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EVが普及する過程で問われる「希少金属」と「リサイクル体制」の課題

2024.11.20

電気自動車(EV)は、カーボンニュートラルを実現するための重要な鍵として位置づけられており、多くの国々がEV市場への投資を拡大し、持続可能な未来を目指しています。しかし、その普及を支える電池の製造と廃棄には、いまだ見過ごされがちな環境負荷が存在します。特に、リチウム、ニッケル、コバルトといった希少金属(レアメタル)をめぐる課題は複雑で、採掘からリサイクルまでのプロセスにおける環境的・社会的影響が深刻化しています。

東南アジアの電池リサイクル問題と環境リスク

その中でも、急成長を遂げている東南アジア諸国は、EVの普及に積極的である一方で、電池廃棄物のリサイクルインフラが未成熟な状況にあります。このギャップが環境リスクを増幅し、地域全体の持続可能性に悪影響を及ぼす可能性が高まっているのです。

そこで今回は、希少金属に関わる課題と、リサイクル体制の現状と未来を詳しく掘り下げます。

希少金属の需要急増とその代償

電池製造に欠かせないリチウム、ニッケル、コバルトは、現代の技術社会における「新たな石油」とも呼ばれるほど重要視されています。国際エネルギー機関(IEA)は、これら金属の需要が2040年までに4倍に増加する可能性を指摘しています。この需要の背景には、世界的なEV普及率の急増があります。たとえば、中国や欧州連合(EU)は政策的な支援のもとでEVシフトを推進しており、2030年には新車販売の50%以上をEVが占めると予測されています。

しかし、この需要急増は供給側に大きな負担を強いると同時に、環境や社会的コストを増大させます。採掘現場では、森林破壊や水資源の枯渇、さらには採掘に従事する労働者への人権侵害が問題視されています。たとえば、世界最大のニッケル生産国であるインドネシアでは、過去20年間で最大37万8000エーカーもの森林が採掘活動のために失われたと推定されています。

さらに、採掘に伴う環境負荷はこれにとどまりません。ニッケル製錬には膨大なエネルギーが必要とされ、多くの場合、そのエネルギー源は石炭火力発電です。これにより温室効果ガスの排出量が増加し、脱炭素化の取り組みに逆行する結果となっています。このようなジレンマは、EVの普及が必ずしも「環境に優しい未来」を保証するものではないことを示しています。

東南アジアの現状:EV成長とリサイクル遅延の矛盾

東南アジア諸国は、EV市場の成長が特に顕著な地域です。たとえば、インドネシアは現在約10万台のEV(二輪車・四輪車を含む)を2030年までに1500万台近くに増加させる計画を発表しています。また、タイやベトナムでは政府の補助金や税制優遇措置を活用し、EVの普及を促進しています。このような動きは、地域経済の成長と脱炭素化への取り組みを両立させる狙いがあります。

しかし、こうした成長の一方で、使用済み電池のリサイクル体制が整備されていないことが深刻な問題となっています。

ASEAN(東南アジア諸国連合)地域では、電気自動車(EV)の普及や再生可能エネルギーの拡大に伴い、使用済み電池の量が増加することが予想されています。

この予測は、ASEANエネルギーセンター(ACE)が公表した「第8次ASEANエネルギー展望(2023-2050)」に基づいています。同報告書では、ASEAN地域のエネルギー移行に関するシナリオ分析や政策提言が行われており、再生可能エネルギーの導入拡大や電動モビリティの普及に伴う電池需要の増加と、それに伴う使用済み電池の処理・リサイクルの重要性が指摘されています。 使用済み電池の適切な処理やリサイクルは、環境保護や資源の有効活用の観点からも重要であり、ASEAN各国はこれらの課題に対応するための政策やインフラ整備を進めています

またASEAN(東南アジア諸国連合)の報告書によると、インドネシアでは2030年までに2166ギガワット時相当の使用済み電池が発生する見通しです。これを電気自動車(EV)に置き換えると約3610万台分のバッテリー容量に相当します。例えば、テスラ・モデル3の1台あたりのバッテリー容量は約60キロワット時(kWh)です。これを基に計算すると、2166GWh ÷ 0.06GWh(60kWh)となり、膨大な台数のEVバッテリーが廃棄される可能性があることを意味しています。

リサイクル技術の現状と課題

電池リサイクルは、環境負荷の軽減と希少金属の供給安定化に向けた重要な手段です。しかし、現状ではそのプロセスに課題が残されています。現在のリサイクル技術は、電池材料を分離・再利用する過程で膨大なエネルギーと化学物質を必要とします。このため、リサイクルそのものが環境負荷を伴うという矛盾が指摘されているのです。

一方で、技術革新によりリサイクル効率を向上させる取り組みも進んでいます。たとえば独自の高効率プロセスを用いてコバルトやニッケルを95%以上の純度で回収する技術を実現する企業も存在します。こうした技術が普及すれば、希少金属の需要抑制と廃棄物削減が同時に達成される可能性があるかもしれません。

また、中国ではリサイクル施設の大規模な整備が進んでおり「第14次五カ年計画(2021-2025年)」によって、リサイクル処理能力の向上の準備が進められています。このような動きに遅れないためにも、東南アジア諸国は国際的な協力を強化し、技術支援を受け入れる必要があるでしょう。

日本が果たすべき役割:リーダーシップと支援

日本は、高度なリサイクル技術と豊富な経験を活かして、東南アジアのリサイクル体制整備に大きく貢献できる立場にあります。具体的には、以下のような取り組みが考えられます。

1. 技術移転と教育支援

日本で開発された効率的なリサイクル技術を東南アジア諸国に移転し、現地の技術者を育成することで、地域全体のリサイクル能力を向上させる。

2. インフラ整備の支援

リサイクル施設の建設や使用済み電池の回収ネットワークの構築を支援し、廃棄物の適切な管理を可能にする。

3. 政策提案と法整備の支援

日本の経験を活かし、東南アジア諸国の政府に対してリサイクル政策の立案や法整備の提案を行う。

これらの取り組みは、地域の環境負荷軽減に寄与するだけでなく、日本自身の国際的な影響力を高める機会ともなりえるでしょう。

未来への展望:持続可能なEV社会の実現

EVの普及は、脱炭素社会に向けた重要なステップです。しかし、その普及を支える電池の製造・廃棄プロセスには、環境や社会的な課題が山積しています。特に東南アジアでは、急速な市場成長に対してリサイクル体制が追いついておらず、国際社会の協力が不可欠です。

日本は、技術力と経験を活かして地域の課題解決を支援し、持続可能な未来の実現に向けて貢献することが期待されているのです。

【参考資料】
https://www.nikkei.com/prime/ft/article/DGXZQOCB10BRJ0Q3A011C2000000
https://mric.jogmec.go.jp/reports/current/20240903/183787/
https://jp.reuters.com/article/world/2050-idUSKCN2DQ0ST/
https://aseanenergy.org/publications/the-8th-asean-energy-outlook/
https://www.tesla.com/ja_jp/model3

文//鈴木林太郎

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