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【ヒット商品開発秘話】シリーズ累計販売数10万本を突破したワークマンの着るサポーター「XBooster」

2024.12.25

■連載/ヒット商品開発秘話

腰痛がつらい時に使うアイテムといえばサポーターやコルセット。ただ、つけたり外したりするのが面倒だ。外さないと着替えができないし、着替えたらつけ直さないとならない。

パッと見は普通のパンツながら腰をしっかり固定してくれることから「着るサポーター」と呼ばれ、大きな支持を集めているアイテムがある。ワークマンが2024年4月に発売した『XBooster(エックスブースター)』シリーズのことである。

『XBooster』シリーズはこれまでに、「XBoosterアシストワークパンツ(以下、ワークパンツ)」「XBoosterアシストストレッチパンツ(同、ストレッチパンツ)」「XBoosterアシストウォームパンツ(同、ウォームパンツ)」を発売。2023年2月に同社内に設立した快適ワーク研究所が開発したもので、独自のウエストアシスト機能により腰への負担を軽減する。腰に負担のかかる仕事をする時だけではなく、腰が痛い時の普段着、姿勢がプレイに影響するゴルフ時にも最適だ。これまでにシリーズ累計10万本以上を販売している。

XBoosterアシストワークパンツ。タック入りのチノパンタイプで本体が綿混(ポリエステル65%・綿35%)素材により着心地も良い。カラーは写真のミックスネイビーのほかベージュ、ブラックの3色で展開している。サイズはM・L・LL・3L(ブラックのみS・4Lもあり)

XBoosterアシストストレッチパンツ。本体素材がポリエステル90%・ポリウレタン10%とストレッチ性に優れる。カラーは写真のブラックのほかミックスネイビー、サンドベージュの3色で展開している。サイズはM・L・LL・3L(ブラックのみS・4Lもあり)

サポーターよりも楽に使えるものを追求

開発を担った快適ワーク研究所は、労働寿命を伸ばす製品を専門機関や企業、大学などと共同開発するコラボ推進組織。『XBooster』シリーズは発売の1年ほど前から開発が始まった。

開発の背景にあったのは少子高齢化に伴い労働者の高齢化が進んできていること。年を取るにつれて痛みを自覚する人が多くなることをアンケート調査などから把握していた同社であったが、『XBooster』シリーズの開発を担当した製品開発1部 マネジャーの土井健太郎氏は次のように話す。

「私も腰にサポーターを装着していたことがあったのですが、トイレの際は外さなければならないなど面倒臭いんです。サポーターよりも楽に使うことができ仕事の助けになるものを追求していったら、現在の形になりました」

ワークマン
製品開発1部 マネジャー
土井健太郎氏

開発には協力してくれるパートナーが不可欠。サポーター、コルセット、アシストスーツなどを開発・製造・販売するダイヤ工業(岡山市)が協力してくれることになったが、パートナー探しは難航し5か月近く要した。

ダイヤ工業は医療用やスポーツ用のサポーターでシェア60%を持つ業界のトップ企業。動作解析ができるモーションキャプチャーや筋肉の活動量を計測する筋電計といった設備も充実していた点が、同社には魅力的に映った。

まずつくることにしたのは、ストレッチパンツとワークパンツの2本。ワークパンツは建築現場などでの作業時に着用してもらうことをイメージしたもので、ストレッチパンツは立ち仕事が多い接客などのサービス業や普段着で着用してもらうことをイメージした。

どちらも価格は1900円と低価格だが、売価は最初に決めたという。良さを知ってもらうには買ってもらいやすい手頃な価格が重要になると判断したことから、機能性がありつつも低価格で販売することにした。

XBoosterアシストストレッチパンツを着用しての作業のイメージ

エビデンスとして活用した3つの実験結果

『XBooster』シリーズが採用している独自のウエストアシスト機能には、滑車の原理が生かされている。後ろで交差した2本のブースターベルトに滑車の構造を応用しており、軽い力でベルト前に引き出せば骨盤周辺を十分に締め付けることができるようになっている。ダイヤ工業のアドバイスを元に考案された。

後ろで交差した2本のブースターベルト。滑車の構造を応用したことで、軽い力で腰を強く締め上げることができる

パンツの両サイドにある補助ベルト(ウエスト部の面ファスナーの左右に固定されているベルト)を引いて体にフィットさせてからブースターベルトをギュッと前に引く。ベルトとウエスト部には面ファスナーが配されており、前に引いたブースターベルトは面ファスナーに固定する。この一連の動作がやりやすくなるよう、ベルトループは上が簡単に外せるようになっている。

ブースターベルトを前に引いたところ。ボタン留めされているベルトループは事前に外しておく。サイズにあったものを着用し、ブースターベルトを手前に引く前に左右両サイドの補助ベルトを締めると腰が締まり安定する

ブースターベルトを前に引き終えたら、右のベルトをウエスト部の面ファスナーに固定

左のベルトはウエスト部の面ファスナーに固定した右のベルトの上に面ファスナーで固定

問題は医療機器と謳えないこと。土井氏は「エビデンスを示すのが本当に大変でした」と振り返り、次のように明かす。

「医療機器ではないので『腰痛予防』『腰痛対策』といった文言が使えません。体感していただいたら良さは実感してもらえるのですが、良さをどうやって具体的な数字で示していけばいいのかで悩みました」

そこで同社は、モニターに『XBooter』シリーズをはいてもらい、重いものを持ってもらったり歩いてもらったりといった実験を行なってデータを収集することにした。実験ではダイヤ工業の充実した設備をフル活用したが、どういうデータを集めればいいのかは同社もダイヤ工業もわからず、ありとあらゆる実験を行なって腰痛持ちの人が使うと効果があることを示せそうなデータを探すことにした。

実験に協力したモニターは10名以上で要した期間は3か月。「まさか、これほどかかるとは思ってもいませんでした。もっと簡単に集まるものだと考え違いをしていました」と土井氏は振り返るが、効果があることを伝えられるデータを3つ得ることができた。

第1のデータは広背筋の筋活動量。着用前と比べて着用後は12.3%低減(荷重15kgの場合)することが実験からわかった。

広背筋は胸郭(胸椎、肋骨、胸骨で囲われたあたり)下部から腰まで広がる背中の筋肉。筋活動量が減ると重いものを持ち上げる時に必要となる力が小さく済む。つまり、はくと腰にまで至る広背筋がアシストされた状態になり、腰への負担を軽減することができる。

第2のデータは腰のひねり左右差(骨盤回旋角度)。着用すると25%軽減されることがわかった。

人間の骨盤は左右どちらかが前に出ていることが多い。普段からねじれている状態でひねったりすると腰に痛みをもたらすが、着用するとひねりの大きさが小さくなり腰に負担がかかりにくくなる。

そして第3のデータは歩幅。歩幅が狭いと腰痛になりやすい傾向があるが、着用すると最大で4.8cmアップすることが実験から確認されている。

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