サプライヤーの定義から選定ポイント、管理方法などを紹介します。サプライチェーンに登場する、ベンダーやメーカーといった他の用語との違いもチェックしましょう。
目次
サプライヤーの定義と役割
サプライヤーは、さまざまな企業がビジネスを成り立たせる上で欠かせない、重要なパートナーです。まずは、サプライヤーの定義や役割について見ていきましょう。
■原材料や資材などの提供者
サプライヤーとは、英語の『supply』を語源とする言葉で、企業が活動するために必要となる原材料などを提供する『売り手』のことを指します。
仕入れ先や納品業者と呼ばれることもあり、企業の生産・販売活動を支える重要な存在です。ただし、提供するものは物品だけに限りません。業界によっては、企業活動に必要なサービスを提供する業者もサプライヤーと呼ばれます。
仕入れ先や納品業者の選定・管理は、企業の競争力に直結する重要な課題です。適切に選定・管理を行うことにより、調達コストの削減や安定供給の確保、新技術の導入などが可能になります。
■サプライチェーンにおける位置付け
サプライチェーンとは、原材料の調達から製品が消費者に届くまでの、一連の流れのことをいいます。サプライヤーは、この一連の流れの出発点に位置する存在です。
サプライヤーが提供する素材や部品は、製造業者により組み立てられ、完成品として最終的に消費者の手元に届きます。サプライヤーが、安定的に高品質な素材・部品を提供することで、製造業者は質の高い製品を生産し、顧客に価値を提供できるのです。
似ている用語との違い
サプライヤーと混同されがちな用語についても、確認しておきましょう。ここでは、サプライチェーンにおいてよく聞かれる、三つの用語との違いを詳しく解説します。
■ベンダーとの違い
ベンダーは、売ることに特化した企業のことを指します。『売り手』という意味では同じですが、販売する相手がエンドユーザーという点が大きな違いです。
例えば、自動車産業では、メーカーが製造した自動車を消費者に販売する自動車ディーラーが、ベンダーになります。食品業界では、コンビニ・スーパーなどの小売店がベンダーです。
ベンダーは、サプライチェーンの下流に位置し、最終顧客とつながる役割を担っています。
■メーカーとの違い
メーカーとは、納品業者から供給された部品・原材料を組み立てて、完成品を製造する企業のことを指します。サプライヤーの中にも、部品などを製造して供給する企業はありますが、一般的にはメーカーとは呼びません。
消費者に提供する製品そのものを製造する企業を、メーカーと呼びます。自動車業界の例でいうと、エンジン・タイヤなどの部品を調達し、それらを組み立てて自動車を完成させるのがメーカーです。
ただし、完成した自動車を販売店などに提供する場合、メーカーは販売店にとってのサプライヤーという位置付けになります。
■バイヤーとの違い
バイヤーとは、英語の『buyer』が語源で、製品・サービスを購入する企業を指す言葉です。
例えば、製造業界では部品を調達するメーカーや、メーカーが製造した完成品を購入する企業が、バイヤーに当たります。部品・完成品にかかわらず、シンプルに『購入する側』のことだと考えてよいでしょう。
また、業界によっては、市場調査・商品の価格交渉・販売管理などを行う職種を、バイヤーと呼ぶことがあります。この場合、企業の利益に大きく関わることもあるので、交渉力や分析力のほかに、商品知識などのスキルが求められます。
業界別に見るサプライヤーの違い
どのような企業がサプライヤーになるのかは、業界によって大きく異なります。ここでは、主に三つの業界を例に挙げて、それぞれの違いを確認しましょう。
■製造業界におけるサプライヤー
製造業界でのサプライヤーの役割は、製品の製造に不可欠な原材料の提供です。メーカーの調達・購買部門と密接に連携し、製品の仕様や製造計画に基づいて必要な資材を提供します。
同じ製品であっても、販売する国・地域によって、供給する部品の基準が異なるケースもあるでしょう。また、メーカー側は素材・部品ごとに、異なる業者から供給を受けるケースがほとんどです。
なお、サプライヤーが部品を加工するために必要な原材料を仕入れる場合、その仕入れ先の業者もサプライヤーになります。
■建設業界におけるサプライヤー
建設業界では、作業の工程ごとにサプライヤーが存在するのが特徴です。一般的には、建物の完成に必要な建材を供給する業者を指しますが、元請け会社に工事の実務を提供する下請け業者も含まれます。
さらに、各下請け業者の下には、より専門的な孫請け業者・材料供給会社が連なり、複雑なサプライチェーンを形成しています。この重層構造は、建設業界特有の専門性の高さや、厳格な法規制によって生まれるものです。
各工程に特化した専門知識・技術を持つサプライヤーが連携することで、高品質で効率的な建設が可能となっています。
■IT業界におけるサプライヤー
IT業界におけるサプライヤーは、ソフトウエア開発やシステム構築において、重要な役割を果たします。特徴的なのは、多重下請け構造を持つことです。
クライアントから受注した元請け企業が、プロジェクト全体や機能ごとに分割した業務を二次請け企業に発注し、さらに三次・四次と連鎖することがあります。
IT業界では、サプライヤーを『ベンダー』と呼ぶことも多く、双方の役割を併せ持つ企業が存在するのも特徴です。IT業界は、技術革新のスピードが速いため、サプライヤーにも常にスキルアップが求められます。
サプライヤーの選定ポイント
サプライヤーを選ぶ際は、さまざまな要素から総合的に判断することが大切です。サプライヤー選定のときに、特に注目すべき四つのポイントについて詳しく解説します。
■品質と価格のバランス
まず、品質と価格のバランスを確認することが重要です。高品質な製品・サービスを求めるほど、コストは上昇しがちです。一方で、単に安価なものを選ぶと、品質・納期の問題が生じる可能性もあります。
そのため、サプライヤーの品質管理体制を確認するほか、サンプル品を取り寄せて仕様・基準を満たしているか見極めることが大切です。
コスト面では、単純な価格比較ではなく、運送費・関税なども含めて判断します。コスト削減への取り組み姿勢や、長期的な取引による価格交渉の可能性も、考慮に入れることがポイントです。
■納期の安定性や柔軟性
納期の安定性や柔軟性は、生産計画・在庫管理に大きな影響を与えるため、選定の際にも重要になるポイントです。納期順守率や遅延頻度などを客観的に評価することで、安定した部品供給を確保できます。
評価方法としては、過去の実績や他社からの評判だけでなく、サプライヤーの生産能力や設備、リスクマネジメント体制も確認することが効果的です。
また、柔軟性も重要です。市場の需要変動や、予期せぬトラブルに対応できるサプライヤーを選ぶことで、自社の生産計画に支障を来すリスクの軽減が可能になります。
■新しい技術への取り組み
サプライヤーの技術力は、製品の品質向上や生産効率の改善につながります。例えば、自動車業界では、電気自動車や自動運転技術など、時代のニーズに対応できるサプライヤーの選定が重要です。
新技術への取り組みを評価する際は、研究開発投資の規模や特許取得数、業界展示会への参加状況などを確認します。また、AIなどの先端技術の導入状況も、評価する際の参考となるでしょう。
現時点で新技術を導入していない状況でも、ニーズに応じてノウハウを取り入れる積極的な姿勢のあるサプライヤーを選ぶことが、将来的な自社の成長につながります。
■長期的な安定性
長期的に安定した供給が可能かどうかを、確認することも大切です。そのため、経営状況の確認も重要な評価ポイントになります。
万一、何かしらの問題を抱えているサプライヤーと契約してしまうと、自社の生産計画にも影響を及ぼすためです。最悪の場合、倒産・廃業による供給停止で、生産ラインが止まってしまう可能性もあるでしょう。
そのような事態を防ぐには、決算書を見て財務状況を確認するほか、担当者が頻繁に変わっていないかなど、内部の様子についてもチェックしておくことが必要です。