生成AIの急速な進化によって、自動化され消失すると言われている業務が多くあります。加速する少子高齢化によって、人手不足から生成AIを業務に取り入れる企業も増えています。このままでは自分の仕事はAIにとってかわられるのでは? そんな不安への答えのひとつと言われているのが「リスキリング」。
日本初のリスキリングに特化した非営利団体を設立した後藤宗明さんは、リスキリングとは失業なき成長産業への労働移動、すなわち新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、新しい業務や職業に就くことだと言います。
とはいえ、成長産業への労働移動は簡単なことではありません。働き手として必要とされるために何をいつ、どのように進めるべきなのか。将来の選択肢を増やすために、どう変わればよいのでしょう。
そこで、今回は後藤さんの著書『中高年リスキリング これからも必要とされる働き方を手にいれる』から、リスキリングは自分への投資、最大限のリターンを得るために必要な5つの投資をご紹介します。これらの投資は40代で始めることが重要。人生の後半を自分らしく生きるために、今からできることはたくさんあるのです。
【1】リスキリングは自分への投資
第1回でリスキリングが必要な理由を確認し、第2回、第3回ではリスキリングへの取り組み方を見てきました。ここまで読み進めてきておわかりいただけたと思いますが、リスキリングはすぐに結果に結びつくとは限らない息の長い作業になります。そのような事実をふまえ、ここからは、リスキリングを実際に開始し、継続していただくために欠かせない準備や心構えについてご説明していきます。
40歳から私自身が経験してきて痛感しているのは、「リスキリングは自分への投資」であるということです。自分の時間と労働力、場合によってはお金を使って、自分自身に投資をするのです。
投資なので、リターンを最大化することが目的です。リスキリングの場合は、成長市場におけるスキルを獲得する、自分のやりたい仕事に就くといったことがリターンとなります。
一方で、投資であるということは、よい結果が出るかどうかがわからないという側面もあると言えます。リスキリングに取り組んだ結果、外部環境が急速に変化して、スキルが陳腐化してしまって軌道修正を強いられたり、スキル以外の要素が原因で自分のやりたい仕事に就くことができないといったことも考えられます。
そのような事態を避けるために、意識的に選びたい投資先が「スキルと学び」「健康」「お金」「人間関係」「仕事」の5つです。なぜなら、これらはすべて、今後放っておくと特に価値が減少していきやすいものだからです。
価値の減少を食い止め、不安を解消し、再び価値を増加させていくためには、現状のまま放置せず、意識的に時間と労働力、お金を使って、自分自身に投資をしていくことが打開策になります。この5つに投資をしていくことで、将来の自分自身の選択肢を増やすことが可能となり、リスキリングを行う価値を最大化できるようになるのです。
【2】意識的に取り組みたい5つの投資
5つの投資の1つ目は、「スキルと学び」です。働きながら身につけてきたスキルも放っておくと価値が陳腐化していきます。そのため、新しいことを学び続け、実践していくことで、必要とされるスキルを維持していく必要があります。スキルと学びに投資をすることで、これからの成長分野で必要とされる人材になるチャンスを増やしていきます。
2つ目が「健康」です。放っておくと加齢とともに気力と体力が低下し、定期的に健康状態をチェックしないと重篤な病気にかかるリスクも高まっていきます。そのため、運動も含め、健康を維持するための投資が必要になります。健康に投資をすることで、労働寿命そのものを長くします。
3つ目が、「お金」です。自分ではどうしようもないことですが、長期的なトレンドが円安とインフレのままだと資産がどんどん目減りします。下り坂のエスカレーターに乗っている状態では現状維持=衰退となります。そのため一定のリスクを取って、資産形成に取り組む必要があります。資産運用することで、長期化する労働寿命を支えます。
4つ目が、「人間関係」です。培ってきた人間関係もしっかり時間とお金を使って維持していかないと、どんどん範囲は縮小し、新しい出会いも生まれていきません。
特に定年後を見据えた中では、自分よりも下の世代との関係構築に意識的に投資をしていく必要があります。人間関係に投資をしていき、将来を支え合うことができるネットワークを構築し、維持していきます。
最後の5つ目が、「仕事」です。つまり、どのような仕事に自分の時間と労働力を使うのか、ということです。早期退職、役職定年、定年による再雇用といった雇用環境の中に身を任せていると、仕事環境そのものの選択肢が狭まっていきます。また同じ仕事をして同じ労働価値を提供しても、日本での給与、外国での給与は大きく差が開いていきます。自分が就職可能な仕事の選択肢を増やすために、副業や兼業も選択肢にいれて、自分の就業可能なポジションを複数用意できるように準備していきます。
☆ ☆ ☆
『中高年リスキリング これからも必要とされる働き方を手にいれる』
(朝日新聞出版)990円
著者・後藤 宗明
<著者>
文・後藤宗明
一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事。SkyHive Technologies 日本代表。
2021年、日本初のリスキリングに特化した非営利団体、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立。2022年、AIを利用してスキル可視化を行うリスキリングプラットフォームSkyHive Technologiesの日本代表に就任。石川県加賀市「デジタルカレッジKAGA」理事、広島県「リスキリング推進検討協議会/分科会」委員、経済産業省「スキル標準化調査委員会」委員、リクルートワークス研究所 客員研究員を歴任。いばらきリスキリング戦略アドバイザー。政府、自治体向けの政策提言および企業向けのリスキリング導入支援を行う。著書に『自分のスキルをアップデートし続ける「リスキリング 」』。
一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ