湖池屋という老舗を再生させ、稀代のマーケターと言われる・佐藤章社長は『湖池屋プライドポテト』など、ヒットを連発する人物だ。そんな彼に「ヒット商品を生み出す思考習慣」を聞くとそのポイントは何と「東洋思想」にあった──。
人間の力では動かせない何かからヒントを得る
──佐藤社長はキリンビバレッジ時代に手がけた『生茶』から『湖池屋プライドポテト』まで、数多くのヒット商品をプロデュースされています。ズバリ「ヒット商品を生む習慣」を教えてください。
いろいろありますよ。例えば「世の中を俯瞰で見て、『次はこうなる!』と考えたら、バックキャスティング(※)で考える」とか。ただそれはマーケターの間でよく言われることなので、今日は自分独自の、ばらしちゃいけなさそうなことをしゃべります(笑)。
これまでのキャリアの途中で気付いたんですが、私が関わった商品には東洋思想の影響があるんです。天、地、空、風、水……そんな「人間にはどうしようもないもの」を大事にしているんですね。例えば(キリンビバレッジの時代に手がけた缶コーヒー)『FIRE』は、豆を直火で焙煎しています。「火」という自然の力が生きてくるようにしているんです。『生茶』も同じで、生茶葉に由来する自然な甘味や香りを商品の中心に据えています。
──小手先の味付けや派手なキャンペーンに頼らず、自然の力を生かすわけですね?
おっしゃる通りです。結局、どれだけ文明が進化しても、人間は自然の摂理の中で生きていて、特に我々日本人はそれを大切にしているんです。
湖池屋に来た時も同じでした。私が来る前はポテトチップスの牛乳味やみかん味を出すなど迷走気味でしたが、実をいうと「芋」は国産、のり塩の「海苔」は有明産を使用するなど、すばらしい素材を使い、揚げ方にも強いこだわりがあったんです。私はこの素材を生かした製法自体を今後の展開の軸にしようと考えました。
──それが『湖池屋プライドポテト』などのプレミアム商品につながっていったんですね。ただ、消費者は「自然と向き合っています」とか「自然の力を生かしています」といった開発者側のストーリーに気付いてくれるものですか?
はい、お客様はしっかり受け止めて下さいます。もちろん、本当は伝えたいことが一瞬で伝わるよう、パッケージやCMに凝縮させる工夫は必要なので、今もクリエイティブの現場に出ていますが。
あとは、自分の行為や経験を提供すると、お客様はピンときてくれますよ。
──具体的には?
例えば(キリンの)『世界のKitchenから』シリーズは、企画段階で本当に世界中を訪ねて、商品開発しています。『ソルティライチ』は、タイでライチジュースに少しだけ塩を入れているのを見て「熱中症を予防しているんだ」「暑い国の英知だけど、今の日本には必要な知恵なんじゃないか」と考えて生まれました。
そして今、湖池屋でも芋の栽培から始めた、すごい商品を作っているんです。ある時「世界のある所に、ひと抱えで10万円ほどする高級な芋がある、しかも収穫から1週間で売れてしまう」と聞いて、すぐ食べに行きました。そして種芋を手に入れ、日本のどの土壌なら合うのか調べるために全国の農家さんにお願いして栽培してもらい、ようやく商品化できそうなんです。
──確かに、そう聞くと食べてみたくなりますね!
湖池屋 代表取締役社長
佐藤 章(さとう・あきら)
1982年、早稲田大学法学部を卒業、キリンビールに入社後、『生茶』等数々のヒット商品を手がけ、雑誌、テレビ出演多数。14年にキリンビバレッジ社長に就任。16年に湖池屋社長に就任し、以来現職。創業家の小池会長とツートップを組み同社を一躍成長させた。