レイオフは、欧米企業によく見られる雇用調整方法です。リストラと似ていますが、再雇用が約束されています。レイオフの本質を理解すれば、企業経営や雇用調整の実態がより明確になるでしょう。
目次
レイオフとは?意味と目的を理解しよう
近年、海外の大手企業を中心に『レイオフ』が頻繁に報じられるようになりました。日本では『リストラ』という言葉の方がなじみ深いかもしれません。企業はなぜレイオフを選択するのでしょうか?まずは、言葉の意味と目的を理解しましょう。
■レイオフの定義
レイオフとは、企業が業績不振や事業規模の縮小などを理由に従業員を一時的に解雇することを指します。アメリカやカナダなどの企業によく見られる雇用調整方法の一つで、日本ではほとんど実施されていないのが現状です。
通常の解雇との違いは、再雇用が約束されている点です。企業の業績不振が理由の場合、業績が回復したタイミングで、従業員は再び雇用されます。
再雇用される前提であっても、転職活動は自由に行えます。一時的に収入は途絶えますが、従業員にとっては今の働き方を見直す良い機会になるでしょう。
■企業がレイオフを実施する目的
企業がレイオフを実施する主な目的は、『人的コストの削減』と『人材・ノウハウの保持』です。
業績悪化時、一時的に従業員を解雇することで大幅な経費削減を図ります。限りある資金を事業に集中投下できるため、業績回復のスピードアップがかなうのです。
また、従業員に再雇用を約束することで、長年育成してきた優秀な人材や企業独自のノウハウが競合他社に流出するリスクを抑えられます。人材の採用コストや人材育成のコストが削減できるのも大きなメリットです。
短期的な経営改善と長期的な競争力維持を両立させる、戦略的な施策といえるでしょう。
リストラとレイオフの違いを比較
企業の雇用調整において、リストラとレイオフは異なる特徴を持つ施策です。両者の違いを理解することは、現代の労働環境を把握する上で重要です。
■リストラクチャリングの意味と目的
最初に、リストラの正しい意味を確認しましょう。正式名称は『リストラクチャリング(restructuring)』で、企業の経営資源を再構築する取り組みを指します。
本来は、事業の再編成や組織の効率化を目的としていましたが、日本ではリストラという略語が『人員削減』の意味で使われることが多くなりました。
この認識の変化は、1990年代のバブル崩壊後に多くの企業が業績悪化に直面し、従業員の解雇を余儀なくされたことに起因します。
本来のリストラクチャリングは、『事業の選択と集中』『組織構造の見直し』『業務プロセスの改善』といった幅広い施策を含む包括的な経営戦略です。
企業が持続的な成長を実現するためには、環境変化に応じた柔軟な組織改革が不可欠であり、リストラクチャリングはその重要な手段の一つといえるでしょう。
■レイオフとリストラの主な違い
どちらも企業の人員削減を伴う施策ですが、その目的や実施方法には大きな違いがあります。レイオフは一時的な解雇を意味し、将来的な再雇用を条件としています。一方、リストラは恒久的な人員削減が目的であり、再雇用の可能性は低いのが特徴です。
レイオフは主に欧米企業で多く見られ、景気変動に応じて柔軟に人員を調整する手段として活用されています。対象者の選定も、勤続年数の短い従業員から行われることが多いでしょう。
リストラの場合、年齢や勤続年数の長い従業員が対象となりやすく、人件費の大幅な削減につながります。
■従業員と企業への影響
レイオフとリストラは、従業員と企業双方への影響も異なります。従業員にとって、レイオフは一時的な収入の途絶えを意味しますが、再雇用の可能性があるため、生活基盤を完全に失うリスクは比較的低いといえるでしょう。
一方、リストラは再雇用の見込みがほとんどなく、転職を余儀なくされます。自分に合う勤め先がすぐに見つかるとは限らず、経済的・精神的負担が重くのしかかるのが実情です。
レイオフの場合、企業側は、優秀な人材を維持しつつ人件費を抑制できます。リストラは人材の損失というデメリットがある上、実施に伴う退職金や訴訟リスクも考慮しなければなりません。
日本と海外のレイオフ事情
企業の雇用調整手段として世界各国で実施されているレイオフですが、その実態は国・地域によって異なります。特に、アメリカと日本では、レイオフに対する考え方や実施状況に顕著な違いが見られます。両国の状況を比較することで、その実態をより深く理解できるでしょう。
■アメリカの企業に見るレイオフの実態
アメリカでは、2022年から2023年にかけてレイオフが相次ぎました。その背景には、世界的な景気後退やコロナ禍のIT特需の終焉などがあるようです。
レイオフの規模は企業によって異なります。世界的な大企業では、数千人から数万人規模に及ぶケースも珍しくありません。2022年には、アメリカのIT企業・X社(旧Twitter社)において、起業家のイーロン・マスク氏による大規模な人員削減が行われました。
Instagramを運営するMeta社も、2022年に全従業員の13%を集団解雇したのに引き続き、2023年には1万人以上のレイオフに踏み切っています。
これらの動きは中小企業にも波及し、さらに金融業界にも拡大しています。アメリカのIT企業におけるレイオフは、経済状況や業界動向に合わせた雇用調整の一形態として定着しつつあるようです。
■日本におけるレイオフの実態
日本では、欧米企業と比較してレイオフの実施が進んでいません。その背景には、日本特有の雇用慣行や法制度が影響しています。
長期雇用を前提とした日本型経営では、従業員を固定費と捉え、景気変動時も雇用維持を重視してきました。労働者保護の観点から、整理解雇に関する厳しい法的規制が敷かれているため、労働契約の解除が容易ではないのです。
しかし、グローバル競争の激化や労働市場の流動化に伴い、日本企業の雇用調整のあり方も見直しを迫られつつあります。
日本ではレイオフの代わりに『一時帰休』が実施されるケースがあります。雇用関係を維持したまま、一時的に従業員を休業させる措置で、平均賃金の60%以上の給与を支払うことが条件です。
日本における解雇の種類と法的保護
日本にはレイオフに関する法律はありませんが、『解雇』に関する厳格な規定が設けられています。解雇の種類や従業員の法的保護のルールを確認しましょう。
■日本の労働法における解雇の分類
『解雇』とは、従業員の同意を得ず、企業側が一方的に雇用契約を終了させることです。日本の法律では、解雇を以下の3種類に分類しています。
普通解雇:労働者の能力不足や勤務態度不良などを理由とする解雇
整理解雇:経営上の理由による人員削減を目的とした解雇
懲戒解雇:労働者の重大な非違行為に対する制裁としての解雇
中でも、整理解雇は企業側の事情によるものであり、労働者に非がありません。『人員削減の必要性』『解雇回避努力』『人員選定の合理性』『解雇手続きの妥当性』を満たせなければ、解雇は困難です。
■解雇規制と従業員の法的保護
解雇は従業員の生活に大きな影響を与えます。労働基準法は、解雇権の濫用を防止するための規定であり、企業には慎重な対応と法的根拠に基づいた判断が求められます。
労働契約法第16条によると、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効です。期間の定めのある労働契約(有期労働契約)の場合は、やむを得ない事由がない限り、期間中の解雇は認められません。
解雇に際し、30日前の予告か解雇予告手当の支払いを行うのがルールです。男女雇用機会均等法の第9条では、性別を理由とする解雇が禁止されています。例えば、婚姻したことを理由に女性従業員を解雇する行為は違法です。
出典:労働契約法 第3章 第16条|e-Gov 法令検索
出典:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 第2章 第9条| e-Gov 法令検索
■国内での雇用調整の事例
日本企業における雇用調整の事例として、クックパッド株式会社が挙げられます。グループ全社における経営体制を強化するため、2023年6月に人員削減を行うことを発表しました。
国内では退職勧奨の形を取り、海外子会社では解雇を実施するという対応の違いが見られましたが、これは日本の厳格な解雇規制を反映しています。
退職勧奨とは、従業員との合意によって雇用契約を終了させることです。解雇の要件に該当しない従業員を辞めさせる場合、解雇ではなく退職勧奨が選択される傾向があります。