Topic4:上司のリーダーシップタイプが部下の昇進意欲にも影響
■積極的な変革の中で、心情を拠り所に判断する上司の姿が部下の昇進意欲に影響する可能性(図7)
<図7> 上司のリーダーシップタイプ別 回答者の昇進意欲の得点
「共創型リーダー(調整×変革×心情)」を上司に持つ回答者は、他のタイプと比較すると昇進意欲がやや高い傾向。次いで「情熱型リーダー(統率×変革×心情)」であり、「変革×心情」の特徴が共通している。
上司が積極的に変革に取り組みながらも、心情を拠り所に判断している姿を見たメンバーは、リーダーという立場の面白さや親近感を感じやすく、昇進意欲が高まるのかもしれない。
そのため、たとえば次世代リーダーとして育成したい若手社員は「共創型リーダー(調整×変革×心情)」や「情熱型リーダー(統率×変革×心情)」のもとに配属すると有効である可能性がある。
事業環境によってリーダーに任命される人のリーダーシップタイプは異なる
最後に、「事業環境」による違いについて紹介したい。「所属している会社の外部環境の状況として、あてはまるものをひとつ選んでください。」という設問において、「市場の競争状態が激しい」「市場の環境変化の速度が速い」「市場の成長率が高い」に対する回答の平均値によって「事業環境変化群」「事業環境安定群」に分け、現在の上司のリーダーシップタイプの違いを確認した。
■事業環境が安定している組織は「調和型リーダー」、変動している組織は「民主型リーダー」や「共創型リーダー」が多い傾向(図8)
<図8> 事業環境別 上司のリーダーシップタイプ
維持の性質を持つ「調和型リーダー(調整×維持×心情)」などの4タイプは「事業環境安定群」の出現率が高く、変革の性質を持つ「共創型リーダー(調整×変革×心情)」などの4タイプは「事業環境変化群」の出現率が高い傾向にあった。
このことから、事業環境によってリーダー(上司)に任命される人のリーダーシップタイプは異なると言えるだろう。
現在昇進できないと悩んでいる人であっても、異なる部署や会社では必要とされるリーダーシップを持っていると捉えられるということではないだろうか。
また、管理職の育成に課題を感じている企業等にとっても、事業によって、リーダーシップを発揮しやすいタイプが異なることに鑑みれば、候補者に広がりが出てくるかもしれない。
調査結果コメント
調査担当研究員
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所 研究員
大庭りり子 氏
今回の調査では、当社の管理者適性検査「NMAT」のフレームを用い、「自分自身」「理想のリーダー」「直属の上司」のリーダーシップタイプ、職場やメンバーの特徴、そしてリーダーシップタイプの組み合わせがどのような影響を及ぼしうるのかなどについて確認しました。
まず7,405名の回答者の理想の上司のリーダーシップタイプについては、「調整」・「維持」の性質を持つ2つのタイプだけで全体の半数以上を占めていました。また、年代別で見ると、傾向はおおむね同様でありながら、「理性」の要素を持つタイプの出現率が上がっていることは興味深い結果です。ワンショット・サーベイですので、その違いが社会人年数の違いによるものであると断定することはできませんが、その可能性について言及しています。
次に、回答者の直属の上司のリーダーシップタイプを紹介しています。この点については、本人ではなく、あくまでも回答者から見た上司の在り方を示すものになりますが、当社の管理者適性検査のプロダクトデータの結果とも類似しておりました。プロダクトにおいては、本人の回答を用いて結果を算出しておりますので、それと今回の結果が近しいということは即ち、上司の集団とのかかわり方・課題に対する姿勢・判断のよりどころなどを部下はよく見て把握しているということではないでしょうか。
それらの観点を軸に、管理職や管理職候補者の方を捉え直すことは、通常の人事評価などでは測りきれない魅力を見出すことにもつながるかもしれません。
そして、回答者の直属の上司のリーダーシップタイプ別に、信頼感や昇進意欲を示しました。リーダーが適切に組織を導けているかを確認する指標は多様ですが、業績や現時点のワーク・エンゲージメントよりも中長期的に影響をもたらしうる部下の昇進意欲は、管理職不足が懸念されることも多い昨今において、特に意義深い変数ではないでしょうか。この分析から、直属の上司の「変革」・「心情」の性質と昇進意欲との関係性が示唆されたことが、次世代リーダーの育成に資する人員配置のヒントになることを願っています。
最後に、所属組織の事業環境による上司のリーダーシップタイプの違いから、事業環境と課題に対する姿勢の関係性を推察しました。事業環境のリーダーシップタイプによる単純な良し悪しはなく、他のさまざまな要素との掛け合わせによって、うまく職場を牽引できるかどうかが変わってくるものと考えられます。その「さまざまな要素」の一例として、今回は事業環境を用いました。
なお、「事業環境」以外による上司のリーダーシップタイプの違いに興味を持ってくださった方は、「お問い合わせ」より本調査のデータをお問い合わせいただき、個別にご確認ください。
昨今、総理大臣指名選挙にアメリカ大統領選挙と、国の「リーダー」を選出する機会が国内外でありました。また、本文にも例示のとおり、学生時代には学級委員や部活動の部長、働く皆さんにとってはアルバイトリーダーや管理職など、様々なコミュニティにおいて、「リーダー」と呼ばれる方々がいます。彼らを想起するとき、我々は、理路整然としている、声が大きい、力強い、などの画一的なイメージを抱くことが多いのではないでしょうか。
しかし、今回の結果から、リーダーシップには多様性があるということが改めて分かりました。また、シェアド・リーダーシップやサーバントリーダーシップなど、今日的なリーダーシップの在り方についても世界中で議論され続けています。すべての人にはリーダーシップがあり、それぞれのリーダーシップを自他にとって望ましい形で活かせる環境や条件があると信じています。今回の調査レポートが、その理解を深める一助となっていれば光栄です。
コンサルタント
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
技術開発統括部 コンサルティング部 1グループ
エグゼクティブコンサルタント
山本りえ 氏
本調査にご協力いただいた7405名の回答者の「理想の上司」は、組織内における集団との関わり方において「B.自分が引っ張る」よりも「A.周囲と協力し合う」ことを、課題に対して取り組む姿勢は「B.変革・拡張」よりも「A.改善・維持」を好む人が多い結果となりました。おそらく現実にはそうでない上司の下で働いている方も多いと考えられますが、社員視点でみると大きな変化よりも現状を維持するリーダー像の方が、変化対応の要望も緩やかで自分のペースで働けるため安心できるのではないでしょうか。
一方で、VUCA時代の事業環境において、昨今のビジョン・方針・戦略に「チャレンジ」や「変革」というキーワードを多くの企業が掲げています。そうすると、経営視点では、課題に対しての取り組み姿勢も変革をリードできるリーダー(上司)を求めるのではないでしょうか。興味深いのは、本調査においても部下からの信頼感の高さでいうと、課題に対して取り組む姿勢は「B.変革・拡張」である「民主型」や「共創型」のリーダーが相対的に高くなっています。また、そのような上司を持つ部下の昇進意欲も高い傾向にあります。
人事視点でみると、事業環境によってリーダー(上司)に任命される人のリーダーシップタイプが異なるため、自社に必要なリーダー像を明確化したくなることでしょう。その場合は、自社における社内評価(人事評価・上司評価・多面評価等)を用いて、ハイパフォーマーとそれ以外の受検者のNMAT結果を比較し、それぞれの特徴を明らかにすることで昇進・昇格基準のモノサシを作ることができます。
また、社内にマネジメント候補者がどの程度いるのかを把握し、マネジメント候補者群を対象に、役職タイプ別適性・指向をマトリクス集計し、分布を確認しながら、適した育成支援を行うことができるようになります。それにより、候補者に対してマネジメント候補者であるという自覚を促すことも可能です。
人事は、事業や機能により求めるリーダーのタイプが異なることに鑑み、人事のプロとして適所適材を実現する手段として、普段から収集されている人事情報に加えて管理職適性検査のような科学的アプローチを追加することで、経営に対する納得感の向上と社員の可能性を拡げる支援につなげることができます。
■調査概要
関連情報
https://www.recruit-ms.co.jp/issue/column/0000001336/
https://www.recruit-ms.co.jp
構成/清水眞希