょう。
轟さん チープカシオ、略してチプカシとも呼ばれているのですが、ラインナップとしては「カシオコレクション」「カシオクラシック」の名称で販売する商品群です。ただ、チープカシオという言葉自体はユーザーの方たちから呼ばれている愛称なようなもので、カシオ自らが、社内でも、公にも使う言葉ではないのです。
@DIME 「カシオコレクション」「カシオクラシック」は、それぞれどんなコレクションなのでしょう。
轟さん 「カシオコレクション」はより幅広いユーザーに向けて実用性や機能性を重視した商品群で、中には30年以上続いているロングセラーもあります。「カシオクラシック」は実用性を備えながらも、ファッションアイテムとしても選んでいただけるよう、カラーリングもブラックだけではなく、ホワイトやゴールド、ビビットカラーなど魅力のあるものを展開しています。
どちらのコレクションも、大切なポイントになっているのが価格で、上は1万円を超えるものもありますが、最も低価格なものは2000円台と、手頃で求めやすい価格帯になっています。
【カシオコレクション】
左から
A168WA-1A2WJR ¥3,300
F-91W-1JH ¥2,200
MQ-24-7B2LLJH ¥2,200
【カシオクラシック】
左から
LF-20W-8A2JF ¥4,400
CA-53WF-8BJF ¥3,300
AQ-800E-1AJF ¥6,600
LA670WGA-1JF ¥5,170
@DIME そこから“チープカシオ“の愛称が……。ところで、いつごろから、そう呼ばれるようになったのでしょう。
轟さん 2000年代後半に入った頃から呼ばれるようになり、2010年くらいからSNS上で見られる頻度が増えてきたようです。実は私、入社8年目なのですが、大学生だった2015~6年の頃には、自分自身も使っていました。
「可愛くて、軽く着けやすいので大学生の頃から愛用していました」
@DIME 学生さんとか若い方にも購入しやすい価格ということですね。しかし、「チープ」というワードについて社内にはネガティブな印象と受け取る方もいたのでは?
轟さん そうですね、当初はいろんな声があったと先輩たちから聞いてはいます。でも、「安いけれどいいもの」という捉え方をされているのは悪いとは思っていなくて、カシオのいいところをキャッチーな言葉で表現していただけている、と考えています。
認知度も販売実績も急成長の理由を分析
@DIME キャッチーな愛称もあって認知度も上がっているわけですが、販売実績は数字に現れていますでしょうか。
轟さん 継続的に好調です。とくに2021年から売上げは毎年前年を超える成長を見せており、直近では二桁の伸びを記録しています。
@DIME 人気の背景には何があるとお考えでしょう。
轟さん いくつか要素はあるのですが、若い世代に広がっているレトロブームは大きいと思います。チープカシオの愛称で呼ばれている製品の中には、源流を辿れば、1980~1990年代に生まれ、以来ずっと続いているロングセラーモデルが数多くあります。
たとえば、こちらの2本(写真下)は、カシオのデジタル時計の特徴的な八角形のデザインを継承しているモデルです。正面からだと、どちらも同じスタイルのフェイスをしているのですが、側面から見ると厚みの違いが分かります。右の最新モデルは薄手で、手首への着装感がとてもよくなっています。
左/A168WA-1A2WJR ¥3,300
右/ABL-100WE-1AJF ¥11,000
一方、左のモデルは1995年の発売当時のデザインから変わっておらず、厚みがありケースのメタル面が多くなっていることで、こういったデザインがお好きな方、厚みのあることで醸し出される無骨さに心惹かれる方もいらっしゃいます。
当社の80年代初頭のカタログには、堅牢で無骨な雰囲気のある製品を見ることができます。厚みのあるモデルは、その流れを汲むデザインともいえます。
@DIME 若い世代にとってはレトロですが、彼らの父親世代にとっては愛着の湧く要素が詰まっているというわけですね。
時計の本場ヨーロッパで人気の高いゴールドのデジタル腕時計
@DIME ところで、カシオ製品はグローバルな展開をなさっています。チープカシオと呼ばれる製品の海外での反応はいかがでしょう。
轟さん おかげさまでグローバルでも売上げは好調です。今日、私は、今年のトレンドカラーでもあるレトロなゴールドの腕時計を着けていますが、実は、カシオにとって、こういったメタル系のデジタルの腕時計は、ヨーロッパが最も大きな市場となっています。ヨーロッパには流行に関わりなく、ゴールドやシルバーのクラシカルなテイストを大切にする文化があるからだと思います。
左/LA680WEGV-9AJF ¥8,800
右/A158WEGV-9AJF ¥8,800
@DIME ヨーロッパといえばスイス時計など、時計の本場をいうイメージがありますが。
轟さん スイス時計のような高額なものをご愛用していても、カジュアルなシーンではカシオを着けるといった方も多くいらっしゃいます。たとえば。同じゴールドのクラシックな趣の時計でも、カシオのデジタル表示は一線を画すようで、アナログの高級時計とはテイストの違うレトロ感を楽しんでいるようです。
“求めやすい価格”実現のための企業努力が続けられている
@DIME 日本とヨーロッパでの人気の背景、とても興味深いお話でした。とはいえ、やはり、人気の大きな理由に手頃な価格があると思います。
轟さん 私たちが目指しているのは、毎日、快適に使える腕時計です。時刻表示の視認性の良さ、軽量化によって着用感の良さを高めるなど、常にさまざまな機能の充実を図っています。
そのための開発に余念がないのですが、基本的に「カシオコレクション」「カシオクラシック」の製品を開発するときには、最初に、このモデルは4,000円でとか5,000円でとか、販売価格の設定をします。その価格がブレないようにするために、材料コストの交渉を積み重ねたり、部品の数を必要最低限にするなど、各部門での調整が行われます。その上で、最終的には見栄えが高く見える仕様で完成させることを目指しています。
@DIME チープカシオのヒットの裏側にある企業努力を応援したい気持ちになってきます。
♯チープカシオ 2024年のヒットモデルはこれ!
@DIME では、ここでカシオ50thアニバーサリーである今年、多くのチープカシオファンに支持されたヒットモデルを教えていただけますでしょうか
轟さん 先ほど厚みの比較でご覧いただいた2本のうちの薄型の方。カシオで30年ほど続いているデジタル時計A168WA-1A2WJRのヴァージョンアップしたモデルを夏に発表しましたが、現在も多くの方から注目を集めています。
Bluetoothを搭載していて、歩数計やスマートフォンと連動させた時刻修正の機能が付いています。スマートウオッチは多機能過ぎて使いこなせない、という方でも気軽に毎日使いこなせるので、Bluetooth入門モデルとしてもおすすめです。
左/ABL-100WE-1AJF ¥11,000
右/ABL-100WEG-9AJF ¥13,750
ミニマルなフェイスと、日々のコーディネイトのアクセントになるポップでキャッチーなカラーとで、女性からご好評を得ているのがこちらのモデルです。これもロングセラーモデルの素材をアップデートしたもので、バンド部分にバイオマス(トウモロコシなどの植物由来の材料)のプラスチックを採用。また、軽量で付け心地がいいことが、私もとても気に入っています。
左から
MQ-24B-9BJF ¥4,400
MQ-24B-3BJF ¥4,400
F-91WB-7AJF ¥4,400
F-91WB-2A1JF ¥4,400
@DIME レトロで可愛いだけでなく、機能面も確実に進化している。その上でのヒットなのですね。
最後に、これから目指すことを教えてください。
轟さん スマホ世代の若い方たちにも腕時計を気軽に楽しめる文化を作っていきたいと考えています。その施策のひとつとして、今年は、若い世代に人気のファッションブランドとのコラボレーション企画に取り組みました。
左/Café Kitsunéコラボレーションモデル sold out
中央と右/A.P.C.コラボレーションモデル sold out
また、50年の歩みをもつカシオウォッチの柱のひとつに、サステナブルに繋がる取り組みがあります。
バイオマスプラスチックのベルトのように、環境に優しい素材を採用するだけでなく、機能面ではソーラー時計の開発を進めています。これは、太陽電池による充電で電池切れをすることなく駆動させるシステム(2001年に発表)で、廃棄電池を出さないことで環境に対する負担を減らすことを目的としています。
近い将来、「カシオコレクション」「カシオクラシック」の”メタリック素材”のモデルからも、ソーラー時計が誕生することを目指して研究を続けています。
@DIME 電池交換のいらない、環境に優しいチープカシオということですね。その発表を心待ちにしております。本日はどうもありがとうございました。
取材・文/堀 けいこ 撮影/黒石あみ