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魅力的な性格の持ち主を採用する新トレンド「personality hire」は職場にポジティブな影響をもたらすか?

2024.12.20

職場での世代間ギャップはいつの時代にもあったが、現在の年長者世代と、「Z世代」の仕事に対する価値観には大きな乖離がある。Z世代にとって「はたらく」とは何か。アメリカ在住のZ世代が記す仕事と働き方についての時事エッセイ。

【Z世代の〈はたらく〉再定義】性格が魅力的な人を採用する新たな職場トレンド「personality hire」は本当にポジティブな影響をもたらすのか?

 TikTokやInstagramリールでは、仕事関連のコンテンツが大人気だ。就職や転職を試みているZ世代やミレニアル世代に向けて、面接のアドバイスをするキャリアコンサルタントや、「職場あるある」の面白おかしい寸劇動画を投稿するコメディ系のコンテンツクリエイターは特に需要が高い。その中でも、今年頻繁に見かけるキーワードが「personality hire(パーソナリティ採用)」というもの。アメリカの若者たちの間で新たな「職場トレンド」として注目されている現象だといっても過言ではない。プログラミングやマーケティングといった職場での「技術的」なスキルよりも、明るい性格やリーダーシップのあるカリスマ性など、会社に「ポジティブな影響」を及ぼすような人材の採用を意味し、いわば「職場をまとめる接着剤」としての役割を期待される存在を指す。

「パーソナリティ採用」という用語の正確な起源は不明であるが、「quiet quitting(静かな退職)」や「bare minimum mondays(必要最低限の月曜日)」などのワークライフバランスを提唱する最近の職場トレンドの一環として、SNS上で「言語化」されるようになった現象のひとつだ。従来の業務効率重視の職場文化を小馬鹿にするようなSNS上のカルチャーから生まれた、ある意味皮肉のこもったトレンドでもある。

「パーソナリティ採用」された人のモノマネをするクリエイターの投稿には「めっちゃ共感する」とか、「こういう人いるし、憎めない」というコメントがよくついている。「全然会社に貢献していないけど、いるだけでみんなをハッピーにできるから許されてる」といった自虐的なコメントもあるが、コミュニケーションスキルや「会社のカルチャー」を重視するアメリカの会社文化において、「顧客や取引先との関係を強化する能力」や「職場の雰囲気を明るくし、士気を高める」といった「ソフトスキル」は大きく評価されがちだ。

 こうした「パーソナリティ採用」が増加する背景には、リモートワークの普及があると言われている。リモート環境ではチームメンバー同士の関係が希薄化しやすく、「人間関係の潤滑油」的な役割を果たせる人材を求める企業も増えた。同時に、「パーソナリティ採用」は「仕事をせずに怠けている」といったイメージも強く、あまりいい印象を抱かない人も多い。社員の間で不公平感が生まれてしまうと、不当な昇進や待遇に対する不満も発生しやすくなる。もとより内向的な人や技術重視の社員が、社交的で個性的な人よりも正当に評価されないと感じてしまうのは、社内の雰囲気にもネガティブな影響を与えかねない。

 カリフォルニア州のコンサルティング企業Culture Partnersのジェシカ・クリーゲル氏はinc.comのインタビューにて、「パーソナリティ採用」は、職場での多様性を損なうリスクがあると警鐘を鳴らしている。企業が性格や企業文化への適合性に重きを置いて採用を行なう場合、結果的に似たような価値観を持つ人々が集まり、多様性に欠けた組織文化が生まれかねないと説明。同記事において、求人情報サイトMonsterのヴィッキー・サレミ氏も、性格やカリスマ性のみを重視するのではなく、技術的なスキルや業務経験も慎重に評価すべきだと提唱している。

 リーダーシップやコミュニケーション能力を提供できる人材は高く評価されている一方で、このようにトレンドがSNS上で起きることで「不公平感」も言語化、視覚化されやすくなっている。この現象は今後も続き、職場における「パーソナリティ」と「スキル」のバランスについての議論がさらに活発化するだろう。

文/竹田ダニエル

竹田ダニエル●竹田ダニエル|1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行ない、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌『群像』での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』(講談社)を上梓。そのほか、多くのメディアで執筆している。

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