
急速な少子高齢化により、生産年齢人口の減少が深刻な課題となっている日本。本記事では、生産年齢人口の定義や将来の推移予測をもとに、今話題の医療・介護分野における「2025年問題」について解説する。
目次
人口減少社会に突入している日本において、生産年齢人口の維持は喫緊の課題となっている。生産年齢人口は生産活動を支える労働力の中核となる存在であり、国力を維持・発展させるうえで欠かせない。
生産年齢人口の動態は国全体の経済はもちろん、社会保険制度にも影響する。今後の見通しを把握し、どのような影響が考えられるか知っておくことは有意義だ。
今回は、生産年齢人口の見通しや今後考えられる影響などを解説する。
生産年齢人口とは?
生産年齢人口とは、一般的に就労している年齢層であり、経済と社会保障を支えていると考えられる層だ。
日本は少子高齢化が進んでいる関係で、生産年齢人口が減少しつつある。
■生産年齢人口の意味と定義
生産年齢人口とは、15歳から64歳までの人口を指す。法律上働き始めることができる15歳から、年金を受給し始める直前である64歳までは、労働を通じて社会・経済活動を支えている年齢層と考えられている。
労働力として生産活動に貢献することに加えて、経済活動を担うことができる年齢層として定義されている。つまり、生産年齢人口は国の経済力を支える中心的な人口層といえるだろう。
社会保険料を納めて社会保障制度を支えるのはもちろん、税収の主要な担い手としても貴重な存在だ。ただし、昨今は65歳以上でも働き続ける人が増えている関係で、実質的な生産労働人口は変化が生じつつある。
■生産年齢人口はどこで調べられる?
生産年齢人口は複数の公的機関やデータベースで調べることができるが、総務省や内閣府、厚生労働省の資料が用いられることが多い。
地域の人口動態に関しては、自治体のホームページや広報で確認できることもある。自分が知りたい情報に応じて使い分けるとよいだろう。
日本の生産年齢人口の推移と課題
日本は少子高齢化が進展しており、生産年齢人口が減少し、高齢者人口の割合が高まると見込まれている。
社会保険料や税金の担い手が減少し、社会保障給付の受給者となる高齢者が増えると、社会保険制度に悪影響が出るだろう。
以下で、日本の生産年齢人口の推移と課題を解説する。
■日本の生産年齢人口の推移と今後の予測
総務省の資料によると、少子高齢化の進行により日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少している。2050年には5,275万人に減少すると見込まれており、労働力の不足や国内需要の減少による経済規模の縮小などが懸念されている。
また、内閣府の資料によると2065年に生産年齢人口は約4,500万人となる見通しだ。2065年には、老年人口(65歳以上)の割合が約4割に高まる一方で、生産年齢人口の割合は約5割に低下する見通しとなっている。
これにより、労働力不足や社会保障費の負担増加、経済成長への悪影響が懸念される。
政府としても状況を改善する必要性があることを認識しており、女性の労働参加促進や高齢者の就労支援、外国人労働者の受け入れなどを進めている。
※出典:総務省「第1部 特集 情報通信白書刊行から50年~ICTとデジタル経済の変遷~」
■日本の生産年齢人口低下における課題
生産年齢人口が低下し続けると、国そのものの活力が失われてしまうだけでなく、生活のインフラともいえる社会保障制度の悪化が見込まれる。具体的にどのような課題が考えられるか解説する。
課題1:労働力不足
まず考えられる課題が労働力不足だ。生産年齢人口は労働の中核を担う存在である以上、減少してしまうと各企業や行政機関は人手不足に悩むことになる。
ロボットやAIなどを用いて人手不足の悪影響を軽減する方法があるとはいえ、やはりマンパワーが必要になる業務もある。労働力が不足すると生産活動に悪影響を及ぼし、事業活動の縮小や人手不足倒産につながる恐れが考えられる。
また、若手人材が不足することで、社員の年齢構成がいびつになることもあるだろう。その結果、事業承継や後任者探しに悪影響が出ると考えられる。
課題2:社会保障費の負担増加
一般的に、高齢になるほど医療機関を利用する機会が増えるうえに、治療が長期化しやすい。医療費が増大した結果、社会保障費の国民負担が高まる可能性が考えられるだろう。
社会保険制度は相互扶助の仕組みなので、社会保障給付の受給者が増えれば財源が不足する。つまり、現役世代の負担や自己負担額の増加という形で、跳ね返ってくると考えられるだろう。
課題3:社会保障給付の縮小
生産年齢人口の減少に伴って社会保険料収入や税収が減り、さらに受給者が増えると社会保障給付の縮小につながる。負担者が減っている一方で受給者が増えると、社会保険制度を維持するためには、給付の減少という形で対応せざるを得ない。
具体的には、年金額の減少や医療費の上限拡大という形で、社会保障給付の縮小が行われている。
このように、今後の日本の人口動態を考えると「負担は増えるが給付は減る」という流れは変わらないだろう。
医療・看護の生産年齢人口の課題は「2025年問題」
医療や看護の世界では人手不足の状況が続いており、しかも「2025年問題」への対応を迫られている。
具体的に、2025年問題が医療・看護の世界へもたらす影響について解説する。
■医療・看護業界における2025年問題とは
「2025年問題」とは、2025年に人口の約30%が65歳以上となる事態を指す。高齢化社会がさらに進み、医療費や介護費の増大、医療業界における労働力の不足により適切な医療サービスを受けられない可能性がある。
さらに、2040年には第二次ベビーブームに生まれた団塊ジュニア世代が65歳以上となり、65歳以上の高齢者が人口の約35%を占めると見込まれている(2040年問題)。
一般的に、高齢になるほど慢性疾患の患者数が増加して医療の需要が高まるが、それに対応するための人材が不足するとどうなるだろうか。
医療サービスの提供が滞り、過疎地をはじめとした地域では十分な医療が受けられなくなる事態が生じかねない。
※出典:日本財団「労働力不足、医療人材不足、社会保障費の増大——間近に迫る「2025年問題」とは?」
■他業界も知っておくべき医療・看護業界の2025年問題の政府の取り組み
適切な医療サービスを提供できないのは、国として大きな問題だ。医療・看護業界や政府は、2025年問題に対応するために以下のような取り組みを行っている。
- 地域医療構想の推進
- 予防医療の強化
- 健康寿命を延ばすための取り組み「スマート・ライフ・プロジェクト(SLP)」の推進
- 地域ごとの医療需要に応じた体制整備
- 医療機関の機能分担と連携強化
- 地域包括ケアシステムの構築
- 介護予防・フレイル対策の推進
- 医療・介護人材の確保・育成
- 医療・介護人材の処遇改善
- 外国人材の受け入れ促進
- 医療のデジタル化推進
- オンライン診療・電子カルテの拡充
地域医療構想とは、地域ごとに適した医療体制を作るための取り組みだ。医療機関ごとに「高度急性期・急性期・回復期・慢性期」の4つの医療機能で区分して、役割を明確化させたうえで地域内での連携を強化することを目的としている。
地域ごとに過剰な病床機能を減らして不足している病床数を増やす再配置を行い、医療資源の最適な配分を行っている。健康寿命を延ばして医療機関を受診する期間を減らすことも、有意義な取り組みだろう。
医療業界内で環境変化も起こっている。
例えば、人手不足による労働力をカバーするために、ICTの導入やオンライン診療の活用が進んでいる。業務の効率化と医療の質の向上が期待されており、今後ますますICT化は進んでいくだろう。
リモートモニタリング技術が発達すれば、患者の健康状態をリアルタイムで監視できる。患者自身も医療機関へ足を運ぶ負担を軽減できるメリットを享受できる。
このように、労働力不足をカバーするためのICT導入は、医療業界以外でもすべての業界で推進すべき動きといえるだろう。
まとめ
生産労働人口が減少している日本では、経済の縮小や社会保険制度への悪影響が懸念されている。その結果、負担増と給付減が同時に進んでいくと考えられるだろう。
具体的には、受給できる年金額の減少や医療費負担の増加が挙げられる。また、医療・看護業界の人手不足により、医療サービスの提供に悪影響が出る事態も起こりうるだろう。
ただし、政府や医療業界では2025年問題に対応するための取り組みを進めている。業界全体で効率よくサービスを提供するための環境を整備したり、ICT化を進めたりするための取り組みは、どの業界でも参考になるだろう。
※本記事で紹介した数字に関して、最新の統計では異なっている可能性があります。
文/柴田充輝
厚生労働省、保険業界、不動産業界での勤務を経て独立。FP1級、社会保険労務士、行政書士、宅建士などの資格を保有しており、特に家計の見直しや資産運用のアドバイスのほか、金融メディアで1000記事以上の執筆を手掛けている。