20~50代の現役ビジネスパーソンの「2人に1人」が「転職するなら副業可の会社」を希望しているという。
これは、オンライン人材マッチングプラットフォームを開発・運営する株式会社クラウドワークスが調査したもので、「転職するなら副業可の会社」と回答したのは20代では51.7%、30代では57.1%と、若年層ほどその割合が高かったという。
近年、社員の副業を容認する会社が増えており、2022年時点で約70%の企業が「認めている」「認める予定」と回答。
副業に加え、空き時間を活用するスポットワーク市場も盛り上がるなど、多種多様な働き方・稼ぎ方が注目されている。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000194.000050142.html
タクシー会社が空き家で「きくらげ栽培」をはじめたワケ
コロナ禍を経て、働き方も大きく変わった。
埼玉のタクシー会社「日栄交通」も、副業を駆使し、コロナ禍を乗り越え大成功を収めた会社の一つだ。
本業のタクシー事業の傍ら、始めたのは空き家での「きくらげ栽培」。
今年で53年目を迎える老舗のタクシー会社だが、2020年からの「きくらげ栽培」が好調を極め、今や売上は1000万円超。県内のスーパーや学校給食にも提供されるほど人気になっている。
なぜタクシー会社が副業を?そしてなぜ「きくらげ」だったのか?
副業成功で会社を救ったコツを聞かせていただきたいと思い、「日栄交通」常務取締役・清水雄一郎さんに話を聞いた。
――副業で「きくらげ」を選んだ理由は?
「コロナ禍でタクシー事業の売り上げが減少し、先行き不透明の中、何か他の事業を始めておかなければ会社が持たないと従業員と話していました。その中で『車庫の空き地で何かできないか?』とアイデアを求めたところ「カブトムシ」や「メダカ」などの意見もありましたがその中の一つが「きくらげ」でした」
「何故かと聞いたら「知り合いのおじさんがきくらげがいいと言っていた」と…。半信半疑ながら調べてみると、きくらげは栄養素がものすごく豊富なのに当時は国産の自給率が5%のみ。そして、自分でも作れそうだったことなど挑戦する価値がありそうだと思ったんです。私はすぐに菌床10個を通販で購入し、事務所の使っていないシャワー室で育て始めたのが最初です」
当時は、苦境を脱するために荷物を運ぶ便利タクシーや飲食店にも挑戦したそうだが、すぐに撤退。その中で光明が見えたのが「きくらげ」だった。
専門業者からきくらげの菌床を仕入れ、温度管理や水やりなどをすることで数週間できくらげが生えた。約1ヶ月後には手作業で収穫し、月に約600~700kgのきくらげを出荷するまでに。
小さなシャワー室から始めたきくらげ栽培。現在は車庫の空きスペースや契約した空き家など栽培範囲を広げ、生きくらげや乾燥きくらげを製造・販売している。
さらには、自社ブランドのきくらげ「あの日のはごたえ」も誕生。これも人気を博している。
――きくらげ栽培での苦労は?
「資金が少ないところから始めた事業のため、内装の解体からすべて自作というのが大変でした。特に冬場の暖房コストを下げるため、廃菌床を利用したストーブの開発などこれからも試行錯誤で改善していこうと思っています」
最終目標は年商1億&空き家問題の解決
2020年から始めたきくらげ栽培。苦労の甲斐あって、わずか数年で軌道に乗った。
現在は埼玉県内の一部スーパーや直売所で販売し、さいたま市内の学校給食にも提供。飲食店にも直接販売しているという。
――きくらげ栽培で大事なポイントは?
「栽培はもちろんですが販路やそれに伴う流通コストなどを意識しながら進めています。いまだに栽培の失敗など繰り返していますが、農業は規模が大事なので販路開拓を先に行い市場規模を見極めるのがポイントかなと思います。それによって生産の拡大にも繋がっています」
そんな清水氏の目標は大きい。
「今はまだ冬場などに栽培に波があり、年間にならすと売上は1000万程度なんですが、直近の目標としては1800万を目指しています」
量販店などを通じた販売も好調で、専用のビニールハウスなどを設置して生産の倍増にも着手。本業を救うために始めた新ビジネスが確実に実を結んだ。
今後は栽培規模のさらなる拡大を目指しているという。
「専用のビニールハウスでの生産に加え、今後は菌床工場の建設、パートナー生産者の募集なども視野に入れ、最終的には1億は目指したいと思っております」
ところで、副業として始めたきくらげ栽培は本業のタクシー事業にも影響を与えたのだろうか?
「タクシー事業に直接の影響はありませんが、車体のラッピングなどを見たお客様から、好意的なお言葉をたくさん頂いております」
「タクシー事業においては、高齢の従業員や運転が難しくなった従業員の次なる働き場所として、きくらげ事業を提案できるいうのはメリットになっているかと思います」
また、清水氏が常務を務める日栄交通では、地域課題である「空き家問題」にも注目。
生産者の少ない国産の生きくらげを広めるべく、空き家活用の一つとして「きくらげ栽培」を広めていきたいと考えているとか。
苦境から生まれたノウハウが地域問題対策としても役立つかもしれない。
最後に聞いてみたい。
誰もが気になる「副業で成功する秘訣」。
無理を承知で清水氏に尋ねた。
「農業や製造業の場合、生産規模を一気に増やさないことは大切だと思います。小さく始めて需要調査をしつつ需要に合わせた生産をしないとロスが多くなったり在庫を抱えることになるので、なるべく需要ありきで生産量を増やすように注意しながら続けていくことだと思っています」
取材協力
日栄交通株式会社
清水雄一郎氏X
@OntheroadSurf
文/太田ポーシャ