詭弁とは、具体的にどのような状況を指すのかよくわからない方もいるのではないでしょうか?間違った理屈を正しいと思いこませたり、強引に正当化しようとしたりすることを指します。今回は、詭弁の意味や種類、よく似た言葉などをご紹介します。
目次
詭弁とは?
詭弁は、「きべん」と読みます。道理に合わないことを、強引に正当化しようとする議論を指します。
ここでは、詭弁の意味や言葉の由来などをみていきましょう。
■「詭弁」の意味
詭弁は、間違った内容・意見を正しく見せるようにこじつけたり、もっともらしく見せようとしたりすることです。
詭弁の「詭」には訓読みで「いつわる」「あざむく」という読み方もあり、文字通り「偽る」「欺く」という意味があります。
「弁」は「話す」「述べる」という意味で、これらの組み合わせから、詭弁は「誤っていることを正しくみえるように議論すること」を指します。
参考:デジタル大辞泉
■言葉の由来
詭弁という言葉は、古代中国や古代ギリシャに由来する言葉です。中国の歴史書「史記」には、「設詭辯於懐王之寵姫鄭袖(詭弁を懐王の寵姫鄭袖に設く)」という記述があり、詭弁について言及しています。
また、古代ギリシャでも、ソフィストと呼ばれる人々が詭弁を使い、非論理的であるのに見かけのうえでは論理的な議論を行っていました。ソフィストは、詭弁学派とも翻訳されています。
■「詭弁が立つ」は誤り
詭弁は、「詭弁を弄する(きべんをろうする)」という使い方をします。「弄する」とは「もてあそぶ」「思うままに操る」という意味で、詭弁を使って相手を惑わせるという意味です。
「詭弁が立つ」という使い方をすることもありますが、これは誤りです。「弁が立つ」と混同した使い方で、「弁が立つ」とは演説や話し方がうまいという意味で、道理に合わない間違った議論をする詭弁と組み合わせることはありません。
詭弁の種類と対処法
詭弁の論法には、いくつかの種類があります。ここでは、詭弁の種類と、それに対処する方法を解説します。
■数や他人の意見を根拠にする
詭弁には、自分の意見が正しい根拠を多数派であることや、他の人も言っている意見であることを根拠にするケースがあります。
たとえば、「他の社員は皆自分と同じ意見なのに、違う意見を出しているのはあなただけ」「上層部の意見だから」「書物に書いてあったから」というように、多数意見や他人の意見を正しさの根拠にする場合です。
しかし、多数派や上層部の意見、著名人が本に書いている内容などは、正しさの証明にはなりません。
正しいかどうかはその理由によって判断しなければならず、外部の見解を根拠にするのは詭弁といえるでしょう。
対処法
「多数意見だから、他の人も言っているから正しい」という詭弁には、外部の見解と自分の意見は関係なく、正しさの証明にならないことを指摘するとよいでしょう。
指摘したうえで、多数派や他人ではなく自分自身はその問題についてどのように考えるのか、その理由を説明してもらいます。これにより、建設的な議論ができるでしょう。
■反語を使う
反語とは、断定を強調するために、自分が主張したいことと反対の内容を疑問形で伝える表現です。
たとえば、「あなたは成果を出すためなら規則に違反してもいいのですか?」と聞かれた場合、疑問形ですが実際には、「成果を出すために規則に違反してはいけない」という主張をしていることになります。
反語による詭弁では疑問形での問いかけであり、肯定も否定もしていないため、相手は「なぜそう思うのか」という質問ができません。
反語によって自分の主張を暗示しているにもかかわらず、その主張に疑問を投げかけるのを封じているのが特徴です。
対処法
反語による詭弁は、反語を使うことで、自分の主張に疑問が出されないようにしています。そのため、反語に対しては「そのとおりです」と返答するのがよいでしょう。
反語による疑問に対して肯定することで、相手は「それはなぜか」と問いかけなければならなくなります。あるいは、疑問形に対して、「あなたはどう考えるのですか」と質問し、主張を明確にしてもらうという方法も効果的です。
このような対応をすれば、相手は自分が暗示していた主張について説明せざるを得なくなり、議論が正しい方向で進むようになるでしょう。
■論点をずらす
論点をずらす詭弁もあります。本来の議論しなければならない問題を、まったく別の問題の議論にすり替えようとすることです。
たとえば、「売上を上げるためには、営業担当のスキルを高めることが必要である」という意見に対し「それよりも評価制度を充実させるべきだ」と主張するなど、詭弁によって論点をずらすことがあげられます。
対処法
論点をずらす詭弁に対処するためには、論点をしっかり把握して議論することが大切です。論点を把握していれば、論点がずれていると感じた時点で、すぐにそのことを指摘できます。
常に「今は何を話しているのか」「重要な論点は何か」を意識していれば、詭弁が出たときに修正を入れ、本来の論点で議論できるようになるでしょう。
「詭弁」の使い方・例文
「詭弁」を正しく使うために、例文をみて使い方を確認していきましょう。
・彼はいつも誰かの意見を出して自分の意見が正しいことを主張するが、それは詭弁にすぎない
・その政治家は不祥事についてお詫びの会見を行ったが、自分の行為はやむを得なかったという言い訳を主張し、詭弁を弄するばかりだった
・その営業担当は他社製品の欠陥をいくつも指摘し、自社製品をよく思わせようとする詭弁を弄していた
・彼は詭弁を弄することで自分の立場を守ろうとしていることが、誰の目にも明らかだった
・詭弁を使って自分の意見を正当化しても、問題は解決しない。さらに建設的な議論が必要だ
・彼は会議でいつも詭弁を弄しているため、まともに議論する人はいなくなった
「詭弁」の類義語
「詭弁」には、次のような類義語があります。
・誤謬(ごびゅう)
・権謀術数(けんぼうじゅっすう)
・詭策(きさく)
・強弁(きょうべん)
それぞれの意味を詳しくみていきましょう。
■誤謬
誤謬とは、間違えることです。論理学では、論理的な間違いがあり、その論証が妥当ではないという意味で使われます。
間違った内容・意見を正しく見せるようにする詭弁と似ている言葉ですが、意識的か、無意識的かという点が異なります。詭弁は人を欺くため、意識的に間違ったことをこじつけますが、誤謬は無意識的に誤った論証をすることを指す言葉です。
(例文)
・この論文には多くの誤謬が含まれていると指摘されている
・提出した書類には誤謬があり、修正するよう差し戻された
・その教授は自分の論文に誤謬があることにずっと気づいていなかった
■権謀術数
権謀術数とは、巧みに人を欺く策略のことです。「権謀」はその場に応じた策略で、「術数」は「はかりごと」「たくらみ」を指します。同じような言葉を重ね、意味を強調した言葉です。人を欺くという点で、詭弁と共通しています。
ただし、権謀術数は、政治やビジネスの手法として計略するという意味で使われる言葉であり、それ以外の、単に人を欺く場面では使われません。
(例文)
・その政治家は権謀術数に長けているため、難しい場面も乗り切れた
・相手は権謀術数を使う担当者なだけに、その術策にはまらないよう注意が必要だ
・権謀術数をめぐらすよりも、正攻法で戦うべきだ
■詭策
詭策とは、敵を欺く策略や巧妙な手段、計画をすることです。目的を達成するため、人が予想しないような奇抜な策や手法を指して使われます。
人を騙そうとする点で詭弁と共通していますが、詭弁を使う場面は議論であるのに対し、詭策は策略や計画である点が異なります。
(例文)
・彼は敵の陣営を崩すにはどうすればよいか、詭策を練っていた
・その時代には、詭策を練った戦いが繰り広げられていた
・ビジネスで生き残るためには、詭策を練ることも必要だ
■強弁
強弁とは、無理に理屈をつけて言い訳をすることです。たとえば、自分を正当化しようとする場面で使われます。
無理な理屈で自分の意見を通そうとする点が、詭弁と似ている言葉です。ただし、詭弁は話をこじつけて相手を欺く方法ですが、強弁は強く言い張って自分の意見を通そうとする点が異なります。
(例文)
・彼は規則に違反した理由をいろいろと強弁したが、どれも自分を正当化することにはならなかった
・どれだけ必死になって強弁しても、自分の責任を免れることはできない
・彼女は感情的になり、欠席した理由を強弁していた