「マネジメント」と「恐怖」の組み合わせにどのような第一印象をお持ちになられましたか?多くの方がネガティブな印象をお持ちになったのではないでしょうか。もちろん、恐怖政治やハラスメントをやれと言っているわけではありません。一方で全くプレッシャーのない(言い換えると恐怖のない)マネジメントで部下は成長するでしょうか?この記事では「恐怖」を正しく理解し、部下の生産性を高めていくマネジメントのポイントを解説します。
1.恐怖とは?
「恐怖」という感情を積極的に感じたい人はほとんどいないと思います。ではなぜ人には「恐怖」という機能が備わっているのでしょうか?
究極的には「死なないため」です。道の向こうから暴走車がご自分に向かってくる場面をイメージしてみてください。怖い・危ないといった恐怖を感じ、危機を回避するための行動を取るはずです。自分が危機に直面したときに恐怖を感じなければ簡単に死んでしまいますね。
人間をはじめとした多くの生き物は恐怖という機能を発達させて生存確率を上げてきました。万人が持つこの機能を正しく理解し、適切に使うことは実は組織マネジメントにおいて重要な要素なのです。もちろん【恐怖政治】をしろと言っているのではありません。
2.「必要な恐怖」と「不必要な恐怖」
危機を回避することにつながる恐怖は「必要な恐怖」として正しく感じる必要があります。一方で、人は本来は感じる必要のないことに対して恐怖を感じてしまう場合があります。例えば、自宅のリビングにいるときに、
■「大きな地震がきた」という事実があり、恐怖を感じて机の下に潜り込むのは「必要な恐怖」を感じて、それを回避するための行動が正しく出来ている状態です。
■「怪獣が出たらどうしよう」と考えリビングの隅っこで震えているのは、起きるはずのない(可能性が極めてゼロに近い)ことに対して恐怖を感じて行動している状態なので、これは「不必要な恐怖」を感じている状態と言えます。傍から見ると「何しているの?」という状態ですよね。
ヒトは物理的な危機(車が突っ込んでくる。柵のない高所で足がすくむ。など)やこれまでの人生経験で慣れ親しんだ事柄に対しては正しく必要な恐怖が発生し、不必要な恐怖が発生することは稀です。ところが、会社や仕事になると途端にこのセンサーが狂い、不必要な恐怖が発生する可能性が高まります。本来、感じる必要のないことに対して恐怖を感じている状態では仕事の生産性や集中力が高まるはずがありません。
3.部下はなぜ不必要な恐怖を感じるのか?
まずは、会社員にとっての必要な恐怖と不必要な恐怖を分類してみましょう。会社員にとっての死とはすなわち、クビになることです。クビになり、生きるための糧を失ってしまっては死に近づくことになります(もちろん、現代社会では様々なセーフティーネットがあるため、クビになっても即時に死ぬことはありませんが、世の中の原理原則として死に近づく事象であるといえます。)。では、この重大な危機を回避するために感じなくてはならない必要な恐怖とはどんなものでしょうか?言い換えると何が出来ていないとクビ(会社から不要と判断される)になってしまいますか?
答えは「会社や上司(自分の評価者)が求めていることが、わかっていない・出来ていないこと」です。これができていないといずれは不要な人材と判断されてしまいます。この点については「ヤバい!」と感じる必要があります。
他方、本来であれば恐怖を感じる必要のない部分に恐怖を感じてしまう場合があります。特に仕事において感じる必要のない恐怖を感じてしまうパータンとして多いのが、期限が来る前に上司や市場の評価が気になってしまうケースです。
・失敗したらどうしよう。
・怒られたくないな。クレームになったらイヤだな。
・周囲から使えないヤツだと思われたくないな。
・未達成の責任を取らされて降格したらイヤだな。
皆さん一度はこのような考え(恐怖)が頭をよぎったことがあるのではないでしょうか。正直に申し上げると私も識学社の社員ですが、上記の考えがよく頭をよぎります。でも、これらは全て感じる必要のない恐怖、つまり誤解・錯覚なのです。
「え、失敗したらクビになる可能性が高まるから、これらは必要な恐怖なんじゃないの?」とお感じになった方もいらっしゃるかもしれません。ここでポイントとなるのは“期限が来る前”に上記のような意識になってしまうという点です。冷静に考えてみてください。上司や市場からの評価というのは「定められた期限と状態」に対して出来た/出来ていないで判断されるものです。その期限がくるまで最終的な評価が下されることはありません。月末の最終営業日1日前までノルマ達成率が0%でも、最終日に逆転サヨナラ満塁ホームランが出て100%達成すれば評価はマルですよね。
また、評価するのはあくまで他者であるということも錯覚しやすいポイントです。「あぁ、コレはクレームになりそうだな。」と思っていても、実際にお客様と話してみたらなんともなかったということもありますよね。
ここまでご説明した事象は会社組織に限らず様々な組織で本当に多発しています。組織あるあると言ってもよいのではないでしょうか。つまり、そのくらい組織の中で不必要な恐怖が発生して、組織の生産性が下がっているということです。マネージャーは部下の不必要な恐怖を最小化するマネジメントをしなくてはなりません。
4.不必要な恐怖を取り除くマネジメント
不必要な恐怖が発生する要因はいくつかありますが、以下の2つは特に注意が必要です。
(1)ゴールが不明確な状態:何を達成すれば評価されるか不明で上司の顔色をうかがっている状態。
(2)個人や部署の役割が不明確な状態:これ誰がやるの?誰かやならなくていいの?という状態。
上記に対する対策は単純明快です。(1)はちゃんとゴールを設定してあげること。(2)は役割(責任範囲と言い換えてもよいです)を明確にしてあげること。を実行してください。ここで注意いただきたいこととして、ゴール設定をする際は部下が達成できるゴールにしてください。明らかに無理な数字目標や現状の戦力で達成できないゴール設定にすると最初から諦めたり、より強く不必要な恐怖を感じたりする場合があります。
また、役割を設定する際もその役割(責任)を果たすために必要な権限をセットにしてください。ちゃんと戦うための武器を渡してあげるイメージです。
まとめ
「恐怖」は一見するとマネジメントには不要、むしろ取り入れてはいけないもののように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。その本質を理解し、必要な恐怖と不必要な恐怖に分解して考えることでマネジメントに必須の要素であることがおわかりいただけたかと思います。死なないために必要な恐怖はしっかりと感じさせ、感じる必要のない不必要な恐怖をゴールと役割を明確化することで最小化する。これがリーダーに求められる恐怖のマネジメントです。
文/高塚勇希