交通系ICカードは、もはやただの決済手段ではない。これには様々な情報が詰まっている。
この情報を生かしたビジネス成長戦略をJR東日本グループが打ち出していることをご存じだろうか?
『Beyond the Border』と銘打たれたこのプロジェクトは、一言で言い表すには難しいほどその構想が多岐に渡っている。しかし、その中核には「進化したSuica」があることは真っ先に言及しなければならない。
日本のキャッシュレス決済の重鎮となったSuicaは、2024年の現在「ビッグデータの供給元」としての役割が与えられているのだ。
交通系ICカードが持つ「便利以上のアドバンテージ」
交通系ICカードを買い物に利用する。日本人にとっては至って当然の行為だが、これは海外から見れば奇特な光景である。
なぜなら、海外では公共交通機関を利用するためのキャッシュレス決済カードは「それだけのもの」だからだ。アメリカなどは、キャッシュレス決済といえば専らクレジットカードかデビットカードである。
しかし……いや、だからこそ日本は今後、アメリカを遥かに凌駕する「キャッシュレス決済先進国」になるかもしれない。
今年に入り、日本の公共交通機関でもクレカタッチ決済による乗車を導入するケースが相次いだ。普段使いのクレカで電車やバスに乗れる、というのは確かに便利である。しかし、交通系ICカードには「便利以上のアドバンテージ」があることを忘れてはいけない。
交通系ICカードが有する情報は、その人の年齢、性別、乗車履歴、買い物履歴、そして定期券機能の区間など、まさに広葉樹の枝のように幅広く分かれている。それらをビッグデータとして活用することが可能なのだ。
Suicaのビッグデータを活用
「データを活用」と表現すると、日本ではまだまだ「個人情報が勝手に使われる」といったネガティブなイメージを持たれてしまうことがある。実はこのあたりで、JR東日本は炎上騒動を起こしてしまった。2013年、Suicaの利用データを日立製作所に提供すると発表した一件だ。
しかし、その騒動も今や昔。11年前と今の相違点は、まず「個人のプライバシーを尊重」と「データの利活用」の両立を目的とする法整備が進められた点、そしてビッグデータの持つ意義と可能性が一般にも浸透した点である。プライバシー保護のためのセーフティネットがあれば、蓄積されたデータは有効に活用すべきという見方がようやく確立されたのだ。
「土日祝日にはどれだけの人が西東京エリアから都心へ移動するか?」というビッグデータがあれば、小売関連の事業者もより効率的な営業戦略を打ち出せるはずだ。
JR東日本がこうしたデータ活用事業に取りかかる背景には、「JR駅には当然のように人(鉄道利用者)が集まる」という考えが通用しなくなったことがある。
交通系ICカード以外のキャッシュレス決済の普及・浸透と、それと並行したECの利用拡大(リアル購買の減少)、そしてモビリティーの質的変化による鉄道利用者の減少。我々の暮らしは10年前よりも進化したと言えるが、それは鉄道事業者にとっては「今までのやり方を大きく変えざるを得ない」という意味でもある。