一般社団法人中央酪農会議は、指定団体で受託している酪農家の戸数を集計した結果、2024年10月に初めて1万戸を割り9960戸となったことを発表した。この結果を受けて同会議では、「日本の酪農は生産基盤の危機を迎えている」と、その深刻さを訴えている。
世界的な乳製品の需給のひっ迫が懸念される中、酪農家の減少が続けば、国産の牛乳・乳製品が入手しにくくなる可能性が懸念される。
この結果を受けて北海道大学大学院農学研究院の小林国之准教授は、「持続的な酪農経営のためには、経営構造のシフトが必要です。そのためにも経営転換への支援と、消費者との対話と理解が不可欠です」とコメントしている。
日本国内の酪農家の戸数※の推移
(※)指定団体で受託している酪農家の戸数
■2024(令和6)年10月、日本国内の酪農家は1万戸割れ
一般社団法人中央酪農会議は、指定団体で受託している酪農家の戸数を集計した結果、2024年10月に初めて1万戸を割り、9960戸にまで減少している[図1]。
下記は指定団体の受託農家戸数の前年同月比増減率を示したグラフ。2022(令和4)年以降に、酪農家戸数の減少が加速していることがわかる[図2]。
日本の酪農家の経営状況に関する調査
■ 日本の酪農家の8割、経営が悪化。要因は「円安」「原油高」「ウクライナ情勢」
現在、酪農業を営んでいる全国の酪農家236人を対象に、経営状況に関する緊急調査を実施した。
まず現在の酪農経営の環境を聞くと、半数が「とても悪い」(50.0%)、33.1%が「まあ悪い」と答え、酪農家の83.1%が経営環境が「悪い」と感じていることがわかった[図3]。
経営環境が悪いと感じる196人に、悪い影響を与えている要因を聞くと、「円安」(91.8%)が最も多く、次いで「原油高」(68.4%)、「ウクライナ情勢」(67.9%)が挙がった[図4]。
■酪農家の6割が「赤字」、半数が「離農」を検討
酪農家の98.7%が「上昇している生産コスト」、 96.2%が「減少している収入」があると回答[図5]。上昇を感じる生産コストでは、「濃厚飼料費(配合飼料等)」(94.4%)、「農機具費」(86.7%)、「光熱水料・動力費」(81.1%)等、減少を感じる収入は「牛販売の収入」(95.2%)等に回答が集まった[図6] 。
2024年9月の経営状況を聞くと58.9%が「赤字」という結果に[図7]。このような厳しい環境の下、酪農家の約半数が離農を考えることがある(47.9%)と答えている[図8]。
日本の酪農家の経営状況に関する調査 概要
実施時期/2024年11月15日~11月25日
調査手法/アンケート調査(インターネット・FAXで回収)
調査対象/国内の酪農家236人
調査主体/一般社団法人中央酪農会議
生活者(月1回以上の牛乳等の購入者)の調査
■月1回以上牛乳等を購入している人の9割以上が「国産の新鮮な牛乳が飲める環境を維持したい」
月1回以上牛乳等を購入している生活者2884人を対象に、日本の酪農について聞いた。
国産の新鮮な牛乳が飲める環境を維持したいと思うか聞くと、98.0%(「とても思う」65.5%+「まあ思う」32.5%)が維持したいと答えている[図9]。
一方、日本の酪農家が約1万戸まで減少していることについて知っているか聞くと、42.5%が「あまり知らない」、22.9%が「まったく知らない」と答え、月1回以上の牛乳等の購入者の65.4%、3人中2人は「知らない」という実態が明らかになった[図10]。
■9割以上は「日本の酪農家を応援したい」「支援する行動をしたい」
国産の新鮮な牛乳が飲める環境を維持してくためには、その土台となる日本の酪農の生産基盤の維持が不可欠だ。日本の酪農家を応援したいと思うか聞くと、57.9%が「とても思う」、39.5%が「まあ思う」と答えており、97.3%が日本の酪農家を応援したいと答えている[図11]。
また、日本の酪農の生産基盤を維持するために、消費者として支援する行動をしたいか聞くと、91.1%(「とても思う」30.9%+「まあ思う」60.2%)が支援したいと回答した[図12]。
生活者(月1回以上の牛乳等の購入者)の調査 概要
実施時期/2024年11月25日(月)~11月26日(火)
調査手法/アンケート調査(調査会社の登録モニターを対象にインターネットで実施)
調査対象/月1回以上牛乳等を購入している一般生活者2,884人(18~79歳)
※2020年の国勢調査の男女・10代(18・19歳)~70代の人口構成比に応じてウェイトバックを実施
持続的な酪農経営にむけ経営構造のシフトが必要
<北海道大学大学院 農学研究院 小林 国之 准教授(地域連携経済学研究室)>
2010年過ぎまで、全国的に酪農経営の状態は良いものではありませんでした。酪農家戸数の減少が大きく進んでいた中で、酪農経営は省力化技術を導入した規模拡大、購入飼料による一頭あたり乳量の増加という方法でビジネススケールの拡大を図り、収益の確保を進めました。堅調な個体販売も相まって、適切な収益の確保できる経営になりかけたその矢先に、飼料価格だけではなく、様々な資材価格が高騰するといういまの酪農危機がやってきました。
酪農危機は複数の要因によってもたらされていますが、穀物や資材価格の高止まりなどの要因は、ニューノーマルになると想定されます。つまり、高コスト時代の酪農経営のあり方への転換が、今求められているといえるでしょう。
こうした転換はすぐにはできません。農業の中でも特に酪農は転換に時間が必要です。仔牛を育ててから生産が始まるまでのタイムラグ、さらに施設・機械への投資が多額となり、回収期間も長いという特徴が有ります。短期間で構造を変えることが難しいのが酪農経営ですので、中期的なビジョンをもって取り組みを進めていく必要があります。
個別の酪農経営として、現状の中でも対応できることはあります。他の経営でうまくいっているところから学び、それを経営に取り入れ改善するなどもその一例です。しかし、そうした個人では対応できない課題もあります。現状で厳しい状況におかれている酪農家が、さらにこうした課題に取り組んでいこうという意欲を持つためにも、酪農家はもちろん、関係団体、さらには消費者の人達とともに、これからの日本酪農の存在理由とそのあり方について対話、コミュニケーションをおこない、理解の醸成を進めていくことが不可欠です。
構成/清水眞希