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こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチわかりやすい法律解説を目指しています。
ホントウにあった親権の奪い合い裁判をお届けします(京都家裁 H11.8.20)
息子
「お母さんはキライです……。殴ってくるから」
娘
「私もお母さんと過ごすのはイヤです」
おいおい、めちゃ嫌われているお母さん……。
―― お父さん、ご意見は?
父
「2人の親権を是非わたくしに!」
裁判所の判断はいかに!?
※ 実際の判決を基に構成
※ 判決の本質を損なわないようフランクな会話に変換
※ 争いを一部抜粋して簡略化
登場人物
▼ 夫
年齢不明
▼ 妻
年齢不明
▼ 子ども
・長男(すでに成人)
・長女 高校生
・次男 小学4年生
親権が分かれていた夫婦
この夫婦は約14年で離婚しました。裁判で離婚が決まったのですが、なんと裁判官が親権を分けたのです。それが子どものためになるとの判断だったのでしょう。
次男の親権 母
長女の親権 父
しかし、ここで親権者を変更する申し立てが……!
今回のバトルはここです。両者の言い分は以下のとおりです。奪い合いです。
母
「長女の親権を私に変更してほしいです」
父
「次男の親権を私に変更してほしいです」
以下の条文に基づく申し立てです。
民法819条6項
子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる
■結婚直後から仲が悪かった
さて、この夫婦、結婚してからケンカが絶えませんでした。結婚して5年後には、両者から夫婦関係調整調停が申し立てられ、その数なんと6回です。しかし話がまとまりませんでした。
■子どもの奪い合い
結婚から約10年後、妻が子ども3人を連れて家を出ました。ここから奪い合いが始まります。夫が妻の自宅に行って長女・次男を連れ去ったり、妻が夫の自宅に行って長女を取り返したり、壮絶な奪い合いが繰り広げられたのです。
■離婚判決の後も…
次男の奪い合いは続きました。夫と長女は、バイオリンのコンサートに連れて行くために妻の家から次男を連れ去りました。その後、妻は、次男が登校していた小学校から次男を連れ去りました。
そこで事件が!タクシーの車内で次男が泣き騒ぎました。その騒ぎ方が異常だったのです。タクシーの運転手が警察に通報しました。母親はカナリ嫌われていたんでしょう。
次男を巡る調停
その後、母が次男の引き渡しを求める調停を起こしました。
―― お母さんのことを、どう思っていますか?
次男
「お母さんは殴るからキライです。お母さんは嘘つきです」
「お母さんはいつも酒を飲んでいる……」
長女
「私も次男も母と過ごすのはイヤです」
「母を信頼していないから、母と積極的に会ったりしたいとは思いません……」
―― 成年になったのでカヤの外ですが、長男さんはどうでしょう?
長男
「中学生のころ母と取っ組み合いのケンカになった際、頭にケガを負わされました。母とは会話がない状態でしたね」
この調停で、母は3回連続で出頭しなかったので、調停は不成立となりました。
■子どもが住んでいる場所
親権は分かれ、奪い合いが繰り広げられていましたが、結局、次男も長女も父の自宅で暮らしていました。
親権者変更の申し立て
その後、冒頭で述べたような裁判となりました。
母
「長女の親権を私に変更してほしいです」
父
「次男の親権を私に変更してほしいです」
「2人の意思を尊重して解決していただきたいです」
―― 次男くんは、どう思ってますか?
次男
「父の家で姉と暮らしていきたいです」
―― 長女さんは、どうですか?
長女
「Me too. 私も父と暮らしたいです」
裁判所のジャッジ
父の勝ち!長女、次男どちらの親権も父となりました。裁判所が挙げた理由はおおむね以下のとおりです。
■ 母について
・家事や育児に専念したことがなかった
・家事、特に料理が不得手
・アルコール依存的傾向にある
・性格上、人格上何らかの問題から、長女・次男と良好な母子関係を築けていない
・長男とも良好な関係を築けていなかった。長男と母が取っ組み合いのケンカをした際、小6だった長女が学校の先生に「母がお兄ちゃんを虐待している。法務局へ行く」と相談するほど。
・特に次男との関係は次男にとって緊張感を伴うものになっている
・自分の問題点にまったく目を向けようとしない
■ 長女について(高校生)
・父子関係が良好
・父を親権者として生活していくことを望んでいる
・次男の母親的存在(カナリしっかりしている)
・次男と父の朝食や弁当を作り父を支えている
・母 vs 父というより、長女が父の味方をしており、母 vs 長女の様相を呈している
■ 次男について(小学4年生)
・父子関係が良好
・姉と父と暮らしていきたいと望んでいる
・姉との関係も良好
というわけで父が親権を獲得しました。父は抑鬱状態で仕事ができず生活保護を受けていたのですが、それでも裁判所は、妻が未成年2人を養育していくことは妥当ではないと判断したようです。
マメ知識
親権者を指定する時や変更する時に、裁判所が考慮する要素は以下のとおりです。
■ 父母の事情
・監護能力
・精神的 ・経済的家庭環境 (資産、収入、職業、 住居、生活態度)
・居住・教育環境
・子に対する愛情の度合い
・従来の監護状況
・実家の資産
・親族の援助の可能性
etc.
■ 子の事情
・年齢
・性別
・心身の発育状況
・従来の環境への適応状況
・子の意思
・父母および親族との結びつき
etc.
今回は以上です。「こんな解説してほしいな~」があれば下記URLからポストしてください。また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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