資金繰りに困る小さな存在が何かを始める時の手助けとなる、クラウドファンディング「CAMPFIRE」。家入社長は、その創業を「自分の欠点や心の穴、凸凹は埋めず、世間との差を認めることで見えた事業だった」と、振り返る。
国内最大の支援総額、支援者数、プロジェクト件数を誇るクラウドファンディング「CAMPFIRE」を運営。エンタメから地方創生までオールジャンルを扱う。そのほか、SPA(製造小売)型クラウドファンディング「CAMPFIRE Creation」、継続課金型コミュニティプラットフォーム「CAMPFIRE Community」なども運営する。
今やっている事業は過去の自分への贈り物
──様々な事業を興していますが、どこから着想を得るのですか?
「この時代に」「自分だからやる意味があること」を考えます。私は自分の原体験から事業をスタートさせるタイプなんです。
──家入さんの原体験とは?
中学の時、いじめに遭って学校に行くのが怖くなり、高校を中退した頃から「社会からこぼれ落ちた感覚」を持つようになりました。絵を描き始め、芸術大学に行こうとしましたが受験に遅刻して落ち、同じ頃、父が交通事故に遭って進学は諦めました。絵を発表したくてもギャラリーを借りるのは高額で無理。就職しても、朝「行きたくない」と思うとどうしても行けず、何社もクビになりました。
──厳しい青春でしたね。
ただその頃からネットが普及し、自分の作品を公開すると反響がもらえるなど様々な出会いがあったんです。そんな人とのつながりで私は辛うじて生き延び、Webデザインを請け負い始め、「雇われるのは無理だ」と全財産をはたいて「ロリポップ!」という格安レンタルサーバーの事業を立ち上げたんです。当時の僕にレンタルサーバーは高額に感じたので。
──その後、サーバーの市場価格が下がるほどのインパクトがありましたよね。それが原体験、と。
はい。一方「時代」を見ると、今ネットが様々なことを「民主化」させています。以前はどれだけよい絵や音楽を創っても、何らかの権威に認められなかったら日の目を見ることはなかった。しかし、今はスマホ1台あれば世界に配信できます。
──そんな時代と家入さんの原体験が重なってクラウドファンディングになったわけですね?
はい。CAMPFIREで「こういうものを創りたい」と発信し、共感を得られれば「商品ができたらお送りします」といった約束でお金を集められます。これは「出資を募る」という〝金融の民主化〟だと考えています。今は芸術関連から地方の特産を活かした食品まで様々な事業が掲載され、多くのユーザーが応援したい事業を探してくれています。自分ならではの何かを実現するハードルが一気に下がりますよね。当時の僕なら絶対喜んでいます。
──確かに、この時代に家入さんがやる意味があることですね。
自分のメンタルのリズムを把握して動く
──個人的な習慣も伺わせてください。先の「朝、どうしても行けない」という話、共感する方も多いと思います。今もそうですか?
少し前までですね。例えば講演を頼まれても、当日、家から出られるメンタルじゃなくて「もう2時間前だ」、「ああ、今出ても間に合わない」と……。
でもようやく、そんな自分との付き合い方が理解できてきました。「テンションが高い時に話を引き受け、約束の当日には、テンションが下がって行けなくなる」、このリズムを把握することで、迷惑をかける回数は減りました。
──欠点と上手く付き合う習慣を身に着けたんですね?
はい。欠点は治りません。でも何かを成し遂げる人って、不器用な方が多いのも事実なんです。起業家に限らず、きっとすべての人の心には穴や凸凹があります。これを無理に埋めようとせず、認め、一点突破する力に変えると、その人ならではの魅力に変わります。例えば既存の社会になじめないからこそ、その人にしか見えない何かが見える、とか。
──他の人も真似できるようなおすすめの習慣はありますか?
瞑想です。インドに瞑想の修行に行ったこともあります。
いろんな感情で胸がざわつく時、タクシーの中で5分でもいいから、目を閉じ、ゆっくり鼻から息を吸って口から吐くんです。これを繰り返すだけで「なぜ苛立っているのだろう?」などと自分を冷静に見つめられるようになります。この呼吸法は、寝ている時のものに近いらしく、実践すると、脳や体が「落ち着ける状況だ」と勘違いしてくれるようなんです。
──ここまで話して、家入さんには自他に対する「ゆるし」みたいな優しさを感じます。人と付き合うときの習慣はありますか?
私は「人と人は分かり合うことはない」と思って人と接しています。人間関係には一方向の矢印しか存在しません。例えば信頼している人に単に「信頼してますよ」と言うだけならいいのですが、「だから結果を出してね」とか「だから君も私を信頼して」と言うのは違う。それは相手が持っている矢印です。だから私は、何かギブすることがあっても、そこ止まりでいいと思っています。それでもたまに返ってくるのが人間のおもしろいところです。
──寛容になれる習慣ですね。
実は犯罪をおかした人の本をよく読みます。そのたび、彼らと自分は同じ「人間」なのだと感じます。人は感情に支配される生き物です。食べ物やお金に困った時に目の前にそれがあっても「私は絶対盗まない」と言えるほど人は強いでしょうか。私は自分と他人の間に線を引き「悪い奴」と石を投げることはできません。
──体を動かす習慣などはありますか?
最近、農業を始めています。始めた瞬間、変化がありました。今まで車でスーッと通り過ぎていた畑が「土壌は? 農法は?」と色彩を帯びて自分に飛び込んでくるんです。興味が自分の現実を拡張しているんです。そんな体験がしたくて、医療とか、金融とか、様々な業界の人に毎月300人くらい会って話します。すると向こうの問題を「僕たちITスタートアップならこう解決するけどな」と思って新事業に結びついたり、逆に僕たちが足りない部分が見えたりします。
──最後に伺わせてください。「儲けたい」は家入さんのモチベーションにならないんですか?
いえ、利益を出すのは大切なことです。ただ私は、単に儲かるだけでは事業化できないんです。
例えば日本でスマホゲームが流行る前、その分野の先進国だった中国に視察に行ったことがあります。有名な起業家たちに誘われ私も同行したんです。でも結局私だけ別行動をとりました。ドーナツ屋巡りがしたくなったんです。好物だから、色とりどりの珍しいドーナツを目にして「日本で展開できないかな」と。結局実現せず、その後スマホゲームが爆発的に伸びたのはご存じの通りです(笑)。
でも、そんな私だからできる事業がある、とも思うんですよ。
CAMPFIRE代表取締役
家入一真(いえいり・かずま)
1978年、福岡県生まれ。転職しつつWebデザインを身に付け、2003年にpaperboy&co.(現GMOペパボ)を創業。29歳の時に最年少でジャスダック市場へ上場。2011年にCAMPFIREを創業、以降も連続で起業し2019年には共同創業したBASEがマザーズに上場した。