■連載/阿部純子のトレンド探検隊
NTT DXパートナーは、新商品開発の課題を解決する、生活者のニーズをもとに生成AIが新商品アイデアを生み出す「架空商品モール」の提供を開始した。
生活者の「あるある」な悩みが新商品へつながる
「アイデアは社内で考え、機密性を担保して最低でも半年以上かけて作り上げるもの、というのが従来の新商品開発です。一方で、社内起点のアイデアの枯渇、実現可能な商品に縛られ新しい発想が生まれない、時間がかかるといった課題もあります。
今までの社内起点のアイデア創出ではなく、生活者の悩み起点で新商品アイデアを数多く生み出し、AIによって商品コンセプトから商品の画像まで瞬時に作成する。生活者とAIを掛け合わせた形で、新商品開発のフローを根本的に見直すものが『架空商品モール』です」(株式会社NTT DXパートナー プロデューサー 朴 在文氏)
「架空商品モール」は『AIの学習機能』『AIチャット機能』『テストマーケティング』の3つの機能があり、短期間で多くの新商品のアイデアを募り、売れそうな“新商品アイデアの原石”を発掘することが可能になる。
『AI学習機能』は、メーカーの技術力や特許をAIに事前に学習させることにより、技術力・特許情報を学習させ、これらを活用したアイデアを生み出すことが可能となる。
『AIチャット機能』は、生活者の日常で感じる悩みや、「あったらいいな」というアイデアを提案することで、生活者の悩みを解決する新商品アイデアをAIが導き出し、社内だけでアイデアを考えるよりも新規性の高い架空商品を数多く生み出すことが可能となる。
『テストマーケティング機能』は、生み出された架空商品のどれに多くの”欲しい”が集まるのかをランキング形式などで検証。ランキングや生活者からの反応をもとに商品化の検討が可能なため、需要予測が立てやすくなる。
「シンプルな形でメーカーと生活者をつなぐためのプラットフォームとして架空商品モールを機能させたいと考えています。流れとしては、メーカー側で作りたい新商品のジャンルを決定しキャンペーンページを作成、架空商品モール上でアイデアを募集します。
メーカーのアイデア募集に対して、事前にメーカーの技術力を学習しているAIに、商品ジャンルに関わる『お題』に基づいた『あるある』を生活者が入力することで、6つの商品アイデアを生成、商品アイデアや画像に納得がいかない場合は、訂正情報を入力して、改訂されたアイデアを生成することもできます。
アイデアの投稿、投票、商品会議への参加等で協力いただいた生活者には、抽選や審査によってAmazonギフトカードを最大5万円までプレゼントするという仕組みで考えています」(朴氏)
先行検証として2024年9月から「架空商品モール」の一部機能を使ってアイデアを生み出すワークショップをメーカー5社と開催。生活者計約100名がAIを活用した架空商品生成を体験した。
◆先行検証を実施した各社の課題と「架空商品モール」で生み出されたアイデア
〇メトロ電気工業
1913年に創業した「メトロ電気工業」は、『オレンジヒート』という熱源を扱っており、こたつのヒーターユニットはトップシェアのメーカー。オレンジヒートは室効果ガスの排出がゼロ、高い放射効率で省エネ性能がある、電気では実現が難しい高温条件に対応できるといったメリットがある熱源で、自動車業界や食品会社でも使われている。
「新たな開発に挑戦したいが最初の一歩が踏み出さない、開発しても期待したほど販売が伸びないという課題に加え、市場が求めるニーズを十分に理解できていないという現状がありました。
ワークショップでは、前向きに自分たちの技術と向き合うことができ、社内起点では出てこなかったアイデア創出に大きく貢献していただきました。
従来は開発からテストマーケティングまで半年ほどかかっていましたが、AIを活用すれば、1日で50もののアイデアが創出されます。このスピード感は時間の短縮という意味でも大きなメリットがあると感じました。
総選挙で選ばれた3つのアイデアの中で、『X』での投票で一番多かったのが『赤外線の無音ドライヤー』でしたが、個人的には、メトロ電気工業はこんな商品も作れるのかと生活者に感じていただける『ハグ・パートナーヒーター』(※商品画像はすべてAIが生成したもの・以下同)に惹かれました」(メトロ電気工業株式会社 商品企画課長 竹内 誠氏)
〇福光屋
1625年創業の金沢で長い歴史を持つ酒蔵の「福光屋」。
1960年から契約栽培米に取り組み、仕込み水は霊峰白山から100年以上かけて酒蔵の地下にたどり着く「百年水」を使用、微生物主義を大切している蔵人たちの伝統技術により、2001年に米と水だけで作る純米蔵を実現。培ってきた米発酵技術を生かして2002年からは食品事業、2003年からは化粧品事業を展開している。
「近年、お客様の嗜好が多様化しており、社内の既成概念や固定観念を崩すことが必要であるという認識がありました。また、アイデアの原石やインスピレーション源の収集力、酒税法や薬機法、栄養学、ナチュラルな原料・成分の情報など専門知識の習得も課題となっていました。市場やOEMの調査力、商品開発コンセプトのブラッシュアップも開発には重要だと考えています。
福光屋は添加物を使わないというポリシーに基づき、その条件にクリアする商品開発を行うため、それに伴う設備や調査が必要で、価格がどうしても高くなる傾向があります。
弊社はプロダクトアウトが多いのですが、今回、生活者の方に色々なアイデアをいただくことができて、みなさんが感じている悩みや、困り事など様々な情報を得ることができ、市場調査という点でも非常に役立つと感じました。
『プロテイン入りアイスバー』、ビールを使った『発酵飲料 フルーツスパーク』、『米発酵エナジーパー』の3つの中で1位が『プロテイン入りアイスバー』でした。社内でも女性を中心に、これは欲しい、食べたいという声がありました。
社内工場にアイスを作る設備はないため、OEMの会社とコラボする必要はありますが、非常に可能性を感じました。シンプルですが社内ではなかなか思いつかなかったアイデアでしたので興味深く感じました」(株式会社福光屋 企画広報室長 兼 健康美事業部長 岡本 亜矢乃氏)
〇ヤマトエスロン
1928年に大阪府・八尾市に歯ブラシメーカーとして創業。90年以上に渡り、国内大手企業のOEMを中心に展開し、オーラルケアOEMトップ企業に発展した。2024年10月に自社製品事業となる「コラフチュール事業部」を設立。
「これまではOEMメーカーとして、企画は行わずお客様の要望に応じたモノづくりに注力してきました。自社製品の開発を始めるにあたっては、企画力不足、顧客の視点に立ったニーズが把握できていない、完全にプロダクトアウト型の製品開発と、圧倒的にリソース不足ということが大きな課題でした。
社内でもアイデアは数多く出ますが、本当に必要なのか、作るべきものなのかを判断する基準がないことも課題点でした。実は、架空商品モールで生成されたアイデアの中に社内起点でも出たものがありましたが、売れるかどうかわからないものにコストをかけて作れないと、商品化に至らなかったんです。
アイデアを出すのは得意ではあったものの、商品化の判断は非常に遅かった。ワークショップを通じ、磨けば光るアイデアが社内でも埋もれていたと気づかせてくれたので、会社としての良さを評価でき、課題点も浮き彫りになって非常に有意義でした。
架空商品モールは、圧倒的なアイデア量、多様性、発想の幅が非常に広いことに感動しました。最終的にテストマーケティングで検証してくれるので、『ニーズあるから作ればいい』と後押ししてくれるのはありがたいですね。
創出されたアイデアは『オーダーメイド歯ブラシ』、『コーヒー特化型歯ブラシ』、『携帯型 速乾歯ブラシ』と、個々のニーズに合った商品が出ました。特に『携帯型 速乾歯ブラシ』は、歯ブラシを濡れた状態のまま保管したくないという人がこんなに多いということに驚きました」(ヤマトエスロン株式会社 研究開発部 林 信之氏)
〇森永製菓
ミルクキャラメル、ハイチュウ、ミルクココア、ホットケーキなど菓子・食品で知られる森永製菓。同社は2030年に向けてウェルネスカンパニーへの変換を目指しており、基盤事業だけでなく探索・研究領域も拡大していく。
「私が属している新規事業開発部が探索の部分を担っています。課題として新規事業では、どのような商品に需要があるのかを検討するニーズ起点に時間がかかっており、長年、弊社が培ってきた様々な技術等を使ったシーズ起点においても、需要があるか確認や検討に労力、時間を要していました。
実際に販売してもなかなか売れ行きが伸びないといった課題感もある中で、今回はワークショップに参加させていただきました。
新規事業でアイデア創出から次のステップに至るまで半年~1年ほどかかっていました。それが半日から1日で50個ほどのアイデアが出て、時間的にもアイデアの質でも非常に素晴らしいシステムだと感じました。
今回は『犬のおやつ』をテーマにした、面白いアイデアを3つピックアップしました。『ドッグデンタルラムネ』『犬用ホットケーキキット』『犬用チョコ風クッキー』です。
特に『犬用チョコ風クッキー』に驚きを感じました。お客様の視点で考えると、飼っているワンちゃんと一緒に食べたいけれどチョコレートは犬にはあげられない…そういった悩みがアイデアとして出てきたわけです。
もし社内でこのようなアイデアが出ても、まず無理だと判断されると思いますが、実際に消費者ニーズがあることがわかり、実現性はさておき発想の面白さは非常に感じました」(森永製菓株式会社 新規事業開発部 安藤 勝則氏)
「ChatGPTとの違いはアイデアの深さ。生活者と対話形式でヒアリングを行いアイデアを創出していきます。また、クラウドファンディングはこれから作る新商品を応援するものですが、架空商品モールは、アイデアという原石を生活者とAIに応援を受けて作り出し、そのアイデアを商品開発に活かすというもの。クラウドファンディングの前のクラウドファンディングとイメージしていただきたいと思っています」(朴氏)
「架空商品モール」のメーカー向けサービスは4つのプランを提供。『トライアルプラン』は生成AIチャットボットを活用したメーカー発の体験プラン、『研修プラン』はメーカー社内で商品開発会議をワークショップ形式で実施するプランで、いずれも知財はメーカー側に帰属。
『総選挙プラン』は生活者による総選挙で需要検証まで実施するプラン、『企画会議プラン』は生活者を集めて商品開発会議をワークショップ形式で実施し、代表的な商品を選定のうえ生活者による総選挙で需要検証まで実施するプランで、知財はNTT DXパートナーに帰属する。
【AJの読み】生活者が日常で感じる悩みを生活者起点の商品で解決
生活者の悩みを起点としたアイデア創出の「架空商品モール」は、アイデアを出す生活者側からしてもとても興味深い。
生活者の参加は無料で、「架空商品モール」にアクセスしメーカーからの「お題」に対し、悩みを入力していくだけ。例えば「日常であたたかくなってほしいもの」というお題に対し、筆者は「真冬は寝ている時に顔だけ寒い。特に鼻先が冷える」と悩みを伝えたると、AIが性別や年齢、寝室の状況(使っている寝具や暖房の有無)などを対話形式で聞き取り。
AIがヒアリングをまとめて、50秒~1分ほどで6個のアイデアが創出。さらに意見を入れて修正することも可能。画像も併せて生成される。
画像を見ていると、思わず吹き出してしまうものもあるが、募集しているメーカーの技術力なども反映してAIが創出するので、突拍子もないアイデアではないところがミソ。日々感じている「あるある」を解決する商品が実現するかもしれないと考えると、アイデア出しも真剣になる。
画像提供/NTT DXパートナー
取材・文/阿部純子