厚生労働省は、従業員に自社商品を自腹で購入させる「自爆営業」につき、パワハラに当たる旨を行政指針に明記する方針を立てました。
参考:「自爆営業」はパワハラ、厚生労働省が防止法指針に明記へ…企業へ対策促す|読売新聞オンライン
自爆営業は一部の業態において伝統的に行われていましたが、近年では従業員に不当な負担を課すものとして問題視されています。
本記事では、自爆営業の問題点を弁護士が解説します。
1. 自爆営業とは?
「自爆営業」とは、従業員が自己負担で商品を購入することにより、会社の売り上げに貢献する行為をいいます。たとえば、以下のような行為が自爆営業と呼ばれています。
自爆営業の例
・年賀はがきの販売目標を達成するため、未達成分を郵便局員が自腹で購入した。
・クリスマスケーキの販売目標を達成するため、売れ残ったケーキを店員が自腹で購入した。
・アパレルショップの店員が、制服として自社商品を購入させられた。
など
従業員が完全に任意で自社商品を購入するのであれば、特に問題はありません。
しかし上記のような自爆営業は、営業ノルマを達成するために仕方なく、あるいは上司から指示されて半ば強制的に行われるケースが多いです。このような場合には、パワハラをはじめとするさまざまな法律上の問題が生じます。
2. 自爆営業に関する法律上の問題点
自爆営業に関する法律上の問題点としては、主に以下の3点が挙げられます。
・パワハラ
・給料の天引き
・強要罪
2-1. パワハラ
厚生労働省が指摘しているように、自爆営業はパワハラ(パワー・ハラスメント)に該当することがあります。
パワハラとは、以下の3つの要件を満たす行為をいいます。
パワハラの要件
(1)職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
(3)労働者の就業環境を害するものであること
自爆営業は、達成困難な販売目標を課されたり、上司から指示されたりした結果として行われるケースが多いです。
自爆営業を誘発するような販売目標の設定や上司の指示は、従業員に対する優越的な関係を背景としているため、パワハラに該当する可能性が高いと考えられます。
事業主は、職場におけるパワハラを防止するため、雇用管理上必要な措置を講じなければなりません(労働施策総合推進法30条の2第1項)。
自爆営業に関しても、パワハラに当たるものについては防止するための措置を講じることが求められます。
2-2. 給料の天引き
販売目標が達成できなかった場合などに、従業員に対して自社商品の購入を義務付け、その代金相当額を給料から天引きするケースがあるようです。このような給料の天引きは、労働基準法違反に当たります。
会社は従業員に対し、給料の全額を支払わなければなりません(=全額払いの原則、労働基準法24条1項)。
税金や社会保険料などを除き、給料から勝手に弁償金などを天引きすることは、全額払いの原則に反するため違法です。
自爆営業を義務付けた上で、自社商品の代金を給料から天引きすることも、全額払いの原則に反し違法となります。
この場合、会社は労働基準監督署による是正勧告の対象となるほか、刑事罰を科される可能性もあります。
2-3. 強要罪
脅迫または暴行を用いて、従業員に対して自爆営業を強制する行為は「強要罪」に該当します(刑法223条)。強要罪の法定刑は「3年以下の懲役」です。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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