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就活生から選ばれる会社になるために地方の段ボール会社社長が仕掛けた施策とは?

2024.11.22

 どの業界でも人手不足が叫ばれるなか、多くの企業が人材採用には苦労している。特に中小企業は、ただでさえ新卒の入社希望者が少ないだけでなく、その数少ない入社希望者に採用内定を出しても、正式採用前に内定を辞退されてしまうという事態が増えている。

 採用や就活に関する実態調査などを行っているインタツアー社が2024年3月卒業予定の就活生を対象に行なった「選考辞退・内定承諾についての調査」によると、内定を辞退したことがある人は55.8%、つまり半分以上にも及んだという。

 これでは自社の採用計画に大きな支障が出てしまうことから、内定辞退者を減らすための対策を取る企業も増えている。例えば、内定者に自社の福利厚生の一部のサービスを入社前から提供する企業や、昨今は就活生の両親が子供の就職先を判断したりすることから、家族への手紙を内定者に渡す企業もある。

コロナ禍収束後から増えてきた内定辞退者

 そういった中で、独自の方法で内定辞退者を減らそうと努力している企業がある。それが、富山県富山市に本社を置く段ボール製造会社のサクラパックス。創業は昭和22年で、3代目社長の橋本淳氏が2008年に先代から社長を継いで以降、14年ほどの間に年商が100億円にまで倍増したという、地方で急成長した中小企業である。

 そんな優良中小企業でも、コロナ禍以降は新卒の採用に苦労しており、しかも、採用内定を出した就活生の約半数が内定を辞退してしまう状況に陥っているという。そんな近年の新卒採用状況の変化について、サクラパックスの橋本社長はこう語る。

「うちは単なる四角い箱の段ボールだけを作っているのではなく、特殊な設計を伴う付加価値のあるパッケージが得意な会社であることと、段ボールを使った社会貢献を数多く行って世の中を笑顔にしている会社であること、この2つのブランディングでこれまで攻めてきました。特に後者に関しては刺さる学生さんが多く、他社さんが採用で苦労している中でも、比較的多くの就職希望者が集まって、内定辞退者もほとんどいませんでした。ところが、コロナ禍が明けた頃から内定辞退者がかなりの割合で出てくるようになってきました。内定を5、6月に出すと、10月頃には内定者の数が半分くらいになってしまうのです。それに加えて、会社説明会に来る人も以前の半分に減っています」

 

 自社を蹴った内定辞退者が最終的にどこに就職したかを見ると、自動車関連や医薬品関連の企業といった、就活生たちが本命にしていたと思われるところが多い傾向にあると橋本社長は言う。逆にいうと、内定を辞退しなかった就活生の多くは、本命の会社に採用されなかったからサクラパックスに入社したということになる。

 発展を続ける安定した会社、付加価値のある製品作り、社会貢献に力を入れているといった特色だけでは、就活生たちの心に響かなくなっている。「内定をもらった、会社もイイ、けど作っている商品が……」。つまり、どんなにいい会社でも、段ボールを製造する会社に積極的に入社したいという就活生は少ないというわけである。

「段ボールこそが最強である」をテーマにした動画を制作

「これは由々しき事態だということで、会社のブランディングの伝え方に関して、原点に立ち返らなければいけないと思いました。実はこれまで、自分たちが作るダンボールには焦点を当てずにブランディングしてきたんです。もちろん段ボール作りに誇りを持っているのですが、段ボールの素晴らしさをお客さまや学生さんに伝えるのは難しいと感じていたからです。

 しかし、今となってはそんなことは言っていられません。自分たちが作る段ボールそのものに焦点を当てて、段ボールの重要性、素材としての凄さ、かっこよさ、面白さ、といった魅力をアピールして、段ボールが好きだからサクラパックスに入社したいんだと学生さんたちに思ってもらうようにするべきだ、というところに戻っていったんです」と、橋本さんはこのように、新たな取り組みを始めた動機を語る。そこでサクラパックスが取り組み始めたのが、段ボールの社会的な重要性と素材としての凄さを面白おかしく伝える動画の制作とSNSを通じた配信だった。

「今の学生さんはSNSを見て応募してくるので、SNSを通じて段ボールって素晴らしいものなのだということをとことんまで伝えるために、動画を制作することにしました。メディア専門の制作会社さんとタッグを組んで、制作費もかなり使っています。制作会社さんには、段ボールは最強である、日常生活に段ボールは欠かせないということをテーマに動画を作ってほしいと依頼しました」

 このようにして制作された動画【もしもダンボールがなかったら「引っ越し」篇】がYouTubeで公開されたのは、8月5日の「ハコの日」。セリフのない1分の動画の舞台は段ボールのない世界で、一戸建ての新居に引っ越す親子3人と、引越業者が悪戦苦闘しながら荷物をトラックから屋内に運ぶ様子を面白おかしく描いている。

「世界郵便の日」である10月9日に公開された【もしもダンボールがなかったら「宅配篇」篇】では、ビール好きの若い女性が缶ビール1箱をネット通販で購入したところ、5人の宅配業者がやって来て、2缶ずつ24缶を手渡しするという、こちらもコミカル仕立ての内容になっている。

 そしてどちらの動画でも、最後には段ボールがある世界に戻り、やっぱり段ボールって普段の生活に重要なんだなと思わせるエンディングとなっている。さらに、動画公開を記念して、段ボール1年分を1人にプレゼントするという、奇想天外なキャンペーンまで行っている(「宅配篇」ではパワーアップして、段ボール1年分を2人にプレゼント)。

SNS上では「改めて段ボールの大切さが分かった」というリプライも

 この動画制作の進行を担当したのが、サクラパックス経営推進部・副部長/プロモーショングループ・マネージャーの林歩(はやし あゆむ)氏である。

「段ボールは安全に物を運ぶための役割を持つものなので、消費者にとっては中に入っているものが主役で段ボールは脇役、日常では当たり前の存在、あまり意識されることがないというイメージがあると思います。今回の動画は、そんな段ボールを作る仕事の社会的意義を感じてもらえたらという目的で制作しました。

【もしもダンボールがなかったら】の2本では、そんな身近な存在の段ボールがなくなったらこんなに困るんだということをオーバーな表現で伝えることで、段ボールって本当に必要なものなのだということを改めてはっと気づいていただくのが狙いです」

 林さんによると、2本の動画の撮影は2日間というタイトなスケジュールのなか行われ、「引っ越し」篇では手で運んでいるパソコンのディスプレイの表面が割れているシーンでひび割れがうまくカメラに映らず、照明や手に持つディスプレイの角度を変えたりして何度も撮り直しが発生した。また「宅配」篇では、手で配達された缶ビールのタブを開けた瞬間にブシューッとビールが吹き出すシーンでうまい角度にビールが吹き出ず、やはり何度も取り直す羽目になったという。

 動画が完成し、「引っ越し」篇は配信開始の際に積極的にPRしたことが功を奏し、配信開始から1か月で「X」での再生が約15万5000回、YouTubeが約4万回で、合計で約19万5000回の視聴回数を達成している。「SNSの投稿やリプライなど見ていると、改めて段ボールの大切さが分かったとか、段ボールのない引越しを見て自分も悲鳴をあげそうになった、段ボールは日常の中に入り込みすぎて当たり前のものになりがちだが、いざという時には本当に必要なものなのだと感じた、という肯定的な意見をいただきました」

 そしてもう一つ、動画公開記念で行った「ダンボール1年分プレゼント」という、ナゾのキャンペーンである。これはどういう意図で行なったのだろうか。

「こんなもの、本当に応募する人がいるのか?というところが一つの面白さでもあり、実際、さまざまな投稿を合わせると330件ほどフォロー&リポストしていただけたので、こちらの狙いどおりに盛り上げていただけたなと思っています」

今後数年かけてイメージアップを図っていく

 2本の動画の反響が大きかったことから、今後の展開として、動画のシリーズ化も検討しているところだという。すでに次回作の検討段階に入っており、段ボールの新たな可能性や魅力をさらに打ち出したいと意気込んでいる。第2弾、3弾と続くようであれば、【もしもダンボールがなかったら】よりも、さらに意外性のある内容になるのは間違いない。

 サクラパックスでは、このようなSNSでの動画配信により、これから就活に取り組み始める学生に段ボールの大切さや素材としての面白さ、新たな可能性を知ってもらうことで、今後数年かけてイメージアップを図っていくと、橋本社長は言う。

 今の就活生たちはデジタルネイティブ世代なだけに、彼らに自社を強くアピールするためには、サクラパックスのように、自社の持つ強みや製造・販売する製品の魅力を動画によって訴えかけることが、これから重要になってくるだろう。

 

■橋下 淳さん

サクラパックス株式会社代表取締役社長。1947年の創業、祖父、父と続くダンボール生産の一貫メーカーとして、また包装・流通に関連する幅広いニーズに対応するトータルパッケージメーカーとして、富山・石川・新潟を中心に地域産業をサポートする会社のトップ。先代社長達による『ワンマン経営』の古き悪き企業体質にメスを入れ、新たな経営理念実現へ向け、浸透や業務の仕組化を徹底。社員に働く意義や誇りを見いだし、顧客本位の会社へ再生。自社製品で「送り手と受け取ての心を繋ぎ笑顔をつくり、届けたいたい。」との思いから「持ちやすいダンボール」や「熊本城組み建て募金」等、新たな価値を見出した段ボール製品を世に送り、人々の暮らしを支える創造性豊かな企業に。https://www.sakura-paxx.co.jp/

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