毎月決められた額の残業代が支払われる「固定残業代制」では、どんなに働いても残業代は変わらないと諦めていませんか?
実は、固定残業代制で働いていても、会社に対して追加残業代を請求できることがあります。本記事では、固定残業代制の追加残業代を請求できるかどうかを判断するためのチェックポイントを解説します。
1. 固定残業代制とは
「固定残業代制」とは、実際の残業時間にかかわらず一定額の残業代を支払う制度です。
たとえば求人票において、給与の条件が以下のように表示されている場合は、固定残業代が導入されています。
(例)
月給:30万円
※上記の給与には、基本給22万円と固定残業代8万円(時間外労働の有無にかかわらず、40時間分の時間外手当として支給)が含まれます。40時間を超える時間外労働に対しては、割増賃金を追加で支給します。
上記の場合、1か月の時間外労働が40時間に達するまでは、実際の残業時間にかかわらず、月給は30万円で変わりません。
2. 固定残業代制でも、追加残業代を請求できるケース
固定残業代制で働く方も、以下のいずれかに該当する場合には、会社に対して追加残業代を請求できる可能性があります。心当たりがある方は、労働基準監督署や弁護士にご相談ください。
(1)会社が労働者に対して、所定の事項を明示していない場合
(2)固定残業時間を超えて残業をした場合
(3)固定残業代制が公序良俗に反して無効である場合
2-1. 会社が労働者に対して、所定の事項を明示していない場合
会社が固定残業代制を適用するためには、対象労働者に対して以下の事項を明示しなければなりません。
(a)固定残業代を除いた基本給の額
(b)固定残業時間と、固定残業代の計算方法
(c)固定残業時間を超える時間外労働・休日労働・深夜労働に対して、割増賃金を追加で支払う旨
上記のうち1つでも明示されていない場合は、固定残業代制の適用が認められず、実際の労働時間に応じた残業代を請求できる可能性があります。
固定残業代制に関する事項が適切に明示されていない例
「月給:30万円 ※固定残業代を含みます。」
→(a)(b)(c)がいずれも明示されていない
「基本給:22万円 固定残業代:8万円」
→(b)(c)が明示されていない
2-2. 固定残業時間を超えて残業をした場合
固定残業代制で働く労働者も、固定残業時間を超えて残業をした場合は、会社に対して超過分の追加残業代を請求できます。
たとえば、時間外労働の固定残業時間が月40時間で、実際には月45時間の時間外労働をした場合は、5時間分の時間外手当を追加で請求可能です。
なお、固定残業代制の対象外である手当は、実際の残業時間に応じて請求できます。
たとえば、時間外労働だけが固定残業代制の対象であるとします。この場合、休日手当と深夜手当は固定残業代制の対象外なので、実際の休日労働および深夜労働の時間数に応じて請求可能です。
2-3. 固定残業代制が公序良俗に反して無効である場合
固定残業時間が長すぎる場合は、固定残業代制そのものが公序良俗違反によって無効と判断されることがあります(民法90条)。
たとえば東京高裁平成30年10月4日判決(イクヌーザ事件)では、時間外労働の固定残業時間を月80時間とする固定残業代制が無効と判断されました。
この判断は、80時間もの長時間に及ぶ時間外労働を恒常的に行わせることは、労働者の健康を損なう危険があるという点を問題視したものです。
公序良俗違反のボーダーラインが何時間であるかは一概に言えません。
しかし、月45時間(=36協定に基づく原則的な時間外労働の上限)を大幅に超える場合は、固定残業代制が無効と判断される可能性が高いと考えられます。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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