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デロイトトーマツが考えるウェルビーイング経営とは?エクイティで提供する「機会の平等」

2024.11.14

昨今、人々が“より良い状態”で過ごす「ウェルビーイング」の考え方が広まりつつある。従業員の働き方や健康を考える「ウェルビーイング経営」を取り入れる企業も増えているが、実際に人々が“より良い状態”になるためには、そもそもの「ウェルビーイングの在り方」を定めておく必要がある。

デロイト トーマツ グループは、監査や保証、税務や法務、コンサルティングの分野で社会や経営課題の解決を支援するプロフェッショナルグループであり、国内約30都市に約2万人のプロフェッショナルを抱えている。

デロイト トーマツのDiversity, Equity & Inclusion

デロイト トーマツは「Diversity, Equity & Inclusion(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン※多様性、公平、包括)」という考え方に基づき、ウェルビーイング施策を行っている。その内容は、男性育休推進や育児コンシェルジュの設置、ベビーシッター費用補助など育児と仕事の両立支援はもちろん、オールジェンダー設備や性別適合手術・ホルモン治療時の特別休暇付与、不妊治療・卵子凍結等の生殖医療費用補助、ドメスティック・バイオレンス被害者向け施策など多岐にわたる。従業員が抱えるさまざまな課題を乗り越えるため、デロイト トーマツ独自の取り組みが整っている。

iversity, Equity & Inclusionマネジャーの細江充さんと高畑有未さん(左から)

こうした施策は、どのような考え方から生まれてきたのだろうか。今回はデロイトトーマツ グループ合同会社・Diversity, Equity & Inclusionマネジャーの高畑有未さんと細江充さんにインタビュー(所属は24年10月時点)。前編では、デロイトトーマツによる「ダイバーシティ観点でのウェルビーイング」について紹介する。

Diversity & InclusionからDiversity, “Equity” & Inclusionへ

DIME WELLBEING(以下・D):デロイト トーマツが考える「ウェルビーイング」について教えてください。

高畑さん(以下、高畑): ウェルビーイングの定義はさまざまで、「どの切り口」か、また、「誰にとってのウェルビーイングか」でも違ってきます。私にとってのウェルビーイングと皆さんにとってのウェルビーイングも違いますし、「昨日の私と今日の私」でも「ウェルビーイングな状況」が違ってきます。「特定の誰か」「一定の角度からの定義」で作られた制度や風土は、「本当にみんなにとってのウェルビーイングなのかどうか」を常に深く考え続けていく必要があると思っています。

また、企業や組織でウェルビーイングな取り組みを行うにあたって、「それぞれの構成員1人1人が幸せになればいい」というだけではなく、最終的に個々のウェルビーイングが組織のウェルビーイングにつながり、「サステナブルな成長やその先にある社会の発展」につながっていくことが、目指すべきところだと思っています。組織や社会は構成員が多様ですので、そこにはダイバーシティなどの観点が入っていないと、最終的に目指したいウェルビーイングにならないと考えています。

細江さん(以下、細江):弊社の取り組みの卵子凍結やDV対策は、そのものだけ見ると「なぜこんな方向性でやっているのだろう」と思われるかもしれません。しかし外部の環境は変化しており、多様性やウェルビーイングを全く考慮しない状態で企業経営を続けて行くと、人材を採用する際のハードルは高まっていきます。いろいろな背景・事情をお持ちの方も働ける環境に少しずつシフトしていかないと、ますます多様化する市場や顧客のニーズにも対応できず、企業として経営戦略上成長し続けていくことは難しくなってくる。そういった流れの中で、卵子凍結費用の補助やDV対策にも取り組むようになりました。

D: いつ頃から取り組みを始める土台ができたのでしょうか。

高畑:もともと2016年頃から、「Diversity & Inclusion」の考え方が経営戦略としてありました。その後ウェルビーイングも意識するようになり、「ウェルビーイングとダイバーシティのつながり・観点」を取り入れるようになりました。

これまでも現場レベルでは、マイノリティ属性のメンバーに向けた取り組みなどがありました。当時の経営層が社会変革をリードする上で必要な考え方を深掘りする中で、「ダイバーシティ」の必要性を感じるようになり、経営戦略として取り入れることになりました。「今、何が欠けていて、何をすればいいのか」というところから議論が始まり、チームができて、どんどん大きくなっていく追い風がありました。「Diversity & Inclusion」から、「Diversity, “Equity” & Inclusion」となったのは2022年です。

D:「Diversity & Inclusion」にEquity(エクイティ:公平)が加わったきっかけを教えてください。

高畑:これはあくまでも我々が考える定義ですが、ケーキ作りに例えて説明します(下記写真)。

ダイバーシティの例え:会社の構成員はケーキの材料

ダイバーシティは組織でいうと、多様な構成員や要素がある状態のこと。ケーキでは砂糖や小麦粉などの製菓材料にあたります。ケーキになる前の、「多様で上質な材料」が並んでいる状態です。でもこれを置いておくだけだと、ただ材料がバラバラあるだけで、それ以上でも以下でもありません。

最終的な目標は「ケーキ、つまり『新しい価値』を作ること」です。多様な材料たち(構成員・要素たち)が一緒になることで、新たな価値や今までなかったものにつなげられる。「バラバラだった材料が、おいしいケーキになっている」という状態が「インクルージョン」です。

では、ケーキにするために何が必要か。材料を置いておくだけでも、適当に混ぜ合わせても、ケーキにはなりません。混ぜる順番や焼く温度などが重要です。素材や構成員・要素のそれぞれの良さをいかすための“適切なレシピやプロセス”というのが、「エクイティ」だと考えています

材料を適切なレシピやプロセスで合わせることでケーキになる

D:確かに、ただ混ぜるだけではおいしいケーキはできませんね。

高畑:ダイバーシティ、インクルージョン、エクイティの中で一番大事なのが、エクイティだと思っています。私たちの取り組みも最初は「Diversity & Inclusion」でしたが、ダイバーシティだけでは勝手にインクルージョンにならない。「何が必要なのか」と考え、エクイティにたどり着きました。それが2021~22年頃です。

必要なのはエクイティ―「全員に平等なもの」を提供しても全員の最適解にならない

D:エクイティは「公平」という意味ですが、「平等」とはどう違うのでしょうか。

高畑:弊社は構造的な社会課題の認識として、イクオリティ(平等)だけでなくエクイティ(公平)も追及しています。社会は人で構成されているので、人によって見えている景色と見えてない景色があります。人は自分の立場や、知見や、経験に基づいてしか物事を考えることができないため、“それ以外”の観点は見えていないがゆえに考慮のポイントからはずれてしまう、つまり存在しないものに近しい状態になってしまうのです。

同じ立場や特性・属性の人が集まると、物事を考える際の観点や感じ方の重なりが大きいことから、団結や意思決定はしやすいかもしれません。しかし、「見えていない観点」は見えないままになってしまいます。つまり、「見えないから存在しない」ということになるのです。

D:他の属性の人たちの悩みや課題が分かりづらいのですね。

高畑:こちらの図では、「壁越しに野球の試合を見ている3人」が描かれています(下記写真)

「平等」と「公平」の違い

左の絵では、それぞれに1つの台が与えられています。背が高い人は台があってもなくても試合を見ることができます。中央の人は台が1つあれば見えますが、右側の背の低い人は台1つでは足りません。例えば背の高い人ばかりが集まっていたら、何の工夫もこらさなくても野球が見えるのが当たり前で、それ以外の課題に気づきづらい状態になってしまいます。

逆に中央の人のように、台をもらったことで試合が見えている人だけで世の中の仕組みや制度を作ってしまうと、自分と同じ人たち、平均的な人たち、マジョリティに合わせて、個人の違いを視野に入れずに、「全員に平等なもの」を提供しがちになってしまいます。

全員に1つの台が与えられている=平等

左の絵では、「中央のマジョリティに合わせてワークする(台を1つ提供し、試合を見られるようにする)制度」が実施されている。平均的な人にとっては「台が届いて助かった」と機能することになりますが、背の低い人にとっては何の意味もなさないですし、背の高い人に台は必要ありません。結局、個人の違いを視野に入れずに「全員に平等なもの」を提供しても、全員にとってのウェルビーイングや最適解にはならないのです。

D:よかれと思って全員に同じものを提供しても、本当の意味でのイクオリティ(平等)にはならないのですね。

必要な人に必要な数の台が与えられている=公平

高畑:右の絵は、個人の違いを考慮してそれぞれに「公平な機会」が提供されていることを示しています。これが「エクイティ」です。背の高い人には台はなく、中央の人は台1つ。背の低い人は台2つ。与えられる手段は平等ではありませんが、「公平な手段」を提供することで、「機会が平等」になっています。この右の絵のようにならないと、「野球を見る」というもともともの目的が達成できません。

全員が野球を見ることができて初めて、「どうする?」と次の議論ができるのです。組織なら、「全員がそれぞれの価値を発揮できる状態」「同じ立場に立てた状態」で初めて、どうやって価値を作っていくかの議論ができます。つまり、左の絵のような「平等の機会」だけでは、ウェルビーイングや組織としての価値創造にはつながりません。「ケーキの材料がケーキにならない」と考えています。

D:だからこその「Diversity, Equity & Inclusion」なのですね。

細江:この図で、「野球の試合が見えていること」を仕事に置き換えると、「壁から上の試合が見えている人」の取り組み状況と、「試合が見えてない人」の取り組み状況には差があります。試合が見えてない人は、「仕事がしづらい状況」です。

会社の「仕組み」に当てはめると、例えば有給休暇制度は全員に「平等」に与えられます。しかし、女性特有の身体の事情をふまえて提供される生理休暇は、「公平な」という意味で与えられています。「生理がない人」には与える必要がないけれど、「生理がある人」にはプラスαでお休みが取れる環境を用意することで、「仕事に向き合う環境を同じ状況にする」という取り組みです。

もちろん、実態としては生理休暇も「取りやすいもの」ではないという声も聞きます。「本当に公平な状況はルールや仕組みを作っただけでは実現できない」というのが、エクイティの難しいところでもあります。しかし基本的には、「公平な手段」を提供し「機会が平等になる」という考え方で行っています。

中編ではエクイティが必要な層や、「Diversity, Equity & Inclusion」を推進するためにデロイト トーマツが行っている「しくみ」と「しかけ」について紹介する。

取材・文/コティマム

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