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EVメーカーからAIロボット企業へ、トランプ再選で注目を集めるテスラへの追い風

2024.11.24

テスラは今、自動車メーカーの枠を超え、新たな領域へと進化しようとしています。2024年10月10日(米国時間)、カリフォルニア州のワーナー・ブラザース・ディスカバリーの映画スタジオで開催されたイベント「We, Robot」。その名称が示す通り、この場でテスラは電気自動車(EV)メーカーという従来のイメージを大きく塗り替える戦略を明らかにしました。

サイバーキャブに見る未来の自動車像

中心となったのは、AIと自律技術を核とした新たなプロダクト群です。未来的なデザインの自動運転タクシー「Cybercab(サイバーキャブ)」、運転席のない自律走行車「Robovan(ロボバン)」、そして人型ロボット「Optimus(オプティマス)」の進化版などが発表されました。これらは単なる製品紹介にとどまらず、テスラが目指す次世代のビジネスモデルを体現するものと言えます。

イベントで披露されたサイバーキャブは、テスラの電動ピックアップトラック「Cybertruck(サイバートラック)」を彷彿とさせるシルバーデザインが特徴的で、SUVスタイルのコンパクトなフォルムを持っています。ドアは斜め上に開くシザータイプで、充電は非接触式という未来的な仕様です。イーロン・マスクCEOは「2027年よりかなり早く量産を開始する」と語りましたが、具体的なスケジュールについては明かしませんでした。

また、テスラはサイバーキャブをはじめとする自動運転タクシーサービスの将来性を強調しました。マスク氏は「自動運転は人間の運転よりも10倍安全になる」と断言し、エレベーターの進化を例に挙げながら、「車もボタン一つで目的地に到達する時代が来る」と説明しています。

ロボバンとオプティマス:自律技術の拡張

さらに、イベントではテスラの技術的ビジョンを具現化する2つのプロダクトも披露されました。1つは「Robovan(ロボバン)」で、完全な自律走行を前提としたマイクロバス型の車両です。この種の車両は都市部での共有モビリティや物流ソリューションとして大きな可能性を秘めています。

もう1つは人型ロボット「Optimus(オプティマス)」で、家庭や工場での実用を目指した製品です。マスク氏は以前から「オプティマスはテスラの全体価値を上回る潜在性を秘めている」と発言しており、AI技術の進化がもたらす汎用ロボット市場の可能性に大きな期待を寄せています。

テスラが「ロボット」へ注力する背景

ここで疑問が浮かびます。なぜテスラは、このタイミングでロボットへの注力を強めているのでしょうか。

その理由は、EV市場における「収益率の限界」と「差別化の必要性」にあると考えられます。現在、EV市場では競争が激化しており、価格競争が進む中で利益率が圧迫されています。一方、AIや自律技術を活用した製品は依然として高い収益性と市場価値を保持しており、「継続的なソフトウェアアップデート」を通じて長期的な収益が見込めます。

また、テスラが目指すのは単なる「商品提供者」ではなく、「未来をデザインする企業」という新たなアイデンティティの確立です。マスク氏はイベントで「我々が開発するのは車ではなく、新しいライフスタイルだ」と語り、技術的な優位性にとどまらない文化的・社会的影響力を強調しました。

トランプ再選とテスラへの追い風

さらに、2024年の米大統領選挙でドナルド・トランプ氏が次期大統領に再選を果たしたことは、テスラにとって追い風となり得ます。トランプ政権下では、規制緩和やインフラ投資の拡大が見込まれており、特にAIや自律技術を含む新興分野への投資促進が期待されます。

テスラは、トランプ氏の経済政策に柔軟に適応してきました。同氏が前回の政権時に推進した法人税減税はテスラに大きな恩恵をもたらしました。今回もトランプ氏が拡張的な財政政策を打ち出す場合、AIや自律技術分野でさらなる支援を受ける可能性が高いです。

また、トランプ氏の「アメリカ・ファースト」政策の一環として、国内製造業の拡大や雇用創出が重視される点は、テスラの生産戦略とも一致しています。新たな製品群であるサイバーキャブやロボバンの製造拠点が米国内に設置される場合、経済刺激策との相乗効果が期待されます。

政府効率化省の設立がテスラに与える影響:追い風と新たなチャンス

トランプ次期大統領が設立を発表した「政府効率化省(DOGE)」とそのトップに指名されたイーロン・マスク氏の存在は、テスラにとって追い風となる可能性が高いです。テスラの事業にとって、規制緩和や連邦政府の支出削減、そしてマスク氏の直接的な影響力は、企業の成長戦略にいくつものプラス効果をもたらすと考えられます。

【規制緩和がテスラの拡大を支援】

政府効率化省の主な目的の一つである規制の削減は、テスラにとって特に重要です。EV市場では、連邦レベルや州レベルでの規制が生産や販売、さらには自動運転技術の導入を妨げる要因となることが少なくありません。例えば、完全自動運転車(FSD)の法規制や、充電インフラ整備に関する政府補助金の複雑さなどです。

マスク氏が規制緩和の中心的な役割を果たす場合、テスラの自動運転技術の実用化や、次世代EVである「Cybertruck」や「Cybercab」の量産開始が加速する可能性があります。規制が緩和されれば、テスラは競争の激しい市場でより迅速にイノベーションを実現し、先行者利益を得ることができるでしょう。

【政府支出削減がテスラに与える間接的影響】

一方、連邦政府の支出削減がテスラにとってリスクとなる側面もあります。過去、EVの普及を後押しするための連邦税控除や補助金は、テスラを含む多くのEVメーカーにとって重要な販売促進策でした。政府が無駄な支出を削減する名目でこれらの補助金を縮小する場合、テスラは価格競争力の低下に直面する可能性があります。

しかし、マスク氏がトップを務めるDOGEは単なる削減ではなく「効率化」を目的としているため、EV推進の政策自体を維持しつつ、冗長な予算配分を見直す可能性もあります。むしろ、効率的な支出が促進されることで、充電インフラ整備やグリーンエネルギーへの投資が優先されれば、テスラの事業基盤がさらに強化される可能性があります。

課題と競争優位性

もちろん課題もあります。ウェイモやZooxといった競合他社が自動運転分野で先行していることや、完全自動運転技術の社会的受容性、規制の壁がテスラの進化を阻む可能性は否定できません。しかし、テスラが掲げるビジョンは極めて独自性が高いです。単なる自動運転技術の提供ではなく、「未来のライフスタイル」を売り込むアプローチは、競合他社との差別化に大きく寄与します。また、トランプ政権下での経済政策が追い風となる場合、テスラは自律技術市場での主導権を確立する絶好の機会を得られるでしょう。

おわりに

テスラは、EVメーカーとしての成功に甘んじることなく、AIと自律技術を軸とした新たな未来を切り拓こうとしています。サイバーキャブやロボバン、オプティマスといったプロダクトはその象徴であり、単なる製品を超えた「未来像」を描く試みです。

トランプ政権の再来や拡張的財政政策が追い風となる可能性を含め、テスラの次なるステージは、単なる技術革新にとどまらず、文化や社会そのものを変革する挑戦と言えるでしょう。

「We, Robot」というイベントタイトルに込められたメッセージは明快です。テスラが目指すのは、「車」ではなく「未来」そのものなのです。

【参考資料】
https://www.nikkei.com/nkd/company/us/TSLA/news/?DisplayType=2&ng=DGKKZO8477884013112024EA2000
https://www.tesla.com/we-robot

文/鈴木林太郎

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