グローバル・コンサルティング・ファームのアリックスパートナーズから、「テクノロジー業界の成長とパフォーマンス調査2024年版(原題)Tech Sector Growth and Performance 2024」が発表された。
本稿では2024年11月15日 (日本時間)に公開された日本語版リリースを元に、その概要をお伝えする。
テクノロジー業界の成長率の中央値は3年連続で鈍化、2024年も5%まで下落
2024年は、北米およびEMEAのテクノロジー業界の経営幹部約350名を対象に調査が実施された。何を犠牲にしても目先の利益を追求するというこれまで業界で顕著であった考え方は影を潜め、2024年の調査では、70%もの経営幹部が向こう12か月を見据えて持続可能な収益を創出していくことをより重視していることが明らかになった。
テクノロジー企業のR&Dや設備投資に充当する資金のうちAIの占める割合がかなり大きくなっており、本調査からは、業界を挙げてAIが将来の成長の牽引役になるとみていることがわかった。
しかし、それら企業の経営幹部はそうした投資の成果はすぐに顕在化するものではないと考えており、このことは短期リターンを追求する投資家にとっては懸念材料になると言える。
テクノロジー業界全体の成長率の中央値は、2021年が20%、2022年が16%、2023年が7%と3年連続で鈍化、更に2024年も5%まで落ち込んでいることから、業界への圧力は無視できない。
■今回の調査から得られた最大の発見とは?
とりわけ、SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)企業は最も大きな打撃を受けていることがわかっている。
今回の調査から得られた最大の発見は、AIに賭けるには相応の忍耐が必要で、優先順位を転換しなければならず、更に今後数年間で1兆ドル超もの設備投資を含む多額資金が必要であることを、経営幹部が認識しているということが明らかになったことだろう。
アリックスパートナーズのTMTプラクティスのグローバルリーダーであるジャコモ・カントゥ(Giacomo Cantu)氏は、次のようにコメントしている。
「テクノロジー業界では長期的な収益確保を優先する傾向が強まりつつあります。AI導入を成功させるには新たなコスト構造、明確な目的設定、試行錯誤をいとわない姿勢が必要であるとの認識が広がったことで、業界の構造変化が起こっています。AIがゲームチェンジャーであることには議論の余地はありません。
経営陣が直面している問題は、進捗をどのように測定するか、どの分野に注力するのか、また、移行に必要な資金をどのように調達するかという点にあります。ここで言えるのは、やみくもに成長を追い求める時代は終わったということです」
経営幹部の76%は、AIが長期的成長の主な牽引役になるとみなしている
AI投資から創出された実質的収益については、まだどの企業もほとんど明示できていないものの、経営幹部の76%は、AIが長期的成長の主な牽引役になるとみなしている。
AI技術の活用方法に関しては、回答幹部の4分の1以上が「商業的なAIソリューションを既存製品に組み込む」ことが最優先と考えている。
また、「ソフトウェア開発とエンジニアリングの生産性」、「AIを活用した顧客サービス」、「組織全体のワークフローの自動化」にAIを組み込むことを重要事項として挙げている。
とはいえ、AI利用について課題は山積みだ。AIの利用や導入における不安や疑問の根幹は何かという質問に対しては、「データとプライバシーのセキュリティ」とする回答が最も多く、その他の懸念事項として、「AI向け投資と他の成長分野や研究開発向け投資とのバランスをとること」、「活用方法への準備とスケーラビリティ」、「データの準備、スケーラビリティ、アーキテクチャ」、「投資リターン」なども上位に挙がっている。
AIの有効性の測定も複雑な課題だ。経営幹部がAIイニシアチブの成功を測る指標は、「収益の伸び」が最も高く、「プロセスや効率の改善」、「コスト削減」、「従業員の生産性」も上位にランクされている。
■AIを導入した企業が直面する課題と困難な決断
アリックスパートナーズのアメリカ・テクノロジー・プラクティス・リーダーであるジュゼッペ・ガスパロ(Giuseppe Gasparro)氏は次のようにコメントしている。
「AIを導入すればすぐに収益が上がるというものではありません。技術の相対的な未熟さ、AI投資に対する投資リターン、データの堅牢性、セキュリティへの懸念など、対処しなければならないハードルが多く存在します。企業は次から次へと難しい決断を迫られるのです」
パンデミック後に北米とEMEAで急増した従業員数は、AI開発資金の確保などの理由によりスリム化が行われた結果、減少傾向にある。
本調査によると、同地域のテクノロジー企業の64%が2023年に従業員を削減している。経営幹部のうち北米企業では、25%が今後数年間で更なる人員削減を見込んでおり、37%が未だ見通せないとしている。
EMEA企業では、28%が追加での人員削減の可能性を見込んでおり、20%が見通せないとしている。
テクノロジー業界では、収益を伴う成長を実現しなければならないというプレッシャーが高まっており、経営幹部の3分の1が2024年の売上成長および利益目標の両方を引き上げていることが判明した。
なお、売上目標を達成するためには既存顧客の売上を拡大させるとともに、AI対応の製品や機能が売上拡大の推進力になると見込んでいる。
利益実現には、AIを活用して社内プロセスを自動化することを第一に挙げ、次いで製品やサービス・ミックスを効率的に変化させることを挙げている。
他に明らかになったポイントは以下のとおり。
・テクノロジー業界は2022年から2023年にかけて減速した後、ソフトウェアとSaaSおよびハードウェアとそのサービスの両面の需要が改善傾向にあり、景気循環的な需要圧力は緩和されつつある。
・25%弱の経営幹部が今後の成長にはマーケット・デザインと新ブランド獲得に注力するとしている。
・経営幹部の54%が向こう12ヶ月でAI向け投資を10%以上増やすことを計画している。
・経営幹部の83%はAIが自社のビジネス・モデルのディスラプションになる可能性があることを認める一方、2024年は社内プロセスの自動化にAIを活用している企業はわずか22%に留まっている。
アリックスパートナーズのTMTプラクティスEMEAリーダーであるクラウス・ホエルブリング(Klaus Hoelbling)氏は次のようにコメントしている。
「テクノロジー業界では本格的なディスラプションが起きていることで不確実性が高まっており、今後業界が発展していくスピードやその形を予測することが益々困難となっています。こうした状況下でテクノロジー企業がとるべき最善の策は、業務や製品の合理化、投資の最適化、自動化の推進などコスト削減につながる抜本的改革を断行することであるといえます」
◎「テクノロジー業界の成長とパフォーマンス2024年版」の報告書全文(英語)はこちらから
https://www.alixpartners.com/insights/tech-sector-growth-and-performance-report-2024/
関連情報
https://www.alixpartners.com/jp/
構成/清水眞希