VTuber「ホロライブ」を展開するカバーの業績が好調です。
2025年3月期上半期の売上高は前年同期間の1.4倍、営業利益はおよそ1.5倍に拡大しました。会社予想を大幅に上回って上半期を折り返しています。
業績急拡大の背景にあるのがトレーディングカードゲーム「hololive OFFICIAL CARD GAME」。カバーが待ち望んでいた、物販でのヒット商品が誕生しました。
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今期も業績の上振れには期待ができるか?
上半期の売上高は前年同期間比39.3%増の171億400万円、営業利益は同46.3%増の33億7,200万円でした。営業利益率は19.7%。0.9ポイント上昇しています。
カバーは期首において、上半期の売上高を144億2600万円、営業利益を24億100万円と予想していました。売上高は計画を14.4%、営業利益は32.0%上回ったことになります。
通期の売上高は前期比20.9%増の364億8100万円、営業利益は同31.8%増の73億円と予想しています。
上半期時点での売上高の進捗率は46.9%、営業利益が46.2%。カバーは通期業績予想の修正は行いませんでした。
なお、2024年3月期においては、上半期時点の業績予想に対する売上高の進捗率は46.2%、営業利益が49.5%でした。今期と前期の進捗率は似通っています。
2024年3月期は、上半期時点の計画よりも売上高が13.6%、営業利益は19.1%それぞれ上振れて着地しています。今期もやや保守的な予想を出していると言えそうです。
カバーの11月12日時点での時価総額は1683億円で、「にじさんじ」のANYCOLORは1312億円。ANYCOLORは一時、時価総額が3000億円を突破して日本テレビホールディングスを上回りました。カバーとも大きく乖離していましたが、現在では逆転しています。
PERはカバーが33.2倍、ANYCOLORが12.7億円。PERは株価収益率のことで、株価を1株当たりの利益で除して算出するもの。株価が割安か割高かを判断するのに使われます。
1株当たりの利益は会社の通期予想における純利益が用いられます。
つまり、カバーはANYCOLORに比べて今期の成長期待が高いことを示しています。
カバーの利益率が高まらなかった理由は?
カバーは一つの弱点を抱えていました。それが物販を意味するマーチャンダイジングの売上比率が低いこと。VTuber事業は配信による売上で底堅く稼ぎ、キャラクター関連グッズである物販、ライブなどのイベント、タイアップ企画などのライセンス収入で構成されています。
「ホロライブ」はVTuberのコアファンが多く、大型のイベントで稼ぐのを得意としてきました。しかし、ライブイベントは人件費や光熱費の高騰もあり、利益を出しづらいという課題があります。
一方、「にじさんじ」はライトファンが中心だったため、アクリルスタンドや缶バッジ、キーホルダーのような推し活初心者向けの物販に強みがあります。
物販は極めて利益率が高いセグメントの一つ。ANYCOLORの2024年4月期の営業利益率は38.6%。カバーは2024年3月期が18.4%。ANYCOLORの物販比率は売上全体の6割。カバーは4割。
イベントへの依存は業績が特定の期間に偏重するという別の問題点もありました。
カバーは中期経営計画にてコマース展開の強化を掲げていました。
それがトレーディングカードゲーム「hololive OFFICIAL CARD GAME」のヒットへと繋がります。
玩具市場を1兆円に押し上げた立役者
この商品の発売日は2024年9月20日。
カバーの2025年3月期2Q単体(2024年7月1日~2024年9月30日)のマーチャンダイジングの売上高は、前年同期間の1.8倍となる58億7900万円でした。売上高全体の55%を占めます。ANYCOLORの6割に限りなく近づきました。
トレーディングカードゲームを発売する前の1Q単体(2024年4月1日~2024年6月30日)のマーチャンダイジングの売上高は前期の1.4倍で、29億3100万円。この時点では、売上高全体の46%程度でした。トレーディングカードゲームの貢献が大きかったものと予想できます。
「hololive OFFICIAL CARD GAME」はこれまで制作したものに加えて、新規書下ろしのイラストをカード化。運営協力に「ヴァイスシュヴァルツ」などのカードゲームで有名なブシロードを迎えて百貨店や玩具専門店で販売しました。
日本玩具協会は、2023年度に玩具市場が初めて1兆円を超えたと発表しています(。その最大の要因がトレーディングカードで、前年より425億円売上を伸ばし、2774億円という市場を形成するに至りました。玩具市場全体の27.2%を占めるようになっています。
「ポケモンカードゲーム」や「ONE PIECEカードゲーム」などのヒット商品が誕生しています。
楽天グループはトレーディングカード人気の消費者調査を行っています。「トレカにお金を使うようになった理由を教えてください」という質問の回答で最も多かったのが、「子供の頃より経済力が付いて、お金を自由に使えるようになったから」(50.7%)というもの。「対戦・ゲームに必要なため」との回答は0.8%しかありません。
つまりポケットモンスターやワンピースなど、子供のころに好きだったキャラクターのカードを、経済力を身に付けてコレクションしているということでしょう。トレーディングカードはゲームを楽しむというよりも、推し活要素が強いと受け取ることができます。
「ホロライブ」の歴史そのものは7年と長くはありません。しかし、推し活という文脈でとらえると、ヒットした理由も理解ができます。
トレーディングカードゲームは特定のIPで一度人気化すると、ブースターパックと呼ばれる拡張パックの販売で、息の長い収益性を確保することができます。カバーは金脈を掘り当てたと言えるかもしれません。
公正取引委員会からの指導への対応は?
カバーは2024年10月25日に公正取引委員会から勧告及び指導を受けたと発表しています。
Live2Dモデルと3Dモデルなどのクリエイティブを依頼するに当たり、仕様書や指示書で正しい言語化が行われなかった結果、修正依頼の回数が多くなったというもの。
公正取引委員会によれば、2022年4月8日に下請事業者1名に動画用2Dモデルの作成を発注。同月18日に受領した後、同年9月15日までの間に発注書や仕様などからは作業が必要かわからないやり直しを無償で7回させていたとあります。
カバーは対象となる取引先に対して遅延損害金に相当する金額をすでに支払いました。
今後は取引フローの見直しや社内研修での周知など、体制の刷新を図るとしています。健全に成長するためにも、悪しき慣例を正す必要があるでしょう。
取材・文/不破聡