KADOKAWAは、突然のサイバー攻撃を受けて2か月もの間「ニコニコ動画」のサービス停止に。出版事業も書籍の製造・物流システムが一時ストップするなど、事業活動に甚大な影響が生じました。
今期減収も囁かれる中で、KADOKAWAはまさかの通期計画上振れを発表。背景にはゲームやアニメ、映画の好調があります。
改めてコンテンツ力の強さを見せつけました。
ニコ動へのサイバー攻撃は通期で40億円近いマイナス要因に
今期の売上高は、期初に前期比5.1%増の2713億円を計画していました。通期見通しを出したのはサイバー攻撃を受ける前。6月にサイバー攻撃を受け、第1四半期の決算発表日である8月14日はこの見通しを据え置きました。
しかし、11月7日に第2四半期の決算発表で、売上高を4億円引き上げたのです。
2025年3月期上期の売上高は前年同期間比9.8%増の1363億円、営業利益は同23.5%増の106億円でした。一部の事業停止という最悪な事態に襲われる中での、増収営業増益。
セグメント別においては、ニコ動のWebサービス事業の売上高は24.3%減の83億円。10億円を超える営業損失を出しています。
同事業は6月から8月までの売上を逸失。大幅な減収となりました。
通期計画に対するシステム障害の売上高への影響は、Webサービスがマイナス39億円、出版・IP創出が32億円となりました。
『ELDEN RING』がゲームにおけるLTV向上の成功モデルに
マイナスの影響を補っている事業の一つがゲーム。2025年3月期上半期の売上高は前年の1.3倍となる181億円。営業利益は1.5倍の60億円に急増しました。
KADOKAWAの子会社フロム・ソフトウェアは、大ヒットタイトルである「ELDEN RING」の追加コンテンツ「Shadow of the Erdtree」を2024年6月に発売。KADOKAWAの売上増に貢献しました。
「ELDEN RING」はフロム・ソフトウェアとバンダイナムコエンターテインメントが共同開発したタイトル。国内の販売はKADOKAWA、海外をバンダイナムコが担っています。バンダイナムコホールディングスの2025年3月期上半期におけるエンターテインメント(デジタル)の売上高は前期の1.3倍に拡大。改めてこのタイトルの強さを見せつけました。
追加コンテンツの評価も上々。KADOKAWAは人気ゲームタイトルのLTV最大化に邁進中。LTVとは提供するサービスの利用期間中に得られる顧客生涯価値のこと。ゲームは莫大な開発費が必要になりつつあり、単発での回収が難しくなっています。
ソニーもプレイヤーとの中長期的な関係を重視するライブサービスゲームに注力するようになりました。売り切り型のゲームが主流だった時代は終わりを迎え、いかに長い期間プレイヤーを楽しませるかに重視するポイントが移っています。
KADOKAWAはゲーム機向けのソフトを20タイトル、モバイルゲームを6タイトル開発中。同社は出版事業においても膨大な量を生み出すことを強みの一つにしていますが、ゲームにおいてもその戦略を踏襲しています。
2024年2月に「天誅」や「侍道」などのアクションシリーズを手がけるアクワイアを買収しました。この会社はすでにKADOKAWAの傘下にあるフロム・ソフトウェア、スパイク・チュンソフトと協業関係にあります。グループ内に迎えることで、企画から開発までをスムーズに行い、ゲーム機向けのタイトルのラインナップの充実を図ろうとしているのです。
忍者アクションの「天誅」は海外でも人気があったことから、大ヒット作の創出に期待がかかります。
「極悪女王」のヒットという追い風
2025年3月期はアニメ・実写映像も好調でした。上半期は2割の増収、5割近い営業増益でした。
2024年はKADOKAWA主力のテレビアニメ「この素晴らしい世界に祝福を!」3期、製作委員会として出資をする「【推しの子】」2期を放送しています。またKADOKAWAの人気ライトノベルをアニメ化した「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」もヒットしました。
今年放送した「義妹生活」や「恋は双子で割り切れない」は、KADOKAWA得意のラブコメ路線ではなく恋愛に主軸を置いたストーリーで、底堅い人気を獲得しています。
なお、KADOKAWAは今年7月に「【推しの子】」の制作を担当する動画工房を買収しました。IP戦略の柱であるアニメを強化し、携わるタイトル数を増やすことが目的。稼げる分野に集中的に投資を行っています。
今期のKADOKAWAは実写においても転換点を迎えました。それがNetflixで配信した「極悪女王」。角川大映スタジオが制作を担当しています。
放送開始前は「地面師たち」がトップに君臨していましたが、「極悪女王」が1位の座を奪いました。
KADOKAWAは北野武監督の映画「首」の制作や配給に携わっています。しかし、実写作品でのヒット作が決して多くありませんでした。「極悪女王」はNetflixドラマという形で、新たな成功モデルを築いています。次なるヒット作を生み出せるかどうかが、一つのポイントとなるでしょう。
KADOKAWAはライトノベルやマンガなどでヒットIPを創出し、アニメや映画、ゲーム、フィギュアなどの周辺事業でその価値を最大化するメディアミックス戦略が中核にあります。
今期の業績は、多角化を進めたことで一部の事業が一時的に失速しても、他の事業でカバーできるという強さを見せつけました。
©Bandai Namco Entertainment Inc. / ©2024 FromSoftware, Inc.
文/不破聡