
嘱託職員という言葉を耳にすることはあっても、その意味や他の雇用形態との違いについてはあまり詳しくない方も多いだろう。嘱託職員は、正社員とは異なる特徴を持つ有期契約社員であり、専門スキルを持つ人材や定年後の再雇用など、さまざまな場面で活用されている。この記事では、嘱託職員の基本的な意味から、正社員やアルバイト、業務委託との違いまでをわかりやすく解説する。
目次
嘱託職員(社員)とは雇用形態の1つで、期間の定めのある契約(有期労働契約)で働く非正規職員のことだ。求人サイトなどで見たことがある方もいるだろう。では、他の働き方と何が違うのだろうか?
この記事では、嘱託職員の意味から、正社員や公務員、アルバイト・パート、業務委託との違いまで、できるだけわかりやすく簡単に解説する。
嘱託職員とは
はじめに、嘱託職員の意味を確認しよう。
■嘱託職員の意味
「嘱託職員」とは、正社員やアルバイト・パートといった雇用形態の1つである。多くは有期労働契約の非正規の職員だ。
じつは、嘱託職員には法律上、明確な定義はない。そのため、同じ「嘱託」でも、会社ごとに働き方は異なる。
また、常勤と非常勤があり、常勤では、正社員と同等、もしくは似た勤務形態で、非常勤では正社員より労働日数や労働時間が短く設定される傾向にある。
■嘱託職員が配置される企業・団体と活用シーン
嘱託職員は、民間企業だけでなく、社会福祉協議会など各種団体、さらに警視庁や地方自治体など官公庁でも活用されている。
(※社会福祉協議会とは、高齢者や障がい者の見守り活動、介護・生活支援サービスなどの地域福祉活動を担う民間法人のこと。)
活用シーンは、主に次の2パターンに分けられる。
①特定の専門的スキルを持つ人材を、期間限定で雇用する。
②定年退職した社員を再雇用する。
以下で具体例を挙げよう。
民間企業の例
- 専門的なスキルを持つプログラマーを、特定のシステム導入のため雇用。(①に該当、以下同様)
- 特殊な業務分野におけるスキルとリーダーシップを兼ね備えた人材を、新規プロジェクトのマネージャーとして雇用。(①)
- 業界の第一人者など専門的知識と業務経験を持つ実務家を、非常勤の講師として大学や専門学校で雇用。(①)
- 企業を定年退職した社員を、労働時間と労働日数、給与など、正社員と異なる労働条件で再雇用。(②)
社会福祉協議会の例
- 介護福祉士の有資格者を、デイサービスセンターの生活相談員として雇用。(①)
- ボランティア活動のサポート経験など専門的なスキルと業務経験を持つ人材を、ボランティアコーディネーターとして雇用。(①)
警視庁の例
- 調理師または栄養士の有資格者を、栄養面の総合管理、食材の一元的管理などを行う「警備補給支援員」として雇用。(①)
その他、警視庁はじめ全国の交番では、現役を退職した警察官OBが、嘱託の「交番相談員」として活躍している例もある。
ちなみに、テレビ朝日系列のドラマ『相棒』において、主人公の1人「杉下右京」警部の初代相棒「亀山薫」巡査部長は、5代目相棒として警視庁特命係に復帰した際、当初は嘱託職員として雇用されていた。
地方自治体の例
- 薬剤師免許を持つ人材を、市立病院の薬剤師として雇用。(①)
なお、地方自治体では、特定の資格やスキルを問われない事務や受付業務で活用される場合もある。
- 窓⼝応対と電話応対、パソコンの基本操作ができ、誠実に業務に取り組める人材を、区役所のマイナンバーカード交付事務関連職として雇用。
嘱託職員と正社員・公務員・アルバイト・パート・業務委託の違い
次に、嘱託職員(社員)と正社員など他の働き方の違いを見ていこう。
■嘱託職員と正社員の違い
嘱託職員と正社員の違いとして大きな点は、雇用期間に定めがあるかどうかだ。通常、正社員には雇用期間の定めがないのに対して、嘱託職員には雇用期間の定めがある。
また、一般的に正社員はフルタイム勤務だが、嘱託職員は、正社員より勤務時間や勤務日数が少ないことも多く、よりフレキシブルな働き方が可能だ。その分、契約が更新されない可能性があるという、不安定な側面もある。
■民間の嘱託職員と公務員の嘱託職員の違い
常勤やフルタイムもある民間の嘱託職員に対して、公務員の嘱託職員は、非常勤で短時間勤務、雇用期間3年程度といったケースが比較的多いようだ。ただ、官公庁によって、労働条件は大きく異なっている。
なお、市役所など地方公務員では、常勤職員との待遇差や多様な働き方のニーズに応えるため、2020年から「会計年度任用職員制度」という新たな制度が導入された。
これにより、手当や昇給の面で常勤職員との差の解消が図られ、フルタイムでの任用が可能であることも法律上明確に規定された。
さらに、育児休業についても、一定の条件を満たせば会計年度任用職員にも適用されるなど、現在、常勤職員との待遇差は埋まりつつあるといえよう。
■嘱託職員とアルバイト・パートの違い
嘱託職員もアルバイト・パートも、同じ有期労働契約だが、一般的に、嘱託職員は月給制が多く、アルバイト・パートは時給制が多い。
■嘱託職員と業務委託の違い
業務委託(フリーランス)とは、発注者である企業と「業務委託契約」を結び、仕事の成果や役務の対価として報酬を得る働き方である。
企業の指揮命令を受けないため、仕事をする場所や時間、仕事の仕方などの自由度が高い半面、「個人事業主」として、労働基準法など各種労働法の保護を受けることができない。
一方、企業と「雇用契約」を結ぶ嘱託職員は労働者となるので、正社員やアルバイト・パートと同じく、労働法で保護されている。つまり、最低賃金や割増賃金など賃金に一定の保障があり、有給休暇や育児・介護休業も条件を満たせば取得可能ということだ。
このように、企業と「雇用契約」を結ぶ労働者として各種労働法の対象になるかどうか、この点が、嘱託職員と業務委託の大きな違いといえるだろう。
なお、フリーランスと企業など発注事業者の間の取引の適正化、フリーランスの就業環境の整備を内容とした「フリーランス・事業者間取引適正化等法」が2024年11月に施行されるなど、現在、業務委託(フリーランス)の待遇改善のための法整備が進み始めている。
※出典:厚生労働省「フリーランスに関する新しい法律が11月にスタート!」
まとめ
嘱託職員とは、非常勤で働く有期労働契約の社員を指し、専門的スキルを持った人材を期間限定で雇用するケース、定年を迎えた社員を労働条件を変更して再雇用するケースなどで、民間だけでなく公務員でも活用されてきた。
他の雇用形態とも様々な違いがある。たとえば、正社員とは雇用期間の定めの有無、アルバイト・パートとは給与形態が異なる。さらに、昨今、注目されることも多い業務委託(フリーランス)とは、企業との雇用契約及び労働法の保護の有無が大きな違いだ。
それぞれの違いに注意して、自分の仕事人生に最適な働き方を選びたい。
文/木戸史(きどふみ)
立命館大学文学部卒業後、営業、事務職、編集アシスタントなどを経て、社会保険労務士事務所で社労士として勤務。現在はライターとして活動しており、社労士として多くの中小企業に携わった経験を生かし、ビジネスマンに役立つ法律知識をできるだけわかりやすく発信している。