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「公平な手段・支援で多様性を強みに変える」デロイト トーマツが取り組むウェルビーイング経営のしくみとしかけ

2024.11.15

働く人々が自分の価値を発揮できるよう、「ウェルビーイング経営」を取り入れる企業が増えている。監査や保証、税務や法務、コンサルティングの分野で社会や経営課題の解決を支援するプロフェッショナルグループであり、国内約30都市に約2万人のプロフェッショナルを抱えているデロイト トーマツ グループは、「Diversity, Equity & Inclusion(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン※多様性、公平、包括)」という考え方に基づき、ダイバーシティ観点からのウェルビーイング施策を行っている。

デロイト トーマツのDiversity, Equity & Inclusion

一人ひとりが自分の価値を発揮でき、「ちがい」(多様性・ダイバーシティ)を強みにするべく、「公平な手段・支援(エクイティ)」を提供することで、それぞれの「機会が平等になる(インクルージョン)」ように環境や風土を整備している。

デロイト トーマツが考える「平等」と「公平」

今回はデロイト トーマツ グループ合同会社・Diversity, Equity & Inclusionマネジャーの高畑有未さんと細江充さんにインタビュー(所属は24年10月時点)。中編では、ダイバーシティ観点でのウェルビーイング施策を行う上での「しくみ」と「しかけ」について紹介する。

前編はこちら

デロイトトーマツが考えるウェルビーイング経営とは?エクイティで提供する「機会の平等」

昨今、人々が“より良い状態”で過ごす「ウェルビーイング」の考え方が広まりつつある。従業員の働き方や健康を考える「ウェルビーイング経営」を取り入れる企業も増えてい...

「エクイティ」が特に重要な多様な属性・特性

Diversity, Equity & Inclusionマネジャーの細江充さんと高畑有未さん(左から)

DIME WELLBEING(以下・D):「エクイティ=公平な手段・支援」は、どのように考慮すべきでしょうか。

高畑さん(以下、高畑):デロイト トーマツでは、現在の組織や社会の状況を踏まえ、特に5つの属性・特性を注力領域としてエクイティを推進しています。「ジェンダー」「性的指向・性自認」「民族・文化」「能力・特性」「ライフスタイル」です。

デロイト トーマツが考えるエクイティの5つの観点

『エクイティ観点での取り組み』としては、例えば生理休暇や、更年期休暇などはジェンダー領域に該当しますし、LGBT+当事者をはじめとする、性的指向や性自認においてマイノリティ性があるメンバーや、多様な民族や文化的背景をもつメンバー観点でも、あらゆる取り組みを推進しています。また、これまでの表現である“Disabilities(障がい)”ではなく、“Abilities(能力)”にフォーカスし、“Diverse Abilities(ダイバース・アビリティ:能力や特性の多様性)”という考え方から、さまざまな業務でプロフェッショナルとして活躍できるようなエクイティ観点での取り組みを実行しています。ライフスタイル領域は、例えば介護や育児など、ライフ面での多様性を想定しています。

D: 5つの属性・特性への注力はどのように決まったのですか。

高畑:当初は女性活躍推進や、育児や介護などとの両立課題対応などから始めました。「仕事とパーソナルな生活をどう両立するか」「会社がどのように支援し、サステナブルに働いてもらうか」を考えていました。当時はまだ「ダイバーシティ=育児や介護を担う女性への支援」という観点が強かったのです。

しかしその後の取り組みの発展過程において、「ダイバーシティのスコープに多様性が必要」という意識になりました。2017年~18年頃には当事者のカミングアウトがきっかけとなり、「性的指向、性自認」におけるマイノリティであるLGBT+領域に、ほぼゼロベースから取り組みました。

またデロイト トーマツはインターナショナルなバックグラウンドを持っているメンバーが増えている一方、例えばプロジェクトによっては「日本語能力が必要」という状況もまだ発生します。言語が理由で、入社後の仕事の幅が狭まってしまったり、日本的な慣習や文化で育っていないことで、自身が思うような価値を発揮できないというようなことにならず、むしろインターナショナルなバックグラウンドを強みにできることを意識した取り組みを継続しています。

また、「障がい」ではなく「能力・特性の多様性/Diverse Abilities」としています。「その人に障がいがあるのではなく、社会や設備に障がいがある」という考え方です。

高畑さん

D:LGBT+当事者観点での施策は当事者のカミングアウトがきっかけとのことですが、どのような課題があったのでしょうか。

高畑:その方はトランスジェンダーで、ずっと自分の性自認を明かせないまま、約10年当グループで勤務していました。

例えば、自分が認識している性別ではない方の服装に身を包み、それにそった口調や表現で会話し、自分が認識している性別ではない方のお手洗いに行かなければいけない。常に「自認していない方の性別を生きている自分」と辻褄を合わせないといけない状態だったそうです。その結果、「自分のフルポテンシャルを出せていなかった」と。

「本当の自分ではない状態」「自分に嘘をついている状態」が当たり前になってしまい、「本来の性別で、ありのままの自分で仕事をして生きていきたい」と、葛藤を経てカミングアウトされました。

「しくみ」を理解してもらうための「しかけ」とボトムアップで学ぶコミュニティ「ERG」

細江さん

D:多様な属性・特性の人に価値を発揮してもらうために、どのような取り組みをしていますか。

細江:こちらの図(写真)では、魚の身を「しくみ」、尾を「しかけ」と分けています。それぞれの領域で「しくみ」、つまり制度や設備などができても、機能するかは別の話です。「しくみ」をうまく使っていくためには、「しかけ」が必要になってきます。

デロイト トーマツが考える「しくみ」と「しかけ」

具体的な「しかけ」は、外部・内部への発信や啓発などです。まずは「しくみ」を知って、理解してもらうことが大事。「なぜこんな取り組みをするのか」「取り組むことで、どんなメリットやインパクトが自分自身や家族、組織や社会のまわりに起きるか」ということを、知ってもらう必要があります。

「しかけ」の中にある「コミュニティ」

また、図の魚の尾の部分に「コミュニティ」とありますが(写真)、「しくみ」を作って情報発信するのがトップダウンだけでは、浸透の幅も腹落ち感も不十分になってしまうことがあります。「ERG(Employee Resource Group/エンプロイー・リソース・グループ)」という、有志のコミュニティを作り、自分達で課題に対する理解を深め、情報を発信していきます。共通の思いやパーパスでつながるメンバー間での対話や協働という意味では、ワーキンググループや、部活のようなニュアンスもあります。

D:現場から発信していくのですね。

細江:例えば「どうやったら育休を取りやすくなるか」などテーマを設定し、忖度なく自分たちの“モヤモヤ”を語り合います。現状は「ジェンダー」「性的指向・性自認」「民族・文化」の観点でERGが活動していて、「Diverse Abilities」領域でも現在本格的に準備中です。

先ほど言及したトランスジェンダー含むLGBT+観点でもERGがあり、当事者やally(アライ/※当事者かどうかに関わらず、LGBT+を理解し支持する立場)を表明している人が参加しています。週1のランチタイムなどを使って、気軽に啓発・発信などができる場となっています。例えばある勉強会では「ジェンダーレストイレ」などの設備について、トランスジェンダー当事者目線での課題や社会的背景など、それぞれが率直な思いを話しました。

非当事者の方が、当事者とのコミュニケーションで「こんなことを話していいのかな」と恐れ、会話しないこともあるので、実際に対話してみることで「正しい知識やリスペクトがあれば大丈夫だな」という感覚も持ってもらえます。ERGにはそういった目的もあります。

「常用の性別」使用や同性婚カップルも対象の福利厚生―デロイト トーマツのLGBT+施策

D:LGBT+の観点での「公平な手段」としてどのような対応がされていますか。

細江:当グループでは「常用の性別」というしくみを導入しています。聞き慣れない言葉ですが、日本は法律上、出生時に「男」か「女」かの性別が割り振られ、それが戸籍や公的な書類に性別として記載されます。しかしその「戸籍上の性別」と「自分が認識している・他者に認識されたい性別」が違う時、それらを一致させるためには外科的な手術をはじめとした法的要件が現状必要になりますが、長期休暇や金銭的な負担、そして心身への大きな負担もありハードルやリスクも高いです。

LGBT+施策

そこでデロイト トーマツでは、「会社の中で認識されたい性別」をシステム上で登録できるようにしました。「戸籍上の性別」と「認識されたい性別」が異なる人は、後者を「常用の性別」として登録します。また、人事の手続き上、必要な人しか戸籍上の性別情報は見られないようにし、基本的には社内で「性別」といえば「常用の性別」をさす旨を、周知・運用しています。「自認する性別」ではなく「常用の性別」としているのは、「自認する性別」の開示(カミングアウト)を会社が求めているわけではないことを強調するためです。

あわせて、性別情報を聞くことのリスクや問題点も常に啓発しています。例えば海外出張に行く時に「パスポート情報を出して」と気軽に指示すると、そこには戸籍上の性別が載っています。このような当事者観点ふくめ、全社必須研修などでもしっかりと周知徹底しています。

ほかにもトイレや更衣室、シャワー室など、オールジェンダーかつアクセシビリティの観点も取り込んだ設備を用意しています。また、当事者の悩みに対して当事者がその目線で相談対応をする専用の社内外窓口なども設けています。

デロイト トーマツの「All Gender だれでもトイレ」

D:「公平な手段」によって、仕事しやすい環境を作っているのですね。

細江:そのほかにも、日本では法律上の同性婚は認められていませんが、同性婚の方も法律婚と同様とするべく社内規定や福利厚生(慶弔金、育児や介護関連休暇)等も整備しています。

D:こうした充実の施策を効果的に行うために、「しくみ」と「しかけ」に力を入れているのですね。

細江:「しかけ」ではメディア・コンテンツやソーシャルインパクトなどの社内外エンゲージメントにも力を入れています。Diversity, Equity & Inclusion関係の施策は関心や関与の度合いが人によって違うため、社内外のあらゆる機会やプラットフォーム、チャネルを通じて啓発することで、社内のエンゲージメント強化はもちろん、社外でのインパクトにつなげることもできます。この観点からも「しくみ」を作りつつ、それを進めていくための推進力となる「しかけ」も作っていくという両面が必要と考えています。

後編では、デロイト トーマツが実施する画期的なダイバーシティ/ウェルビーイング施策―卵子凍結費用補助や、DV被害者支援などについて紹介する。

取材・文/コティマム

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