旅行業界は、伝統的なホテルチェーンとシェアリングエコノミーの対立という構図を通じて、大きな変革を迎えています。その最前線に立つのが、世界最大のホテルチェーン「マリオット・インターナショナル」と、シェアリングエコノミーを象徴する「Airbnb」です。
米国企業VSシリーズ マリオット vs. Airbnb
そこで今回は、両者のサービス、テクノロジー戦略、顧客体験、財務データ、そして未来の展望を深掘りし、どちらが次世代の旅行業界を制するのかを考察していきます。
【ブランドの力と多様性】
マリオットは、134カ国で30のホテルブランドを擁し、さまざまなターゲット層に対応する戦略を取っています。ラグジュアリーホテルのリッツカールトン、モダンなデザインが特徴のエディション、そして中価格帯のコートヤードなど、価格帯と体験の幅広さで市場をカバーしています。
パンデミック後の旅行需要の回復に伴い、ラグジュアリー部門が特に好調です。リゾート地の高級ホテルは、ワーケーションや長期滞在の需要を取り込んでいます。
【サステナビリティとイノベーション】
マリオットは、環境問題に対応するための取り組みも強化しています。再生可能エネルギーの活用や使い捨てプラスチックの削減を進めるだけでなく、グリーンビルディング認証を受けたホテルを増やしています。これにより、環境意識の高いミレニアル世代やZ世代を取り込む動きが進んでいます。
【UI/UXでの課題と展望】
マリオットの宿泊アプリは、現代のユーザーエクスペリエンスの基準から見ると改善の余地が必要といえるでしょう。宿泊客からは「操作性が悪い」「検索機能が直感的でない」という声が少なからず挙がっており、リワードポイントの利用プロセスも煩雑であることは課題の一つです。このUIの問題は、若い旅行者層やデジタルネイティブ世代の利用意欲を下げる一因となるかもしれません。一方で、最近のアップデートではAIを活用したカスタマーサポート機能を追加し、滞在中の問題解決や予約変更の効率化を図っており、これがどこまで競争力を高めるかが注目されます。
Airbnb:シェアリングエコノミーの旗手
【個性重視の顧客体験】
Airbnbの強みは、そのユニークな宿泊体験にあります。近年、Airbnbは体験型旅行市場にも進出し、「Airbnb体験」と呼ばれる地元ガイドによる観光ツアーやユニークなアクティビティを提供しています。この戦略は、宿泊以外の旅行収益源を広げるだけでなく、顧客とのエンゲージメントを深める効果もあります。
【テクノロジー活用での優位性】
Airbnbのアプリは、UI/UXの観点で高く評価されており、検索機能は直感的で、希望条件に応じた宿泊先を迅速に見つけることができます。最近では、AIを活用したパーソナライズドおすすめ機能が追加され、リピーター顧客の体験を向上させており、さらに、レビューや評価システムの透明性を保つため、旅行者の信頼感を高める役割を果たしています。
【直面する規制と課題】
しかし、Airbnbには法規制という大きな課題があります。特に主要都市では、短期賃貸に対する規制が厳しくなっており、ホストの負担増が懸念されます。また、ホストの対応や宿泊施設の品質が一定でないことが、利用者の満足度にばらつきを生む要因となっています。
両社の業績比較
【マリオットの業績】
マリオットは2019年から2024年にかけて大きな変化を見せました。
売上高は、2019年に約210億ドルを記録しましたが、2020年には約106億ドルに減少。その後、2021年に約139億ドル、2022年には約208億ドル、2023年には約237億ドルと順調に回復しています。2024年の予測では、さらに成長して約251億ドルが見込まれています。
営業利益は、2019年に約18億ドルでしたが、2020年には約1億ドルまで急減。しかし、2021年に約16億ドル、2022年に約35億ドル、2023年には約39億ドルと力強い回復を遂げています。
これらの数字から、マリオットは2020年のパンデミックによる大きな打撃を克服し、売上高・利益ともに安定した成長を取り戻していることが分かります。2024年も引き続き好調な業績が期待されています。
【Airbnbの業績】
Airbnbの業績は、2019年から2024年にかけて大きな変動を経験しています。
売上高は、2019年に約48億ドルを記録しましたが、2020年には新型コロナウイルスの影響で約34億ドルに減少。その後、2021年には約60億ドル、2022年には約84億ドル、2023年には約99億ドルと着実に回復し、2024年のコンセンサス予測では約110億ドルに達する見通しです。
営業利益は、2019年に約5億ドルの赤字を計上し、2020年には約36億ドルの大幅な赤字となりました。しかし、2021年には52百万ドルの黒字化に成功し、2022年には約18億ドルの利益を記録。2023年には約15億ドルとやや減少したものの、2024年には約24億ドルとさらなる成長が予測されています。
これらの数字から、Airbnbは2020年にパンデミックの影響で厳しい状況に直面したものの、以降は業績が力強く回復し、2024年には売上高・利益ともに過去最高水準が見込まれています。同社の柔軟なビジネスモデルと旅行需要の回復が、この成長を後押ししています。
UI/UXの観点での優劣
両者のアプリを比較すると、顧客体験に対するアプローチの違いが明確です。マリオットは、ロイヤルティプログラムとの連携を重視しており、宿泊者がポイントを貯めやすい仕組みや、会員限定特典を提供するなど、長期的な利用を促進する戦略を採用しています。このプログラムはビジネス利用者や頻繁に旅行をする顧客層から高い支持を受けています。
ただし、現代の若年層やデジタルネイティブ世代にとっては、アプリのUIが直感的でない点や、新機能の導入スピードが遅いと感じられることもあります。しかし、近年ではAIを活用したカスタマーサポートや、予約変更の効率化を図る新機能が追加され、これらの取り組みは顧客満足度の向上につながる可能性があります。さらに、アプリ自体の操作性向上を目指して、継続的な改良が行われており、今後の発展が期待されています。
一方、Airbnbは直感的で使いやすいデザインにより、多様なニーズに迅速に応えることができる点が強みです。パーソナライズ機能やAIの活用度においても優位性を保っていますが、Airbnbは宿泊体験の個別性に依存する部分も大きいため、ホストの対応や施設品質のばらつきが課題となる場合があります。
結果として、両者は異なる層のニーズに応えつつ、それぞれの強みを最大限に活かしていると言えるでしょう。
未来の旅行業界を制するのは?
未来の旅行業界では、AIによるパーソナライズが標準となるでしょう。Airbnbは既にAIを駆使してゲストに最適な宿泊先を提案する技術で一歩リードしていますが、次のステップは「旅行全体のシームレスな設計」です。
一方、マリオットは自社のロイヤルティプログラムを活用し、顧客のライフタイムバリューを最大化する戦略が鍵となります。滞在データとAIを組み合わせることで、顧客の好みに応じた特典やパーソナライズドな宿泊プランを提供することで、リピーター率の向上を目指しています。
いずれにせよ、未来の旅行の形はAIが旅行者の過去の好みやリアルタイムの感情を分析し、宿泊先だけでなく最適な移動手段や食事、アクティビティまでも瞬時に提案する「旅行コーディネーターAI」のような存在が求められるのではないでしょうか。
おわりに
未来の旅行業界では、AIやデータ活用がこれまで以上に重要な役割を果たすことは間違いありません。顧客が求めるのは、シームレスでストレスフリーな旅。理想の宿泊先だけでなく、移動手段、現地での体験、さらには食事まで、すべてが一つのエコシステム内で統合される時代が到来するでしょう。その中で、マリオットとAirbnbがどのようにその「未来の旅行」を形作るのか、私たちは新たな時代の旅行を見届けることとなります。
果たして、次世代の旅行業界を制するのは伝統を強みに進化を続けるマリオットか、それとも破壊的イノベーションを引き起こすAirbnbか。
これは新たな競争軸を生むだけでなく、旅行者にとってより豊かな選択肢をもたらしていくはずです。進化のスピードが加速する中、私たちの次の旅先が、これまで想像もしなかった形で迎えてくれる日も、そう遠くはないのかもしれません。
【参考資料】
https://www.marriott.com/ja/marriott-brands/explore-our-brands.mi
https://www.airbnb.jp/
文/鈴木林太郎