国内大手ECモールの市場動向データ分析ツール「Nint ECommerce」を提供するNintは、経済産業省が公表した「令和5年度電子商取引に関する市場調査」のマクロデータと、同社が保有する楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングの3大ECモールのミクロデータを活用した日本のEC市場、特に物販系分野に焦点を当てた調査を実施。
結果を「経済産業省の調査結果とNint分析で読み解く—2023年日本EC市場の振り返り」として2024年11月8日に公開したので、同社リリースを元に、その概要をお伝えする。
日本のEC市場全体の概況
経済産業省が2024年9月に発表した「令和5年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」によれば、2023年の物販領域の市場規模は14.7兆円で、前年比4.8%の増加を示している。EC化率も9.38%と上昇傾向にあり、前年から0.25ポイント増加した。これは、インターネットを介した商取引の電子化が継続的に進展していることを示す重要な指標と言える。
一方、同社の推計によると、3大モール(楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング)の流通総額は約10.1兆円に達し、物販領域全体の約69%を占めている。これは、BtoC市場の約7割をカバーする大規模なセグメントとして位置付けられる。3大モールは前年比5.9%の増加を見せており、EC市場全体の成長を牽引する主要なセグメントであるとなっている。
2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行したことを契機に、ECの各ジャンルでは追い風と向かい風の両方が発生した。消費者の行動様式が大きく変化し、市場動向に直接的な影響を与えている。経済産業省の分類では8分類すべてで前年比プラスとなっているが、同社の推計データを用いることで、3大モールにおける流通額の増加が数量によるものか、平均単価の上昇によるものかを詳細に分析することが可能だ。
例えば、3大モール全体の平均単価は昨年の3,223円から3,370円へと4.5%増加した(表1参照)。全体の流通額の伸長率が5.9%であるため、数量の伸長率は1.3%にとどまり、平均単価のアップが主要因であることが示唆される。
表1:3大モール横断の標準ジャンルごと比較表
主要ジャンル別市場分析
■生活家電、AV機器、PC・周辺機器等
経済産業省の調査によると、このジャンルの2023年におけるBtoC-EC市場規模は約2兆6,838億円で、前年比5.13%の増加を示した。EC化率は42.88%と高く、物販系の中でも特にEC化が進んでいるカテゴリーの一つだ。
人流の活性化に伴い在宅時間が減少し、生活家電の需要減少や物価高による耐久消費財の買い控えが見られる一方で、高単価商品の需要増加が示唆されている。特にプレミアム家電や最新技術を搭載した製品への関心が高まっている。
Nintの推計データでも、3大ECモールの流通金額の増加(前年比104.1%)は、平均単価の上昇(前年比105.4%)によるものであり、同様の傾向が確認できる。
売上上位のサブジャンルとしては、生活家電、ゲーム機器、健康家電が挙げられる。詳細データによれば、ワイヤレスイヤホンや多機能プロジェクターが高い売上を記録している。特に音質とノイズキャンセリング機能に優れた白いワイヤレスイヤホンは、消費者から高評価を得ている。健康家電では、筋膜リリースガンや美容機器、スカルプ電気ブラシなど、家庭でのセルフケアを可能にするデバイスが人気を博している。
また、ロボット掃除機や空気清浄機能を備えた家電製品も、衛生意識の高まりを背景に需要は継続中だ。これらの製品は、スマートホーム化の進展とともに需要が拡大している。
■衣類・服装雑貨等
経済産業省の調査によると、「衣類、服装雑貨」分野のBtoC-EC市場規模は約2兆6,712億円で、前年比4.76%の増加を示した。EC化率は22.88%で、物販系の中でも高い水準を維持している。売上の内訳は、アウターウェアが約半分を占め、次いで靴、鞄、宝飾品などの服装雑貨系、インナーウェアが続いている。
2023年は、オムニチャネル戦略の進展、物価高騰、送料の値上げ、コロナ禍からの回復、サステナブルファッションへの関心の高まりなど、多様な環境変化がアパレル・服装雑貨のEC事業者に影響を与えた。特に、リサイクル素材を使用した商品や環境に優しい製品への需要が増加している。
Nintの推計データでは、3大ECモールの流通金額の増加(前年比119.1%)は、数量の上昇(前年比113.9%)によるもので、需要の回復が顕著だ。
ランニングシューズやスニーカーなどの靴、キャリーケースなどの鞄、冬物のジャケットなど、特に男性向け衣類ジャンルが伸長している。詳細データによれば、スポーツメーカーの1万円以上する高機能ランニングシューズが高い売上を記録している。これらの商品は、クッション性や履きやすさといった機能性とスタイリッシュなデザインが消費者の支持を得ている。
■食品、飲料、酒類
経済産業省の調査によると、このジャンルのBtoC-EC市場規模は約2兆9299億円で、前年比6.52%の増加を示した。EC化率は4.29%と他のジャンルに比べて低いものの、ネットスーパーや食品デリバリーサービスの普及により市場は拡大傾向にある。
2023年は、食品を中心に多くの商品で値上げが行なわれ、原材料高やエネルギー価格の高騰、円安が主な要因となった。酒税法改正によりビール系飲料の税率が上がったものの、当社推計データでは9月に大きな駆け込み需要は観察されていない。
Nintの推計データでは、3大ECモールの流通金額の増加(前年比104.6%)は、平均単価の上昇(前年比109.1%)によるもので、数量減を補っている。
詳細データによれば、上位にはミネラルウォーター、お茶、炭酸水などの飲料が多く含まれ、ナショナルブランドのビールも引き続き人気。簡単に調理できる冷凍食品も高い需要があり、有名店の丼ぶりの具材などは忙しい消費者にとって利便性が高いことがレビューから推察できる。
■化粧品、医薬品
経済産業省の調査によると、「化粧品、医薬品」分野のBtoC-EC市場規模は約9709億円で、前年比5.64%の増加を示した。EC化率は8.57%。
2023年は、マスクの規制緩和や新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴う外出機会の増加、越境ECの活性化により、化粧品全般の支出が拡大した。特に、カラーコスメや香水などの需要が回復傾向にある。
医薬品分野では、薬事法改正による一般用医薬品の品目拡大が追い風となった。一方で、マスクや消毒液などの衛生商品の需要減や、法規制の強化、薬価改定など、事業者が直面する課題も多岐にわたる。
例えば、2023年10月に施行された景品表示法によるステルスマーケティング(ステマ)規制の強化により、企業からの利益を隠した口コミ投稿などが規制対象となった。これにより、過去の投稿も含めてコンプライアンス対策が必要となっている。
Nintの推計データでは、3大ECモールの流通金額の増加(前年比104.8%)は、平均単価の上昇(前年比112.4%)によるもので、数量減を補っている。
詳細データによれば、外出需要の増加により使い捨てコンタクトレンズが上位にランクイン。さまざまなバリエーションの商品が売れ筋となっており、ユーザーのライフスタイルに合わせた選択肢が増えている。
■生活雑貨、家具、インテリア
経済産業省の調査によると、このジャンルのBtoC-EC市場規模は約2兆4721億円で、前年比5.01%の増加となった。EC化率は31.54%で、高い水準を維持している。
2023年は、日本の年平均気温が過去最高を記録し、猛暑日の増加により冷感寝具や冷却効果のある商品の需要が高まった。加えて、在宅勤務の定着により、ホームオフィス向けの家具やインテリア商品の需要も引き続き高水準を維持している。
サブスクリプションモデルの浸透により、洗剤やトイレットペーパーなどの日用品を定期的に配送するサービスも普及してきた。これにより、消費者は日常生活の利便性を高めている。
一方、家具などの耐久財については、コロナ禍で多くの消費者が購入を行なったため、今後数年間は需要の停滞が予想される。これらの商品の買い替え需要が発生するまでには通常数年を要するため、市場全体の成長に影響を与える可能性がある。
Nintの推計データでは、3大ECモールの流通金額の増加(前年比105.3%)は、数量の増加(前年比105.4%)によるもので、平均単価は若干の減少(前年比99.0%)となっている。
詳細データによれば、大容量および高機能の洗剤・柔軟剤が上位に含まれている。外出需要の増加に伴う洗濯頻度と量の増加、抗菌や消臭などの付加価値ニーズが反映されている。