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近年、企業のマーケティング手法としてTikTokやInstagram Reels、YouTube Shortsなどの「縦型ショートドラマ」が急速に、そして大きく注目を集めています。物語形式の縦型ショートドラマは、ノウハウ次第で“狙ってバズらせる”ことができるので、新しいアプローチで生活者にメッセージを訴求したい企業に人気が高まっているのです。
日本航空(JAL)もこのトレンドに注目し、沖縄離島路線の認知度向上を目指して縦型ショートドラマを活用して、航空券の予約数を最大で400%(※前週比)にまで伸ばしました。
本記事では、JALとの事例の詳細を解説しながら、縦型ショートドラマのマーケティング活用における設計のポイントや効果について、電通グループのデジタル総合エージェンシー「セプテーニ」で同プロジェクトを担当した、縦型ショートドラマの事業プロデューサー・江村雄一と、同じく同プロジェクトを担当したGOKKOを運営する「ごっこ倶楽部」ビジネスプロデューサーの中矢啓樹が解説します。
<JAL縦型ショートドラマの成果サマリー>
※再生回数はJAL自社アカウントでのオーガニック視聴(広告誘導なし)
江村 雄一さん
SepteniJapan株式会社
統合マーケティング本部 シニアチーフディレクター
中矢 啓樹さん
株式会社GOKKO
執行役員
マーケティング手法としての縦型ショートドラマが、企業にもたらす3つの価値とは?
JALの事例について解説する前に、マーケティング手法として「縦型ショートドラマ」が注目される背景についておさらいしておきましょう。
縦型ショートドラマはその「スピード感」と「情報密度の濃さ」から、人気を博していると言えます。タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する傾向にある若い世代にとって、短時間で視聴でき、そして“感動”できるショートドラマは魅力的です。
また、縦型ショートドラマは「ユーザー自身が見たいと思うコンテンツ」としてブランドメッセージを届けられるため、「能動的に見てもらえる広告」として、出稿する企業側にとっても魅力的です。
企業目線のメリットとしては主に次の3点が挙げられます。
・オーガニックな視聴で大量のリーチを得られる
・テレビや動画のCMと比べて長尺でブランドメッセージを訴求できる
・ターゲットに合わせて共感要素を自在に組み込める
また、TikTokは「おすすめ」フィードでの視聴が大半なので、アカウントのフォロワー数にかかわらず、1本の動画だけでもバズを狙えます。
今回ご紹介する事例も、ショートドラマクリエイターのアカウントフォロワー数に頼り、インフルエンサーとして拡散してもらったものではなく、JALの自社アカウントで発信したコンテンツがバズったものです。
こういった背景から、ショートドラマは生活者に対して高いリーチとエンゲージメントを生み出すことが可能なのです。
離島の魅力を伝えたい!JALが抱えていた課題とは?
こうした縦型ショートドラマのメリットを上手に生かし、顧客開拓の成果を上げたのがJALの事例です。
JALと、ショートドラマクリエイター集団「ごっこ倶楽部」、セプテーニによる取り組みでは、沖縄の離島「久米島」の魅力を伝える縦型ショートドラマを制作し、2024年1月に前・後編で公開。投稿後わずか1カ月で、総再生数が2本で1000万回を超えました。
JALが縦型ショートドラマ活用に至った背景には、若年層へのリーチと、久米島路線の予約数が伸び悩んでいるという課題がありました。だからといって、新しいターゲット層に向けてデジタル広告を配信しても、リーチ・コンバージョン(CV)効率ともに伸び悩み、さらに新しい戦術が見当たらないという状況にあったといいます。
なかでも、久米島路線は課題の重要度が特に高い状況でした。同路線はJALの単独路線のため、訪れたい人が増えれば必然的にJALの顧客も増えるはずです。しかし、石垣島など他の離島と比べて旅行先としての認知度が低く、実績が伸び悩んでいました。
そこで、
「広告以外の新しいプロモーション方法を確立したい」
「新しい客層(非会員層や若年層)に刺さる施策を実施したい」
「世間から、楽しい・おもしろいと思ってもらえる施策にしたい」
というニーズから、縦型ショートドラマという手法に至ったのです。
他のコンテンツに付随して受動的に見られる広告と異なり、縦型ショートドラマはユーザー自身が「見たい」と思って能動的に視聴してもらえるオーガニックのコンテンツです。特に若い世代が「楽しい・おもしろい」と感じる施策として、最適な選択だったと考えられます。
加えて、ごっこ倶楽部とセプテーニが手掛けるショートドラマでは、「視聴維持率を高めるための展開」を必ず仕込んでいます。動画の冒頭2秒、5秒、15秒に、
・注意を惹きつける「ヒキ」(開始2秒)
・視聴を定着させる「ツカミ」(開始5秒)
・離脱を低減しフル視聴を最大化させる「畳みかけ」(開始15秒)
といったポイントを盛り込むのです。
こうした再現性の高い「ロジック」をもとにストーリーや動画演出を行なっている点も、JALの課題・ニーズにぴったりだったと言えます。
「旅先あるある」をフックにしたドラマで、久米島の魅力を伝える
今回の取り組みでは、久米島へ旅行するカップルを描いた縦型ショートドラマ(前後編)をTikTokで展開しました。
施策の実施にあたっては、「久米島の魅力を多くの人へ伝える」ことを目的に、以下の主要KPIを設定しました。縦型ショートドラマはJAL公式のTikTokアカウント(オウンド)のみで投稿したため、いずれもオーガニック視聴とそこからの流入を基本とした指標です。
縦型ショートドラマのタイトルは「旅する度」。前後編合わせて4分ほどの作品です。大前提として、商材である久米島そのものの魅力を最大限に描写できる企画・脚本にする必要がありました。
また、JALにブリッジするポイントとして、物語の中にCAさんをキーパーソンとして登場させ、自然な形で良い結末につなげていく役回りを演じてもらいました。
本企画での、“バズらせる”ポイントとして、ストーリーの中心に「旅先での過ごし方の価値観の違い」という、誰もが「あるある」と感じたり、コメントしたくなったりするテーマを据えることにしました。このテーマによって、いいねやフル視聴、一人が複数回コメントするといったエンゲージメントの最大化を狙ったのです。
XとTikTokでフォロワーを“送りあう”認知施策と、プレゼントキャンペーンが相乗効果を生みだす
縦型ショートドラマの展開と併せて、「認知」と「購買」それぞれの目的に沿った2パターンのキャンペーンを実施しました。
一つは、キャンペーン自体を認知してもらうための「オープンキャンペーン」。もう一つは、購買につなげるための「マストバイキャンペーン」です。
「認知」を目的としたオープンキャンペーンでは、ショートドラマの投稿と同時にドラマの内容に関するクイズを、自社Xとキャンペーンサイトを通して出題。そしてクイズへの回答の投稿とともに、指定のハッシュタグを記載した引用リポストとフォローを行うことで、久米島往復航空券が当たるキャンペーンを用意しました。
TikTokでおすすめに流れてきたショートドラマを目にしたユーザーは、キャンペーンの存在を知りXに流入します。一方で、Xの既存フォロワーがクイズに答えるにはTikTokで縦型ショートドラマを全編視聴する必要があります。XとTikTokで相互にフォロワーを送りあう仕組みを目指したのです。
このキャンペーンにより、今回のターゲットとなるJAL非会員・若年層にアプローチする狙いを果たせました。
<クイズの一例>
こうして広げた認知を、購買にしっかりつなげる目的で実施したのが、マストバイキャンペーンです。久米島路線の往復航空券を購入した人の中から抽選で、縦型ショートドラマの主人公2人が巡った久米島の旅行プランをそのまま体験できるセットをプレゼントしました。
公式TikTokのフォロワーが1日で約9000人増加し、KPIも大幅に上回る成果を達成
以上の施策により、本キャンペーンは、定性・定量的ともに期待を大きく上回る成果を達成できました。
定性的な成果としては、TikTok上で視聴者からの多くのポジティブコメントを得られたことなどが挙げられます。また、物語中にCAさんを登場させたことで、JALブランドの描写もしっかりと行うことができました。
定量的な成果としては、想定以上に縦型ショートドラマ動画が「バズった」ことを起点に、KPIを大きく上回る結果となりました。
※2024年4月搭乗分で2.5倍、6月搭乗分では4倍
その他、キャンペーン参加者のうち若年層や非会員の比率が、過去施策と比較し大きく増加。若年層比率では10%、非会員比率も8%増加しました。
さらには、アカウントのフォロワー数が動画投稿から1日で約9000人増加するなど、売上向上やリーチといった単一効果では測れないような複合的成果を得ることができたのも、本施策の特筆すべき点です。
こうした成果を達成できたポイントは、JALが企業の「言いたいこと」をそのままドラマにせずに、ユーザーが「見たくなる」作品をつくることを最優先して制作したことにあるでしょう。縦型ショートドラマ制作の専門家である「ごっこ倶楽部」に設計を一任したことで、ユーザーが共感する面白いストーリーができあがり、その上に久米島の魅力と、JALブランドの要素をなじませることができました。
その結果、縦型ショートドラマの成功をコアに、ドラマ連動クイズキャンペーンと、自社TikTok・Xの連携が奏功したと言えます。
JAL社内の評価も上昇!縦型ショートドラマのマーケティング活用の可能性を実感
JAL社内でも今回のキャンペーン成果は、高く評価されました。実施前は縦型ショートドラマの効果に懐疑的だった社内メンバーもいたそうですが、今回の取り組みと結果を目の当たりにして、風向きが大きく変わっているといいます。
担当者のもとには、「自社アカウントでの運用のため掲載期間が限定されておらず、オウンドで動画が回り続けるのでコスパがいい」といった気づきや、「今後の参考にしたいので施策の詳細を共有してほしい」といった要望が寄せられているそうです。すでに、縦型ショートドラマを活用した新たなキャンペーンも企画中です。
こういった縦型ショートドラマの成功事例は増えており、市場全体が盛り上がっています。Z世代に向けたアプローチや、共感マーケティングを探っている企業には最適な手段だと言えるでしょう。
セプテーニおよび電通グループ各社では、縦型ショートドラマの制作とマーケティング活用をサポートしているので、興味のある方はぜひ、お気軽にご相談ください。
※こちらの記事はウェブ電通報からの転載記事になります