爆売れプレミアム商品を生んだ女性のひと言
──普段、習慣にしていることはありますか?
自分が「普通じゃない!」と感じることを探しています。それって、時代が動く「兆し」なんです。具体的に言えば……例えば先日、新しい革靴を買いたくて(本社がある)原宿周辺を歩いて探したんですが、驚いたことに売っている店が1軒もなく、スニーカーしか並んでない。「時代はラフな方向に流れているのかな」と考えました。町を歩いていても、そんな所ばかり見ています(笑)。
もちろん、実際に役立ってもいます。例えば一般のお客様と話している時、普段の買い物では数十円の違いにもこだわる女性が、ポテトチップスに関しては「海外のトリュフ味のほうが好き」とおっしゃったんです。その商品は、400円くらいするんですよ。当時、この業界は価格競争の真っただ中で、皆が「何とか100円を切れないか」と頭を悩ませていた時代に400円ですよ。思わず「えーっ!」となって詳しく伺うと、彼女は「1日頑張った私へのご褒美だから」と言います。それで「これはポテトチップスのプレミアム市場、あるぞ!」と思ったんです。
佐藤流、企業やブランドの好感度を高める一撃
──それが『湖池屋プライドポテト』はもちろん、最近話題の『湖池屋ファーム』の原点にもなった。
はい。要するに、常に時代は動いていて、ブランディングはそれに逆らってはいけないんです。だから「兆し」をつかみ、次の時代に備え、布石を打っていくんです。
──「布石」とは?
私は囲碁をやるのですが、そのポイントは経営戦略、マーケ戦略と一致します。兆しをつかんだら、いきなり何かを実現しようとするのではなく、必要な手を打っていくんです。例えばプレミアム商品も、いきなり販売したわけではなく、湖池屋のロゴを変え、「当社は日本で初めてポテトチップスの量産化に成功し、その文化をつくってきた老舗なんです」と世の中に訴えることから始めています。それが認識されてから大規模に発売するなど、時間をかけて実現しています。
──では、今はどんな布石を打たれているのですか?
次はスナック菓子が食事の代わりになる時代が来ると思っています。今、若い人の中には1日5~6回、少しずつ食事かお菓子を食べる方が増えているんです。朝、昼、間食、夕方、夜食とか。とすると、スナックがおやつでなく、食事の主役になれるかもしれません。そんな観点で販売した商品が『ランチパイ』です。
もちろん、布石を打っても思い通りにいかないことも多いですし、気持ちははやっても、時代はゆっくりとしか変わりません。
しかし変化を先取りし、挑戦しつづけることで、企業はよりお客様から好意を持たれるようになっていくと思うんです。
1953年創業。67年に日本で初めてポテトチップスの量産化に成功。2016年に佐藤章社長を迎え『湖池屋プライドポテト』、『ピュアポテト』シリーズなどを発売。19年には「働いてみたい注目成長企業2019」1位になった。
マネしたくなる成功者の習慣
Rule.01 自分の行為や経験を提供するとお客様はピンとくる
Rule.02 普通じゃない! と感じる「兆し」を探す
Rule.03 急がずあせらず「布石」を打つ
※バックキャスティング:理想的な未来の姿を描き、そこから逆算して現在取り組むべき施策を考える思考法。
取材・文/夏目幸明 撮影/浦 将志