2025年1月、令和6年能登半島地震から1年。そして、平成7年阪神・淡路大震災から30年を迎えることを受け、防災バッグで知られる総合商社『山善』の防災グッズ体験会が開かれた。
ところがそこで、聞き捨てならないセリフが開発者の口から飛び出したのである。しかしそれを聞いたことで、記者は恥ずかしながらまだ揃えていなかった防災バッグを「買おう!」と重い腰が上がった。せっかくなので、みなさんにもお伝えしようと思う。
『山善』が一次避難に必須の「防災バッグ」を開発したワケ
登壇したのは『山善』の防災用品を企画開発する小浜成章部長だ。2016年から10年弱、防災用品一筋。いまでは防災士の資格ももつ、いわば防災のプロフェッショナルである。
小浜部長は、かつて地元で所属していた消防団での経験から「防災グッズは一般的に高価で、必要なことはわかっているのに購入するに至らない人が多い」と実感したという。そこで、2016年から防災バッグの開発に着手。同年11月に「防災バッグ YBG-30」を発売した。
「防災バッグといっても、一次避難と二次避難では必要なものがちがいます。まず我々が着手したのは、一次避難で持ち出すための防災バッグ。開発当時はまだ防災士の資格は持っていませんでしたが、何が必要か知恵を絞り、30品目を入れました。内容は、今も当時から一切変えていません」(以下「」、全て小浜部長)
「防災バッグ」に入っているものは?価格は?
幅32×奥行43×高さ16cmのナイロン素材のリュックに入っているのは、基本的で必要なアイテムばかり。
夜に被災した場合に欠かせない「懐中電灯」をはじめ、割れたガラスや釘などで手足をケガしないように守る「ラバー手袋」「EVAサンダル」、命を守るために必要な「ホイッスル」「アルミブランケット」、「紙皿」「プラカップ」「割り箸」などの使い捨て食器や、「タオル」「歯ブラシ」などの衛生用品、「筆記用具」など。
「全てのパッケージにあえて“防災”と入れています」と小浜部長
また、1家に1個ではなく1人1個備えてほしいと、価格は4,800円(税込)と手頃に設定したのもポイントだという。「やはりみなさんに備えていただきたいという想いから、安価な価格設定にはこだわりました」。
“完璧じゃない”がゆえに170万個の大ヒット
ここからである。記者が聞き捨てならない、と感じたのは。
「ただ、この防災バッグは“完璧じゃない”んです。30品目に必要最小限のものは入れましたが、食品や飲料水など、消費期限や趣味趣向のあるものは一切入れていません。そういうものはご自身でそろえていただき、あえて残した余白に入れていただくようにしました」
つまりよくある防災バッグのように、これ一つでOK!……ではないのである。防災食や水などは自分で入れる必要があるのだ。
え?手間じゃない?と思う方もいるだろう。しかしこれが大ヒットにつながったとも言える。
「食料品を入れなかったことで、この防災バッグ自体に消費期限がありません。また、年齢や性別を問わず、どなたにもお使いいただけます。ご購入いただくのは、一般家庭はもちろん、自治体や学校の備蓄品として。また、中には福利厚生として社員に付与されている企業も多数あります。おかげさまで、2016年の発売以来、170万個も売れているんですよ」
さらに小浜部長いわく「ありがたいことにクレームがほとんどない」とも。
「察するに、届いた箱のまま保管している方が多いんじゃないでしょうか(苦笑)。つまり“使う機会がない=被災していない”から、クレームする必要もないというわけなんですが。もちろん、このバッグが役立たないほうがいい。ただ、もしもの備えとして1人に1個、用意していただきたいです。その想いに変わりはありません」
移動方法を2通りから選べる二次避難に開発した「リュック&キャリー型防災バッグ YKB−30R」(税込7,980円)
車に積み込んでおくと心強い「車中泊用防災バッグ 25点セット」(税込4,999円)
このほかにも『山善』には、生活スタイルや使い方に応じて選べる防災バッグをラインナップ。また近年では簡易トイレにも力を入れている。
一人100個はそろえたい「簡易トイレ」(写真中央&右)のバリエーションも豊富だ
「備えあれば憂いなし」という言葉がある。災害は起こらないほうがもちろんよいが、何かあった時に困らないように、身近なところから見直してみてはいかがだろう。記者はもちろんすぐさま“完璧じゃない”防災バッグを買った。そして、今はそこにどんな防災食を入れたら快適に過ごせるか、思案しているところだ。
【取材協力】山善
取材・文/ニイミユカ