宇宙ビジネスの拡大は、これまで紹介してきた大手企業だけでなく、スタートアップ企業の存在が非常に大きい。2023年は3社、2024年は1社が上場した宇宙系スタートアップについて、注目企業と、それらに期待する宇宙ビジネスの未来像を、宇宙キャスター の榎本麗美さんと宇宙エバンジェリスト/スペースポートジャパン理事の青木英剛さんに聞いた。
宇宙ビジネスが一般化しはじめ企業が続々と参入している
青木 宇宙ビジネスに関わりはじめた10年前は「宇宙開発」という人が大半でした。私は当時から「宇宙ビジネスでしょ」と言っていたのを覚えています(笑)。今や市場規模は全世界で95兆円超、10年後は270兆円の一大産業になる予測も立てられています(出典:世界経済フォーラム発表資料)。異業種の参入も増えていて、例えばパナソニックやソニーが人工衛星をつくっているくらいですから。
榎本 私は「宇宙キャスター」を6年ほど前から名乗り、当時は「何それ?」という目で見られがちでしたが、今ではそのようなことがなくなり、宇宙に関する様々なイベントにも参加するようになりました。イベントの最前線では、月や火星の話題が当たり前になっていて、特に2024年は投資家の方々の興味関心が高まったと感じています。
こんなに盛り上がっているのに宇宙人材が全然足りない
青木 市場の拡大に対して人手不足が顕著になっています。異業界からの転職者も増加していますが、そもそも宇宙の専門家が全然足りない状況です。
榎本 私も危機感を抱いています。次世代の子どもたちは、宇宙に関わるのが当たり前な「宇宙ネイティブ」になると思いますし、宇宙の教育は重要ですね。
青木 私は大学で「宇宙ビジネス起業講座」を担当していますが、宇宙に関する学部は「航空宇宙工学」のような技術系ばかり。それとは別軸で「宇宙を手段」だと捉えて活用方法を学べるような場が必要なのではないかと思います。
榎本 そのような教育の場を早く整えていかなければ! ビジネスチャンスの宝庫として、あらゆる企業に「宇宙事業部」ができていくと思います。
存在感を増すスタートアップ企業地方創生としても盛り上がる
青木 今後ますます宇宙ビジネスを盛り上げるためには、やはりスタートアップ企業の存在が不可欠。大手企業に比べて新しいことを迅速に進められますから。
榎本 スタートアップの中には地方創生にもかかわっている企業もありますよね。例えば九州では、QPS研究所が中小企業と一致団結して〝オール九州〟の体制で人工衛星をつくっています。九州が今〝熱い状態〟で、同じく九州の大分空港では複数の企業によるスペースポート(宇宙港)の検討が進んでいます。
青木 私も関わるスペースポート構想は街づくり・人づくり、ものづくりの〝ハブ〟として宇宙ビジネスの呼び水になる施策が、計画を進めるうえで必要です。
榎本 日本でもスペースポートを起点に、マーケットが広がっていくと思います。スタートアップ企業とともに様々なアイデアが出てきて、宇宙業界の固定観念を塗り替えてほしいです。
宇宙キャスター 榎本麗美さん
一般社団法人そらビ代表理事。JAXAや民間企業主催イベントへの登壇や、テレビ東京『おはスタ』に「宇宙のおねえさん」として出演。自らも宇宙イベントを企画・主催。近著は宇宙飛行士になる方法をまとめた『めざせ!未来の宇宙飛行士』(時事通信出版局)