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「いただけますでしょうか」は間違いであると言われることもある敬語表現だ。ビジネスシーンで使われることの多い言い回しであるため、正しい言葉なのか気になっている人も多いだろう。
この記事では、「いただけますでしょうか」が正しい敬語であるのかについて解説していく。「いただけますでしょうか」の言い換え言葉や、ビジネスシーンにおける使い方についても紹介するので、参考にしていただきたい。
「いただけますでしょうか」は二重敬語?言葉の意味とは
結論からいうと、「いただけますでしょうか」という言葉は正しい敬語である。
「いただけますでしょうか」が間違いではないことを確認するために、まずは主な敬語の種類である尊敬語・謙譲語・丁寧語の3つについて定義を確認していこう。
・尊敬語
主語が相手である場合に、相手の行動や状態などを丁寧な言葉で表現することで、相手を立てる敬語。
(例)
行く → 行かれる、いらっしゃる
言う → おっしゃる
食べる → 召し上がる
・謙譲語
主語や自分または自分の身内である場合に、自分がへりくだることで、相手を立てる敬語。
(例)
食べる → いただく、頂戴する
言う → 申し上げる、申し上げます
知る → 存じている、存じ上げる
・丁寧語
相手を問わず、丁寧な言葉遣いをすることで相手に敬意を表すために使われる敬語。
(例)
行く → 行きます
言う → 言います
食べる → 食べます
上記を踏まえて「いただけますでしょうか」という表現について考えてみよう。「いただけますでしょうか」を品詞の単位で分解すると、「いただけ」「ます」「でしょう」「か」という形に分けることができる。
「いただけ」は「(~して)もらう」の謙譲語「(~して)いただく」であり、そこに丁寧語の「ます」が続いている。さらに、助動詞の「だろう」の丁寧語となる「でしょう」に、疑問の助詞「か」が付いた形である。したがって、「いただけますでしょうか」は「(〜して)もらえるだろうか」を丁寧にした表現であり、正しい敬語表現であるということがわかる。
「いただけますでしょうか」をビジネスで使うのは正しい?
「いただけますでしょうか」は正しい敬語であることから、ビジネスで使うにもふさわしい表現であるといえる。
特に、敬意を払うべき相手に何かを依頼する際に、使われることの多い言葉である。ここでは、「いただけますでしょうか」のよくある使用例と、使うべきシーン、使わない方が良いシーンなどについて解説していく。
●「いただけますでしょうか」のビジネスシーンでよくある使用例
まずは、「いただけますでしょうか」のビジネスシーンでよくみられる使用例を3つ紹介していこう。
・ご確認いただけますでしょうか。
「ご確認いただけますでしょうか」は、相手に何かを確認してほしい時に使う敬語である。
(例)
顧客に対して:「契約書の内容に誤りがないか、ご確認いただけますでしょうか」
上司に対して:「見積に問題がないか、ご確認いただけますでしょうか」
・ご教示いただけますでしょうか。
「ご教示いただけますでしょうか」は、相手から何かを教わりたいときや、説明を受けたいときに使う言葉となる。
(例)
社外の人に対して:「御社のサービスの料金体系について、ご教示いただけますでしょうか」
上司に対して:「この業務の手順について、ご教示いただけますでしょうか」
・ご連絡いただけますでしょうか。
「ご連絡いただけますでしょうか」は、相手になんらかの要件で連絡をして欲しい時に使う表現だ。
(例)
取引先に対して:「納期について、今週中にご連絡いただけますでしょうか」
上司に対して:「会議の出欠席について、ご連絡いただけますでしょうか」
●「いただけますでしょうか」が間違いと言われる理由
「いただけますでしょうか」が間違いだと言われる理由として、二重敬語のように感じられるという点がある。二重敬語とは、ひとつの言葉に同じ種類の敬語を2つ以上使うことを指す。二重敬語の代表例は「お読みになられる」のような「お~なる」+「れる」という表現だ。これは、「読む」という言葉を「お読みになる」という尊敬語にした上で、さらに「れる」という尊敬語を加えているため、二重敬語にあたる。他にも、「拝見させていただく」のように、「謙譲語+させていただく」という表現も二重敬語だ。これは「させていただく」は「させてもらう」の謙譲語表現であるため、謙譲語を2回重ねてしまっていることが理由である。
一方、ひとつの言葉に同じ種類の敬語を使わなければ二重敬語にはあたらない。例えば、謙譲語である「拝見」に「します」という丁寧語を重ねた「拝見します」は正しい敬語表現となる。
二重敬語の定義を踏まえて「いただけますでしょうか」が二重敬語にあたるのか確認してみよう。文の中で重複して使われているのは丁寧語の「ます」と「でしょ(う)」となるが、「いただけます」は「いただく」、「でしょうか」は「だろうか」という別々の言葉であるため、二重敬語にはあたらないのである。
●結論!いただけますでしょうかを使うべきシーンと使わない方が良いシーン
前項で説明した通り、「いただけますでしょうか」は二重敬語ではない。しかし、「いただけますでしょうか」に違和感を覚える人も一定数いるため、むやみに使わない方がよいこともある。「いただけますでしょうか」を使うべきシーンと使わない方が良いシーンについて、具体例を交えながら説明しよう。
・「いただけますでしょうか」を使うべきシーン
ビジネスシーンで相手にお願いや依頼をする場合は、「いただけますでしょうか」を使うべきであるといえるだろう。「お時間をいただけますでしょうか」のように上司に時間の融通を依頼する場合や、「資料をご確認いただけますでしょうか」と顧客に内容の確認を求める場合などは、「いただけますでしょうか」を使うことがふさわしいといえる。
・「いただけますでしょうか」を使わない方が良いシーン
相手に指示をするシーンでは、「いただけますでしょうか」を使わない方がよい。例えば、「資料作成を今日中に終わらせていただけますでしょうか」など、やや命令的なニュアンスが含まれる場合には、使用を避けた方がいいだろう。
「いただけますでしょうか」の言い換え表現とより丁寧な言い方とは
「いただけますでしょうか」という言葉を使用してよいのか迷う場合には、言い換え表現やより丁寧な言い方を使うのがおすすめだ。ここでは、「いただけますでしょうか」の言い換えに使える表現を紹介していく。
●「いただけますでしょうか」の言い換え表現
「いただけますでしょうか」の言い換え表現の代表的な3つの例を、それぞれの使い方とともに説明していこう。
・いただけますか
「いただけますか」は、謙譲語の「いただく」に丁寧語の「ます」が続いたシンプルな表現である。「いただけますでしょうか」と比較するとすっきりした印象の敬語だが、丁寧な表現であることに変わりはない。「いただけますでしょうか」と同様に、依頼や確認をするときに使いやすい言葉である。
(例)
取引先に対して:「御社の契約プランについて、ご教示いただけますか」
社内の人に対して:「セミナーの出席について、メールでご連絡いただけますか」
・くださいますか
「くださいますか」は「くださる」という尊敬語に、丁寧語の「ます」が付いた敬語表現である。「くださる」は、相手から進んで何かを与えてくれる、というニュアンスを含む言葉であるため、「いただけますでしょうか」と同じ意味を持ちつつ、相手を立てる言い回しとなる。
(例)
上司に対して:「このファイルを確認してくださいますか」
顧客に対して:「イベントの日程が決まり次第、お知らせくださいますか」
・願えますか
「願えますか」は、「願う」という言葉に丁寧語の「ます」が続く言葉である。「願う」という表現を使うことで、相手に強くお願いをしたい場合や、より謙虚な態度を示すときに使える表現だ。
(例)
社内の別部署の人に対して:「担当者に日程変更の件、お伝え願えますか」
顧客に対して:「先日のプレゼンの感想について、お聞かせ願えますか」
●より丁寧な言い換え表現
「いただけますでしょうか」という言葉は、「~してほしい」という内容を、「でしょうか」という疑問形を使うことによって丁寧にした言葉だ。「でしょうか」の部分を言い換えることで、より丁寧な言い換え表現にすることもできる。実例について紹介しよう。
・いただけますと幸いです
「幸いです」は、「~していただけるとありがたいです」という内容をさらに丁寧にした表現であるため、「いただけますと幸いです」という言葉にすると、より丁寧なニュアンスとなる。
(例)
取引先に対して:「送付した資料について、ご確認いただけますと幸いです」
上司に対して:「明日の会議の出欠席について、ご連絡いただけますと幸いです」
・いただきたく存じます
「存じます」は「思います」の謙譲語であり、自身の考えや思いをへりくだって伝える敬語表現である。そのため、「いただきたく存じます」というという言い換えは、改まって依頼事項などを伝える際に、より丁寧な表現として使うことができる。
(例)
取引先に対して:「来週のセミナーにお伺いさせていただきたく存じます」
社内の別部署の人に対して:「来週、お打ち合わせの時間をいただきたく存じます」
「いただきたく存じます」については、「いただく」という表現を「賜る」に変えることで、「賜りたく存じます」とすることもできる。さらに丁寧な表現として覚えておくとよいだろう。
まとめ
この記事で解説してきたように「いただけますでしょうか」というのは正しい敬語である。しかし、やや回りくどい言い方にも感じられるため、二重敬語であると感じる人がいることも事実だ。
ビジネスの場で使いやすい表現ではあるが、相手と自分の立場や、前後の文脈も踏まえ、必要に応じて言い換え表現などを取り入れていくのがよいだろう。
文/羽守ゆき
慶應義塾大学を卒業後、大手IT企業に就職。システム開発、営業を経て、企業のデータ活用を支援するITコンサルタントとして10年超のキャリアを積む。官公庁、金融、メディア、メーカー、小売など携わったプロジェクトは多岐にわたる。現在もITコンサルタントに従事するかたわら、ライターとして活動中。