スクウェア・エニックス・ホールディングスが営業増益で上半期を折り返しました。
2期連続で営業減益となっていましたが、今期は増益での着地を計画しています。ターニングポイントとなったのが、前期の220億円を超えるコンテンツ等廃棄損の計上。開発プロジェクトの見直しを行ったことで、足元の稼ぐ力が回復しました。
そして、11月14日には『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』が発売されました。下半期の目玉のひとつの滑り出しは上々で、下半期には期待が持てるスタートを切りました。
© ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX
廃棄損で営業利益が出やすくなるのはなぜなのか?
スクエニの2025年3月期上半期の売上高は前年同期間比8.4%減の1575億円、営業利益は同22.1%増の211億円でした。営業利益率は13.4%。前年同期間よりも3.3ポイント上昇しています。
今期は通期売上高を3100億円、営業利益を400億円と予想しています。上半期時点の進捗率は売上高が50.8%、営業利益が52.9%。前期の進捗率は売上高が47.8%、営業利益は31.5%でした。堅調に歩んでいると言えるでしょう。
※決算短信より筆者作成
コンテンツ等廃棄損を計上すると利益が出やすくなる、という説明は分かりづらいかもしれません。これは減価償却負担が軽くなるために起こります。
スクエニに限らず、多くのゲーム会社はタイトルを開発するのにかかった費用をコンテンツ制作勘定などとして資産計上しています。これを会計ルールに従って一定期間で減価償却します。
スクエニは廃棄損を計上する前の2024年3月期のコンテンツ制作勘定が873億円ありました。これが廃棄損と評価損によって485億円まで圧縮されています。巨額の開発費を投じるゲーム会社は償却負担が重くなりがちですが、スクエニは廃棄損などとして一度に損失計上したことでそれを軽くしました。
※新中期経営計画より筆者作成
本業での稼ぐ力が上がっているスクエニですが、2025年3月期上半期の純利益は3割の減益でした。主要因の一つが為替。41億を超える差損を計上しています。
2024年は7月から9月にかけて急速な円高が起こりました。外的要因にやや振り回される結果となっています。
往年の名シリーズの新作を次々と発売
上半期は人気シリーズの新作をリリースしています。
2024年4月25日に発売したのがシリーズ8年ぶりの新作『サガ エメラルド ビヨンド』。サガはコアなファンが多く、エッジを利かせたゲーム内容になっているのが特徴。『サガ エメラルド ビヨンド』はタイムラインバトル方式を採用し、戦略性の高い戦闘シーンを楽しむことができます。
RPGは1980年代に誕生した「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」などのヒット作から、あらゆる会社が開発し続けてきた長い歴史があります。それだけに、マンネリ化が進んだジャンルの一つでもあります。
『サガ エメラルド ビヨンド』は、RPGをコアとして成長したスクエニの意欲作。賛否両論を巻き起こしているゲームでもあります。今なおゲームファンを楽しませる仕掛けを盛り込むため、悪戦苦闘を続けているとも言えるでしょう。
8月29日には『聖剣伝説 VISIONS of MANA』をリリースしました。シリーズ17年ぶりの最新作です。こちらは王道とも言うべきRPG。かつて聖剣伝説シリーズを親しんだ人は、安心して楽しめる内容になっています。グラフィックのクオリティの高さや、美しいキャラクターデザインが際立つゲームです。
スクエニは中期経営計画において、安定的な利益創出を実現すべく、2027年3月期の連結営業利益率15%を目標に掲げました。売上よりも利益を重視する姿勢を鮮明にしたのです。
そのため、開発体制においては量から質への転換を進めています。重視するのはスクエニならではの「面白さ」。上半期の新作である『サガ エメラルド ビヨンド』と『聖剣伝説 VISIONS of MANA』は、どちらも肯定的な意見と否定的なものとで2つに分かれています。
スクエニのファンを醸成するという意味においては、2作品ともに成功だったと言えるのではないでしょうか。
ファイナルファンタジーの生みの親と再会
下半期も期待の大きいタイトルが2つあります。
1つは11月14日に発売した『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』。名作のリメイクです。リメイク版の新要素として、新たな職業の「まもの使い」や、モンスター・バトルロードなどが追加されています。グラフィックはかつてのテイストを踏襲しつつ、奥行き感のある描写がなされています。
発売日のSNSでは、リメイク版を購入した人や楽しむ人の投稿が溢れました。
期待の高いもう1作が12月5日発売予定の『ファンタジアン ネオディメンション』。このタイトルはファイナルファンタジーシリーズの生みの親である坂口博信氏が手がけたもの。
坂口氏は2004年にミストウォーカーという会社を立ち上げ、スクエニからは一定の距離をとっていました。今回、20年ぶりにタッグを組んだことになります。
ミストウォーカーは2021年に『ファンタジアン』というタイトルをApple Arcadeでリリースしており、『ファンタジアン ネオディメンション』はその移植版。スクエニがパブリッシャーを務めます。
『ファンタジアン』はApple Arcade Game of the Year 2021で1位を獲得するなど、評価の高いゲーム。発売前から『ファンタジアン ネオディメンション』の期待感は高まっています。
スクエニの売上高、営業利益に対する通期計画の進捗率はほぼ5割に達しています。注目の2作品が下半期にリリースされることを考えると、会社予想はやや保守的だと言えるかもしれません。
文/不破聡