世界に流通する主要なゲーム機を手がける任天堂とソニーの上期決算が出そろいました。
任天堂は3割超の減収、6割近い営業減益。ソニーのゲーム&ネットワークサービス(以下ゲーム事業)は、1割超の増収、2.1倍もの大幅な営業増益となりました。
2社の収益構造と置かれている状況を解説します。
減収減益でも株価が上昇した任天堂
※各社決算資料より筆者作成
任天堂は2025年3月期通期業績予想を下方修正。売上高を従来予想より5.2%減の1兆2,800万円、営業利益を10.0%減の3600億円にそれぞれ引き下げました。
また、ハードウェアの販売台数を期初予想の1350万台から1250万台に改めています。
今期は予想通りの着地で、売上高が23.4%の減収、31.9%の営業減益となる見込み。任天堂の業績が停滞しているのは、Nintendo Switchの後継機発売を正式にアナウンスしているためです。11月6日の決算説明会では、後継機がNintendo Switchのソフトを利用できると説明しました。会社が機能について言及したのは今回が初めて。来年の春ごろにお披露目すると見られています。
足元の業績は買い控えで停滞しているものの、株価は上向きました。11月28日は一時8785円をつけ、決算発表前11月5日の安値7584円よりも15.8%上がっています。市場は任天堂の悪材料が出尽くしたと判断したのか、株価上昇に拍車がかかっています。
売上の8割は自社によるソフト
Nintendo Switchは累計販売台数が1億4604万台となり、任天堂が発売したゲーム機の中で最も売れたモデルとなりました。このゲーム機は任天堂の収益構造も変えています。ゲーム機のライフサイクルに左右されず、ソフトで息の長い売上を維持できるようになったのです。
ヒットモデルの一つであるWiiは発売から3期目となる2009年3月期に売上高が1兆8386億円となり、過去最高を記録しました。しかし、その後は息切れをするように下降しました。
Nintendo Switchの発売は2017年3月3日。2018年3月期を発売の1期目とすると、3期目にあたる2020年3月期に売上高が1兆3085億円となりましたが、翌期は増収。2024年3月期の売上高は1兆6718億円。売上の減少ペースは遅く、高止まりが続いていました。
2020年3月期におけるハード売上比率(ゲーム専用機事業に占める売上比率)は52.2%(6546億円)で、2024年3月期は43.6%(6835億円)。これだけの期間を経てハードの売上が増えているというのも驚異的なのですが、売上の底上げを図っているのがソフトウェアだというところがポイント。しかも任天堂は他社へのソフト依存が低く、自社ソフトの売上比率は8割程度となっています。
「ゼルダの伝説ティアーズ オブ ザ キングダム」や「Super Mario Bros. Wonder」など、自社によるヒット作を安定的に世に送り出し、ハードの減衰を抑えつつソフトで稼ぐ収益構造を作り上げました。
今回、任天堂は後継機が既存のソフトでも遊べることをアナウンスしました。収益面で見ると、現在の流れを分断することなく次のフェーズにつなげることができます。
他社が発売するゲームで手堅く稼ぐソニーの戦略
ソニーはゲーム事業の通期見通しを引き上げました。売上高は8月時点の見通しよりも3.9%増の4兆4900億円、営業利益は10.9%増の3550億円にそれぞれ引き上げています。
自社制作以外のゲームソフトが好調。増収に貢献しています。
2024年は「ドラゴンズドグマ2」、「龍が如く8」などのヒット作が誕生しています。「ELDEN RING」の追加コンテンツである「SHADOW OF THE ERDTREE」も好調。
ソニーは2024年9月にPlayStation5の値上げを実施しました。しかし、2024年6-9月におけるゲーム機の売上高は3143億円で、前年同期間比15.7%の減少。ソニーは今期の販売台数を1800万台程度と見込んでおり、2024年3月期の2080万台をピークに下降する見込みです。
また、国内の市場そのものも決して大きくはないため、値上げを行っても販売台数縮小の影響を押しとどめるには至らず、ゲーム機単体では減収となりました。
ただし、収益性の改善には寄与しており、増益要因になっています。
PlayStation5の発売日は2020年11月12日。2024年4月末時点で累計販売台数は5600万台。Nintendo Switchに肩を並べるメガヒット商品とはなっていませんが、ソニーのゲーム事業の売上高と任天堂全体の売上高は、2024年3月期で2.6倍ソニーの方が大きくなっています。他社によるソフトや追加コンテンツが豊富にあるためです。
ソニーはPlayStationStoreで販売されるゲームに30%の手数料をかけており、それが収益基盤の一つになっています。
ライブサービスゲームを強化する意味とは?
ヒット作に業績が左右されやすいゲーム会社は、息の長い収益性が確保できるサービスの提供が必要。
そこで、ソニーはライブサービスゲームの強化を図りました。ライブサービスゲームとは、「フォートナイト」のようにゲームのリリース後もコンテンツを中長期にわたって提供するタイプのものを指します。
ソニーは海外の開発会社などを相次いで買収。戦略的にタイトル本数を増やしました。
ソニー傘下にある会社が開発したタイトルではありませんが、2024年2月8日にリリースした「Helldivers 2」は、12週間で1200万本を販売する大ヒット作となりました。ライブサービスゲームであるため、中期での収益貢献にも期待ができます。
ただし、今期は8月20日リリースの「Concord」が早期発売中止に追い込まれるなど、ライブサービスゲームは波乱の展開となりました。
ソニーはBungieという会社も買収しており、10年ぶりの新作「Marathon」のリリースも控えています。
この領域はゲームのコアファンが集まりやすいところもポイント。Nintendo Switchは老若男女問わずに楽しめる特徴がありますが、PlayStationは生粋のゲーム好きから支持されています。ライブサービスゲームとは相性がいいのです。Bungieの買収には5000億円以上が投じられており、ゲーム事業の命運を握っていると言えるでしょう。
文/不破聡